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7・おっさんは困難に直面する

 おっさんは自分の放つ矢がミサイルの様に誘導出来る事を確かめると、翌日から特性を活かした狩りを行う事にした。

 エミリーはずっとおっさんに着いてくる。


 それはおっさんが他の冒険者とは違い、いつも朝が遅い事から待ち構えられている事にも原因はある。

 おっさんからすれば、時間に追われていた地球での生活から解放されたのだから、ワザワザ日の出から起き出して仕事をしようなどとは思わなかった。

 しかも、いつ仕事をするかも自由な冒険者である。日本の通勤ラッシュの様に朝イチのごった返すギルドに出向くなどしたくもなかったのだ。


 つまり、エミリーを撒こうにも、人が少ない時間にギルドに現れるのだから不可能。必ず朝はエミリーの挨拶から始まる生活となった。


 おっさんからすれば、こんな中年を相手にするよりもっと有能な若者やイケメンが居るだろうにと思うのだが、カメの攻撃から助けられたエミリーにすれば、おっさんこそついて行くべき有能なイケメンであった。


 ふたりは他の冒険者があまり狩りをしない角兎(ホーンラビット)をメインに狩っている事もあって、3ヶ月もするとおっさんは石から銅へ昇級する話が舞い込んで来た。


「ウサギ狩りは順調らしいな、おふたりさん。そんなふたりに依頼があるんだが、カメを狩ってはくれないかな?」


 それはおっさんの銅級への昇給話しから3日後の事だった。


「別に構わないが」


 おっさんにとっては一度倒した事のある獲物だったので躊躇いはない。


「それは良かった。急ぎじゃないから10日の間で頼むよ」


 そう言う受け付けの青年。なぜか気合いを入れるエミリーを見て不思議がるおっさんだった。


「さて、そんな訳でカメを狩りに行こうか」


 おっさんがエミリーへ気軽に声をかけると、意外な返答が返ってくる。


「ダイキさん、これは昇級試験ですよ」


 と言われ、なんのこっちゃ?と思うおっさんだったが、


岩鎧亀(ロックタートル)の狩猟は、その危険性から能力のある冒険者への指名依頼が普通なんです。しかし、ダイキさんはやっと銅級への昇級と言う話が出たばかり、本来なら信用度が足りません。指名依頼を行うに足る冒険者かどうか試してるんですよ。きっと」


 などと言われては、納得するしかないおっさんだった。


 あれから3ヶ月、その場に応じた特性の弓を作り出す事にも慣れ、適切な矢の選択も出来る様になったおっさんは、そこまで緊張せずに依頼をこなそうと河原へと向かった。


 だが、思っていたようにはいかない。


「藪を突付けばカメが出てくるんじゃなかったのか?」


 いくつかの茂みへと分け入り、カメを探したおっさんとエミリーだったが、日が西に傾いてもカメを発見出来ずにいた。


「あの頃はちょうど繁殖期で活動的だったのもあると思います。寒くなり始めた今の時期だと、名前の通りに岩と変わらず動かなくなる個体も多くなるんです」


 というエミリーの説明を聞いて、なぜ猶予期間が10日もあるのか納得したおっさんだった。


 その日は結局、カメを発見出来ず、日銭稼ぎにヤギを数頭狩ってなんとか誤魔化した。


 翌日も朝からカメ探しを行うが見つからない。試しに丸みのある岩や特徴的な甲羅を見つけたりしたが、ただの岩かも抜けの殻に過ぎなかった。


 カメが季節によって生息地を変えるかどうかはエミリーも知らないらしい。


「そう言った情報は冒険者の稼ぎのタネですから教えてはもらえません」


 という。


 おっさんは自分のスキルにまだ隠されたナニカが無いかと色々考えてみるが、成功した望遠や最近使える様になった矢の予測線はカメの探索には向いていない。


 地道に探し回る事8日。依頼期限が迫って少々焦り気味のおっさんである。


 あれから更に暗視のスキルに目覚めたが、夜行性の獲物を狩るわけではないので役にたっていない。


「こいつは厳しいな」


 そんな声を漏らすおっさん。申し訳無さそうに肩を竦めるエミリー。


「いや、エミリーは悪くないよ」


 そう慰めるおっさんだったが、カメは見つからない。


 翌日はさらなる助っ人としてケインを雇い入れるが、朝の遅いおっさんはギルドに入るなりケインからのお小言を貰うことから1日がはじまる。


「この時期にカメを狩るって難易度高いよなぁ」


 というケイン。彼もさすがにカメ狩り専門の知識など無く、秋になるとカメは見なくなるという一般的な知識しかない。 


 そんなケインは茂みの岩をベタベタ触りながら歩いている。


「ケイン、何やってるんだ?」


 おっさんがケインに尋ねると、


「カメなら岩より温いかと思ってさ」


 と答え、おっさんはある事に気がついた。


「サーモグラフィーだ!」


 そう叫ぶおっさんを不思議そうに見やるケインとエミリー。

 それどころではないおっさんは必死に考える。(戦車や戦闘機の暗視装置じゃなくてサーモグラフィーだったか!熱だ、熱を見えるように)と。

 そもそも戦車や戦闘機の暗視装置とは、サーモグラフィーと同じく熱を感知する装置なのだが、詳しくないおっさんは知らなかった。


 おっさんは必死に熱を見えるように念じていると、辺りの色彩が変化してケインやエミリーが明るい色に見えるようになる。

 ふたりだけ景色から浮いている。


「よし、どうやら出来るようになった」


 そんなおっさんを不安そうに眺めるケインとエミリー。


 おっさんはその状態を維持して辺りを探索していくと、明るく浮き上がった物体を発見する。(よし、いける)と、弓を構えて狙うのだが、よく見るとそれはシルエットからヤギだと判明し、弓を霧散させる。


 焦りすぎたと自嘲したおっさんは更に辺りを探索していく。


「おっちゃん!」


 ケインの声がした方を振り向くと、ケインのそばで明るく景色から浮き上がる岩が目に止まる。


「おっちゃん、アレ、きっと生きてるカメだぜ」


 と、ケインもその岩を指差すので頷くおっさん。


 更に観察すると、周りの岩とは明らかに熱分布の違いが鮮明だった。日なたの岩が日に当たる部分だけ似たような暖かさを持つ場合もあるが、そうした岩も地面と接する部分や日かげは普通に自然の温度を示す。が、件の岩だけは全体的に暖かさを示している。


 おっさんは現在出しうる最強の弓を出現させ、硬質で重量のある矢を番える。

 流石にクロスボウを基にした弓を引き絞るには力が必要だった。

 熱分布から一番明るく熱を感じる部分が頭だろうと推測したおっさんは、その部分を狙って矢を放つ。


 岩の下部を穿った矢は見事に貫通し、カメの頭へ刺さり、絶命させる。


「やったか?」


 そんなケインのフラグ虚しく、穿たれた穴から赤い液体がドロドロ流れ出すのを確認したエミリーが感嘆の声を漏らす。


「流石です。ダイキさん!」


 流石に岩よりは軽いのだろうが3人は多少動かせただけ、それ以上はどうにも出来ずおっさんの巾着へと収納してギルドへ向かうのだった。 

 

 

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