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73・おっさんは眺める

 そこからしばらく様子を窺い、逃げ出す個体をおっさんが仕留め、争う個体をサンポとヘタ、そして月明りを頼りに、バリスタもいくつか稼働していた。


「そろそろここは任せて下へ降りるか」


 オーガがかなり減った頃合いを見計らってサンポがそう言い出し、おっさんもそれに同意し、あとを砦の兵士に任せて塔を降りるふたり。


 下へ降りるとちょうど外へ打って出る準備が行われ、キョーコやコータ、キャリーも甲冑を着込んで準備をしていた。

 おっさんも急いで準備をしている間に門が開いて討伐隊が外へと向かい、おっさんは後から追いかける様に飛び出していった。

 そこはオーガの死体がおびただしく横たわる場所なのだが、月明りが頼りのためほとんど色が失われているのであまり凄惨さは感じないおっさん。 


 どうやら遠くで争うオーガに対してまだバリスタが攻撃を加えているらしく、壁の上から時折音が鳴る。

 そして、ライフル兵も外へ出て来ており、銃声も聞こえてくる。


 そんな中を歩くおっさんは、やや遠くを走るオーガを度々狙っているが、もう元気なオーガの多くは逃げ去ったようだった。


「よっしゃー!、精肉ゲット!!」


 そんなキャリーの声が聞こえた方を見れば、オーガの首を切り落としているキャリーと首のないオーガを袋へと仕舞うコータの姿があった。

 傷ついたオーガの首を次々切り落とすキャリーの喜々とした顔は、首狩り族か戦国武将である。言葉はスーパーで商品を手にしたか、テレビ撮影でお宝を手にした芸能人だが、やってることは首狩りである。一緒に居るショーコが引いているのが分かったおっさん。


「ダイキさん、気を抜いていると危ないですよ」


 そう言ってやって来たエミリーが、おっさんへと手を伸ばそうとしたオーガの喉元へと銃剣を挿し込んでいた。


「ああ、済まない」


 おっさんはそう言って息のあるオーガへとトドメを刺し、血抜きをして収納する。実のところ、やっている事はキャリーと大差ない。


 ふと見れば、キョーコはカズキを連れだしているらしく、オーガで試し撃ちをやっている。その後はキャリーと同じく血抜きをして収納である。


 おっさんパーティの面々がそんな事をやっている姿に砦の面々は不思議そうな顔を向けるが、何かを問うてくることは無かった。


 しばらく砦近傍での掃討を行っていた面々は砦からの指示で帰還する。


「はぁ?鎧馬が食えるだと?!」


 騎士が驚きの声を上げるが、事実、拠点ではサンポの指導の下で解体し、実際に食べている。


「鳥肉みたいなもんだ。なかなかウマいぞ」


 サンポが堂々とそう言えば、騎士達は尻込みし、村人は興味をひかれたらしい。


 こんな開拓地までやって来る騎士だけあって、魔物を全く受け付けないという事ではないらしいが、ついさっきまで争っていた相手を口にする事には抵抗があるらしい。


 ただ、口にできる肉と言えば魔物であった村人からすれば、冒険者並みに抵抗感がないらしく、興味津々なのも頷ける。


 そして、マジックバックから取り出したオーガの解体実演をし、可食部分を切り分けていくサンポ。


「生じゃそう長くは持たない。塩水に漬けて燻して干すのが手っ取り早いだろうな」


 そう村人たちに指示を出し、キョーコやコータも解体をはじめる。


「え?カオリ、マジやんの?」


 キャリーが喜々としてオーガを切刻む横でショーコが顔を引きつらせながらそんな事を言う。


「え、何が?けっこうウマいんだよ、これ!」


 キャリーはショーコの意図が理解できずに切り分けた肉を見せびらかしているが、ショーコは顔を引きつらせながら笑うのみ。


 キョーコの隣で青い顔をしたカズキの姿もあり、城に残った面々がこういうことを経験せずにここまで連れて来られたことを実感するおっさんだった。


 もう夜だというのに村人だけではなく、騎士まで手伝っての燻製肉作りの仕込みが夜明け近くまで続くことになった。


 翌朝はソバ粥を食べて床に就く者が多く、おっさんもそのひとりだった。


 おっさんが目覚めたのは昼頃、肉の仕込みを行った者たちが徐々に起き出してくる頃を見計らって食事が用意されており、そこにはおいしそうに肉を食べるショーコの姿もあった。


「なにこれ。塩だけなのにこんなにウマいの?これ」


 食べた反応はキャリーとよく似ており、もはやあの引きつった顔は見受けられず、その後に喜々としてオーガを解体するショーコを見かけたおっさん。


「え?動いてないんだからもう肉でしょ!」


 ちょっと切り替えの早さについて行けないおっさんである。


 食事を終えたおっさんは塔へと登る。


 そこから見る景色は一面のオーガの死骸。流石にまだオオカミは戻って来ていないらしいが、どうにか片付けが出来ないんのかと考えていると、食糧にならない分はカズキが穴を掘って処理するらしいという話を伝令から聞くこととなった。


「そのためにも安全かどうかの確認は必要だな」


 そう思ったおっさんが遠見で周囲を見回せば、オオカミを貪り食うオーガの小さな群れが幾つか見える。

 さらに東へと逃げていったであろう個体が少し離れて砦を窺っている姿も目に入る。どちらもおっさんの弓ですら届かない距離のため、塔の上から何かできる訳でもない。


 ふと下を見れば、キョーコとカズキがオーガに向けて銃を撃っていた。新鮮な死体に対してもしっかり効果が出る新たな弾丸を開発したらしく、しばらく見ていれば弾の先の方にのみ鉄を用い、その大半をオーガのウロコで作り出しているのが見えた。


「もう上がっていたのか」


 そんな事をしているとサンポが現れ、辺りを見回した。


「アイツらはオオカミを追いかけてあちこちへ散らばりそうだな。数が10やそこらなら、王国の冒険者なら何とかするだろう」


 どこか他人事な事を言うサンポ。


 確かに広範囲に散らばった群れを追いかけて討つのは大変だし現実的ではない。その点では、出会ってしまった冒険者の健闘を祈るしかない事には同意するしかないおっさんだった。


「東へ逃げたアイツらが遠巻きにこちらを見ているという事は、東へ帰っても仲間の群れはもう居ないって事なんだろうな」


 と考察するサンポ。


「それならあの盛り土辺りまで出張って掃討するのもありかもしれんなぁ」


 おっさんもそんな事を思う。


「それは出来るなら、あの馬に乗った連中に任せたいところだな。行くとなっても馬車で行ってすぐに帰ってくる方が良いだろう」


 東方の状況が良く分からない以上、それが最善かと東を眺めるおっさんだった。 

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