74・おっさんは切り替える
「どうしてこうなった・・・・・・」
その日、おっさんは馬車と言うには手狭で二輪のチャリオットにしがみついていた。
掃討に出た方が良いという話をサンポとした後、責任者にもその話を持ち込んだ。
そこまではおっさんも考えていた事なので問題はない。
その後、大所帯の責任者は幹部たちと会議を開くと言ってその場を去ったおっさんは砦周辺の片づけに参加し、時折襲い来るオーガを倒していた。
多くのオ―ガは村人や騎士によって肉になる物は持ち帰り、そうでないものはウロコのみを剥がし集められ、カズキが穴を掘って埋設していく。
以前は砦の壁を築くことが優先され、気が付いたらオオカミが現れる様になったのでほとんど放置であったらしい。
今回はおっさんたちがオーガを食料にすると言って実際に食べた者たちには好評であったことから食肉確保に多くの村人や騎士も参加し、オオカミが追い払われたことで余裕を持って埋葬まで行えている。
カズキのクリエイトスキルは土を掘って埋め戻すという単純作業をやっているように見えて、実は地中の岩塩層を採取してオーガを埋めている。こうすることで保存に必要な塩の確保と不要な死骸の埋葬を同時にやっている訳だ。おっさんからすれば羨む様な万能スキルである。
「3キロ先のオーガを正確に狙って倒すとか、おっさんの魔弓も明らかにチートでしょ」
と、首狩りを続けるキャリーに睨まれながら、あまり自覚がないおっさん。
5日ほどそんな事をして過ごしていると、ようやく会議を終えた責任者たち一行がおっさんパーティに掃討の話を持って来た。
「え?俺も行くの?」
そう驚くおっさん。
「いや、言い出しっぺが行かなくてどうすんの!」
キャリーがそう突っ込む。
そうしておっさんパーティと騎兵10騎でもってパッと行ってサッと帰って来る事に決まった。
おっさんたちが乗るのは速度が出せる様に作られている丈夫なチャリオットであり、一台当たり3人が乗れる仕様となっていた。内ひとりは馬を操る必要があるので乗客2名なので、3台がバリスタを取り外して使用されることとなった。
チャリオットの乗り心地は非常に悪い。
そもそも戦闘用のため、馬車の様な快適性や輸送性など考慮されておらず、砦を出発して程なく、おっさんは後悔する事になったのである。
あまりの揺れの酷さにしがみついているのがやっとのおっさん。
「必要になったらゆっくり走らせるさ」
御者をやっている騎士がそんな事を言うが、当人が持っているのはエアーライフルと槍である。おっさんと乗り込んだエミリーも愛用の槍とエアーライフルの二刀流。チャリオットだから出来る技だろうとおっさんは納得した。ふと他のチャリオットを見回せば、悠然と構えているサンポの姿が目に入り、さすがだなと感じ入るのだった。
そして少し進めば遠巻きに砦を囲むオーガに出会い、槍を持ったエミリーやコータ、御者たちによって出合い頭に倒されていく。
ダメージが少なかったものはチャリオットの脚を緩めて足場が安定したところでおっさんやヘタが倒す。サンポはあまり効いていないがエアーライフルを撃っている。悠然と構えている割に、やっている事がおかしなサンポを見やるおっさん。
「何、この弾なら効果はあるさ」
気付いたサンポがそう言うが、目つぶし程度の効果しか見受けられず、それに倣うように撃つエミリーの銃の威力の方が明らかに高かった。もちろん、的確に目を狙い撃つサンポの技量は凄いのだが。
一角を崩した一行はそのまま盛り土のある東へと足を止めることなく進み、追いすがるオーガを倒しながら東へと突き進んでいった。
疲れを知らない馬型魔物に曳かれたチャリオットの上で何とか飲み物を飲み、ちょっと塩気が強い肉を挟んだ昼食を食べ、容赦なく胃をシャッフルされながら突き進んだ昼下がり、何とか盛り土のある地点へと到達した。
盛り土はおおむね2メートルほどに積まれ、オーガ一体か二体が収まる程度の穴が掘られカマクラ状に設えられていた。
「オーガの寝床って感じだな」
それを観察する面々はそこからの眺めに驚きを隠せなかった。
「湿地帯か?」
幅百メートルはあるだろうか、青々とした草や幹の太い低木が生える光景が眼前に広がっている。
塔から見えた盛り土はごく一部であり、多少川の流れで削られたのだろう川筋の中心へとなだらかに降る斜面に無数のカマクラが広がり、ここがオーガたちの住処となっていたことが窺えた。
ただ、見える範囲には僅かな魔物、それもかなり小型のモノしか見当たらず、粗方食い散らかした後ではないかと思われた。
「この辺りは春から夏の初めごろにかけて増水するから村を作るには向いていないと言っていたな」
そんな説明をする騎士。
たしかに増水期と農作業を行う期間が重なる様では住むには不適だとおっさんも思った。これがもし、晩秋から冬の時季に増水するのであれば、春から秋口にかけては農地に適していたのかもしれないのだが。
ふとおっさんは思う。
この川がきっと北方を流れていたあの川であり、地平線の先で南へ流れを変え、この景色を作り出しているだろうと。
ふと南を見れば、東へと流れを変えながら同じような光景が地平線まで続いている。北を見ても同じような光景で、ここが最も西へ湾曲しているようにおもわれた。
川の東は荒涼とした岩場が広がっており、地平線の位置がわずかに高く感じるおっさんだが、それが実際の高さなのか目の錯覚かまでは判然としない。
「連中は川を上るようにやって来たという事で良いんだろうか」
おっさんがそんな疑問を口にする。
「もっと南へ行けばさらにオーガが居るかもしれないな」
サンポも同意するようにそう言って来るが、今の装備で南下する時間はないし、砦の人数や備蓄を考えてもそんな探索を行う余裕まではなさそうだなとおっさんは思考を切り替える。
「ああ、そうかもしれんが、今の俺たちには探索に向かう準備も余裕もない」
時間が限られている事もあり、おっさんたちと騎兵は周辺の捜索を行うとすぐさま砦へと取って返した。




