8・おっさんは新たな目標を立てる
「さすがだな、ダイキ。この時期に本当に岩鎧亀を狩って来るとは」
なぜか受付の青年もおっさんの報告に驚いているが、それも仕方がない。たしかにおっさんの昇級はほぼ確定しているが、今回はあくまで「出来たら」と言った程度の内容であり、すでに角兎狩りの成果で十分だった。
その上、おっさんは自身のチート能力に頼らずとも弓士と槍使い、魔法使いの三人パーティが効率的にウサギを狩る方法も考案し、自身のタネとはせずに公開している。この事も大きく評価された要因だった。
おっさんからすれば定期的なウサギ肉の確保には自分だけが狩るのでは無理があると考え、補完可能な狩り方を思案していた結果なのだが。
さて、今回の指名依頼は実際のところ違約金の発生しない依頼だったので成功する必要はなかった。それどころか、秋から初春にかけては狩れない事がギルドでも常識で、冬季のカメ狩りはよほどの熟練者による技巧か、さもなければよほどの奇跡的めぐり合わせのなせる業となる。が、おっさんは自分のスキルであれば冬でも狩れることを受付に告げ、それがまた驚きを誘う事になった。
「そうか、召喚者だったな。しかし、あまり軽々にカメを狩るのは止してくれよ?値崩れしたんじゃギルドも困る」
と、受付の青年も本音半分、冗談半分で答えることになった。
「ああ、それもそうだな。ウサギも他の連中でも狩れるようになったし、少し抑えようか」
と返すおっさん。
そんな事があっておっさんは晴れて銅級へと昇級し、他の街や村などへ出向く依頼も可能となった。
しかし、王都以外での依頼は狩猟よりも討伐がメインとなる。
王都近郊は冒険者だけでなく、王国の騎士や兵士も魔物討伐を行う事で危険性は低いが、ギルドが構える様な街や村というのは、つまり冒険者の仕事が溢れる場所。
王都や主要都市の様に万を超える平民を抱えた大都市ならば狩猟だけでやっていけるが、地方の街やそれこそ大した兵力も持たない地方領主が治める村ともなると、狩猟は村人が自ら行い生活を支え、それでは手に余る部分をギルドに外注する様になる。
「地方の支店や提携ギルドで討伐依頼を受けるのもありかもしれないな」
受付やエミリーの説明からそう思い至ったおっさん。何より異世界に来たのだから、ラノベの様な冒険がしてみたい!と、年甲斐もなく思っていたのである。
エミリーのイチオシは開拓ギルドが運営する開拓村での討伐だった。
稼ぎが良いのもさることながら、何より信用度に反映され易い。エミリーもおっさんから医学知識に基いた身体強化方法を教えられ、黄色メダル冒険者としては頭一つ抜けた存在感を示していた。ただ、おっさんの側に居るので突出した成果はなく、黄銅級に昇級出来てはいなかったが。
「なるほど、開拓村か、面白そうだな」
おっさんも乗り気である。
「ただし、開拓村へ向かう馬車は冬の間は出ないので、春までに歩いて行ける範囲にある村を拠点に討伐に慣れておきましょう」
そう言うエミリーに従い、おっさんは王都から徒歩で向かえる村での討伐依頼を受ける事にした。
「銅級に上がっていきなり討伐ね。やる気があって良いけど、無理はしないようにね」
今日は青年と交代で受付にいる女性がそう気を使ってくれる事を快く思いながら、おっさんとエミリーは村を目指した。
「東征村か」
おっさんは村の名前が安直だなと感じたが、そう言えば地球でもそんな感じの都市があった様なと記憶を辿が思い出せなかった。同じく「東方を征服するための街」、ウラジオストクの事なのだが。
「この村はお城を中心に栄える村ですよ。まずはここを起点に開拓が行われているんです」
というエミリーの説明に感心するおっさん。
村とは言うが、実際には城塞都市を中心にしたかなりの規模を持っている。
では、なぜ村なのか?
城塞を任された初代貴族が「魔物喰らい」の冒険者を嫌って城塞の外に拠点を構えさせた結果、城塞の東に更に出城の様に冒険者の村が発展したからだという。
今では村と呼ぶには大きすぎる規模だが、城塞側との格もあって村のままとされている。(いわゆる始まりの街って感じか)と、おっさんは理解していた。
その通りに、各地の開拓村へはここから向かう事になるので間違いではない。
実際の依頼先は更に別の村。少し北に行った場所だという。
翌日、その村へと向かったのだが、昼を過ぎた頃に魔物と遭遇する事になってしまった。
時折おっさんが望遠と熱感知のスキルで周囲を見回していて発見したのだが、薄っすら積もる雪の中では、普通に見ても分からないほどだった。
「何かな居るな。犬?いや、オオカミか?」
そうつぶやいたおっさんの言葉に反応したエミリーが俄に警戒を強める。
「氷風狼でしょうか。冬は白い毛で姿を隠して獲物に近づき、吹雪で視界を閉ざしてから襲い掛かる厄介な魔物です」
との説明に、厄介すぎるとゲンナリしたおっさんだった。
まだ500メートル以上の距離がある。肉眼では見えないし、望遠に熱感知を重ねてようやく姿が判る様な奴だ。
おっさんはコンパウンドボウを創り出し、こちらへ近づく一頭に狙いを定めて矢を放った。
反応はしたようだが、避ける事は不可能。更に別の狼へ矢を放ち、倒す。
すると流石に異変を察知した残る四頭は散開をはじめる。どうやら逃げるのではなく襲って来る態勢だと肩を落としながらも、更に一頭を倒したところで狼達が走り出した。
更に二頭は倒せたが、一頭は無傷で迫り、周りに吹雪が吹き荒れ視界を奪われてしまった。
だが、おっさんは熱感知で狼を追い続けており、襲いかかろうとジャンプしたところを射抜いた。
「なんとかなったな」
おっさんはホッと息を吐き、周囲を見回すが、他に狼はいないらしい。
「ダ、ダイキさん、凄いです!」
キラキラした目で褒めてくるエミリーに照れながら、倒した狼を巾着へと収納して回った。流石にエミリーも狼の解体は経験がないらしく、村へ着いてギルドに任せた方が良いと言った。
「普通は氷風狼は複数パーティで挑むものなんです。この辺りは定期的な巡回と討伐が行われて安全なはずなんですが」
と、少々不安げなエミリー。
おっさんは一対多の場合にもっと効率よく倒す手立てが無いかと頭を巡らせる。(マシンガンみたいな速射が出来たらイケるか?)と、新たな目標がたったのだった。