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72・おっさんは同意した

 続々攻め寄せるオーガたち。


 なぜあんな近傍に居ながら攻め寄せて来なかったのか謎が残るが、今はそれどころではないと考えたおっさんが周囲を見渡せば、砦を無視してオオカミを追い回すオーガの一団を目撃した。


「何だ、連中は砦よりオオカミが良いのか?」


 塔へと駆けつけたサンポもその一団を見つけ、おっさんの思った事を口にする。


 そんな話をしている間に周辺ではオオカミを追い回すオーガ集団も複数確認出来るようになり、砦へと向かうオーガは拠点での防衛時より少なく感じられたおっさん。


「ふむ、どうやらそこまで指揮する知恵が無いのか、小さな群れの力が強いのかよく分からんな」


 サンポが辺りを見ながらそんな事を言う。


 既に一部のオーガはオオカミを追いかけ砦から離れて行くところである。

 数百の群れを指揮出来る知恵や力があるリーダーならば、直ぐにでも呼び戻すところだろうと思いながら、さらに東を見れば、まだ現れ続けるオーガの姿に瞬きをするおっさん。


「おい、また増えたぞ」


 おっさんが呆れた様に遠方を見る頃には、日が西へと傾いていた。


 しばらくオーガは自由に動きまわり、オオカミを追いかけるグループも両手を超えたすでにオオカミの逃げ足に釣られて砦から遠く離れて行く集団さえ見受けられる。


 それでも砦を囲むオーガはいつしか千を越える規模に膨れ上がっていたのだった。


 おっさんはそんなオーガを熱探知で見る。

 すると、中に異常に熱い個体を見つけ出す。それが何を意味するのは分かりかねたおっさんは、とりあえず責任者からの攻撃指示を待つ。


「どうした、さっさとリーダー個体を倒さないのか?」


 サンポが不思議そうにそんな事を言うが、おっさんはそれを制止して下で何やらやっている責任者を見る。


「トロいな、何をやっているんだ?アイツは」


 サンポは苛立っているが、おっさんからすれば規模の大きな組織の初動が鈍いくらいは織り込み済みである。

 そんな事をしていると、騎士が再び上がってきた。


「外はどんな様子に・・・」


 外を見た騎士はそこで絶句した。


「・・・倒せるのか?」


 次に出てきた言葉がそれである。


「この半分くらいなら、拠点で蹴散らしたぞ」


 サンポが胸を張って自慢するが、目の前の半分を倒した話をしても安心はしないだろうとおっさんはサンポを睨む。


 だが、騎士の反応は違った。


「なんと!拠点ではそうもあっさりと。貴殿らには期待している!」


 サンポの話に元気を取り戻した騎士に対し、まだ攻撃しないのかと尋ねたおっさん。


「外の状況が分からなかったからな。この様に幾重にも囲まれたならば、直ぐに攻撃して構わんさ」


 指揮、命令系統が確立出来ていないのはオーガだけではなかったと実感したおっさんは、以前の戦いについても聞いてみる。


「以前は冒険者とオーガが入り乱れてな、援軍として騎士や召喚者を出したのだが、尽く撃破されてしまった。そもそも我々は冒険者の指揮権限など持っておらんかったしな。指揮を振るうギルマスが真っ先に飛び出して行って死んでしまっては、何も出来んかった」


 いや、色々問題ありすぎるだろと思うおっさん。


「そうか、今や冒険者は我々だけだ、砦の指揮に従うさ」


 おっさんの言葉にホッとした騎士は下へと声を張る。


「幾重にも囲まれています!」


 それを聞いた責任者一行は少し会話した後


「砦を守れ!鎧馬を蹴散らせ!」


 と怒鳴り、バリスタやエアーライフル、弓兵部隊が射撃を開始した。


 上から見ているとバリスタの矢がオーガを貫くのが見える。エアーライフルもウロコを貫通しているらしく、傷を負うオーガがたくさん見受けられたが、一撃で倒せている数は多くない。

 カズキが作ったコンパウンドボウも戦果は似たようなもので、脚や腕に矢を受けて怯んではいるものの、倒れるオーガは数えるほどだ。


 その後方へと目をやれば、拠点と同じく複数のオーガに取り囲まれた個体が居り、近い個体から順に倒れていく。ヘタが射貫いている事が分かる。


「負けてはおれんな!」


 それを見たサンポもボス潰しに参加し、塔から少し離れた場所を狙い出した。


 おっさんは熱感知で見つけた個体を真っ先に狙う。それら個体はサークル中心にいる訳ではなく、外に居る事が多いが、中にはボスの場合もあった。


「ダイキは何を狙っているんだ?狙いがバラバラじゃないか」


 おっさんが特定の位置取りをする個体ではなく、バラバラなオーガを狙う事を不思議がるサンポ。


「熱感知で見つけた特異個体だ」


 おっさんはそう答えながら熱い個体ばかりを倒していく。


 既にリーダーを失った小集団の混乱が始まっているが、まだ大きな乱れは生じておらず、より強いボス個体に従うオーガが目立つ。


 そしておっさんは熱い個体が何なのかを目撃した。


「なるほど、魔法が使えるのか」


 熱い個体が魔法を放ったのが見えた。魔法の属性で温度が違うといった差異は無く、火でも風でも熱い個体であった。


「なるほど、ダイキは魔法使い狙いだったか」


 サンポがそう言いながら矢を放ち続ける。


 そしておっさんはふと、射程ギリギリ辺りに展開する非常に熱い個体を発見した。


 これまでの魔物は魔力の多寡で熱に変化がなかったので、これが何を意味するかは分からないまま、そのもっとも熱い個体へと矢を放つおっさん。


 射程ギリギリなので目視で確実に誘導し、熱を発している胸の辺りを狙う。

 矢は狙い通りに胸を貫いた。


「何だ?」


 サーモグラフィー映像で見れば血でも吹き出している様に見えたが、不自然に感じたおっさんが視界を戻せば、そこにはただ倒れゆく姿しか見えず、しかし熱を感知すれば、何かが広がる様子が捉えられる。

 不思議に思い首を傾げた頃、不意な爆発が起こり、倒れ行く個体の周辺に陣取る集団が巻き込まれている。


「魔力って暴走したら爆発するのか?」


「ああ、あれがそうだろ。魔法を放つ瞬間に制御を失った感じだな」


 狙ってやった訳ではないおっさんだが、その一撃で日暮れを向かえ、暗くなった東が魔法の爆発でしばらく明るく輝き、程なく元の暗闇へと戻っていった。

 それから直ぐ、オーガたちは統制を完全に失い、各所で内紛が始まり、さらにオオカミを追いかけて行った無傷の集団がいくつか後方から襲い掛かる混沌が繰り広げられる中で大きな満月が昇って来る。


「そろそろ大詰めだな」


 サンポがそう言って夜目を生かして強そうな個体を削っていく。下でヘタも同じことをやっているのだろう、争うオーガの中でも優勢に見える個体から優先的に倒れ、或いは急に周りに囲まれた押されていく。おっさんもそこに加わり、優勢な個体へと矢を射かける事少々、拠点でも見たとおりにオーガは数を減らしていく。


「ボスが居なくなった途端、争いを始める辺り、案外単純だな。人間も大して変わらんだろうが」


 そう呟くサンポにおっさんも同意した。 

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