69・おっさんは感心する
それから二週間、ショーコはラディッシュのシロップづくりのために元開拓民たちの下へ通い、製法の指導を行っている。もともと料理作りが好きであったらしく、一緒にシロップづくりをやっていると、キャリーから聞いたおっさん。
エアーライフルも各自が組み立てるという手法で短期間に百丁が出来上がり、さらに三十丁ほど部品はあるらしい。もしオーガが再度攻めて来た時のためにカズキは砂から砂鉄を分離してさらに鉄へと精錬するという信じられない光景を目撃したおっさん。
その鉄を使って弾を中心にずっと製作を続けており、スペア部品のストックもある状態になっている。
兵士たちの訓練はキョーコに加えてコータ、サンポ、ヘタ、エミリーまで加わり、この二週間で一通りの事ができるまでになったと喜ぶキョーコ。
ただ、エアーライフルの威力にはまだ不満がある様子で、めげずにプリチャージ式という銃をカズキに試作させていると聞いたおっさんは、塔に登って周囲を警戒したり、塔から寄ってくるオオカミを討ったりして過ごしていた。
オオカミの群れもよほどのことがないとバリスタの射程内には近づかないだけの知恵を持っているらしく、エアーライフルの出番は数えるほどしかなかった。
「アイツらがもっと近寄ってくれたら訓練の的になるのに」
自分は練習の的として討っている手前、キョーコの恨みがましい文句に何も言えないおっさんである。
おっさんが塔から見たところ、見える範囲にオーガの生息地は確認できず、すぐに襲撃してくる可能性は無いと判断し、近隣に生えている木々に実が成ってのを見つけたおっさんは外に出て確認する事にした。
連れて行くのは鑑定をするショーコ、そして護衛を買って出たサンポとエミリー。あとは採取要員の村人若干。おっさんが居ない間の監視はヘタがやるというので頼んだおっさんである。
「エミリー、それを持っていくのか?」
今日のエミリーはいつもの槍ではなく、エアーライフルを持っていくらしい。
「はい、カズキがジューケンと言う物が使える特製の物を作ってくれたので、これを使います」
そう言って見せられたおっさんはよく分からなかったが、エミリーは側面の金属棒を折り返して銃身へと重ねてロックを掛けた。それを見てようやく槍になるんだと理解しできた。
「カービンというスタイルだそうですよ」
そんなエミリーの説明になるほどと思うおっさんだが、カズキはモシンナガンカービンを参考に側面にスパイクを配したと説明しているので、エミリーは説明の半分以上を聞き流していたことになる。銃剣が使えて槍になるならそれ以上の説明は不要なのだから仕方がないのだが。
「俺のは素早く撃てる特別製だ」
サンポがエミリーに対抗するようにそう言った。
おっさんにはどこがどう違うのか分からないが、サンポの場合は本来の武器が魔弓なのでエアーライフルに威力は求めていない。
一般兵に持たせる銃はオーガのウロコや頭蓋骨を貫通するだけの威力が必要だが、サンポはそういう攻撃は魔弓で行えばよく、エアーライフルはほぼ飾り、アクセサリーに過ぎないため50メートル程度の距離でオオカミなどの一般的な魔物を倒せる程度にダウングレードされている。サンポも納得済みであるし、その分扱いが乱雑でも壊れにくく耐久性も高い。
「コイツは普通の弓と変わらん程度の性能しかないそうだが、その分扱いに気を使わなくていい」
バリスタの射程境界付近で接近してきたオオカミに向かってさっそく発砲するサンポ。
駆け寄って来たオオカミのうち一頭がキャインと鳴いて倒れ、すかさず装填して二頭目も倒すサンポ。その間にエミリーも銃を撃てば、なるほど、威力の違いからエミリーが狙ったオオカミは弾が頭を貫通して鳴き声すらあげずに倒れてしまった。
おっさんが弓を射る必要もなく、サンポは軽快に、エミリーは丁寧にエアーライフルを撃ち続けることでオオカミを倒していった。
「このくらいの相手なら弓より簡単に倒せそうだな」
その光景に、おっさんは銃が弓にとってかわりそうだなと思った。
「部品の製作が言うほど簡単じゃないらしいぞ。上級の鍛冶スキル持ちじゃないと一丁毎に弾の直径や形状を変えないと撃てないかもしれないとカズキが言っている」
サンポがそんな事を言う。火縄銃の様な膨大な発射ガスで多少の誤差をなかったことに出来なる訳ではないエアーライフルの場合、製造時の口径やライフリング形状の差異にはシビアである。カズキはクリエイトスキルで一度作った銃身を完コピ可能だが、鍛冶スキルではそこまでの事は叶わないため、大きめの公差を設けて対応しないと性能のバラツキが大きくなりすぎ、弾もオーダーメイドなんて事態にもなりかねないというのがカズキの見解である。
そんな細かな事などおっさんにはもはや埒外ではあったし、サンポも話のネタ程度にしか聞いていなかったが。
オオカミの群れをひとつ討伐した事で、周りで様子を窺うオオカミたちは警戒したらしく、その後は襲って来ることは無かった。
「ああ、これは違う木だね。似てるけど食用にはならない」
ショーコが木を見てそう言う。
「こっちは同じ種類の実だから大丈夫だよ」
そのを聞いた村人やエミリーが採取を行い、おっさんも不器用ながら手伝った。
「あ、これはもっといいやつだね。何でピーナッツが木になるのか不思議だけど」
と言うように、そこにはピーナッツに似た殻が垂れ下がっており、実をもいで殻を割ってみれば、三つの豆が出て来た事に感心するおっさん。
「だいたいピーナッツだと思っていいよ。木に成ってるのが不思議だけど」
というショーコの言葉通り、これを乾燥して炒れば食べられるという。
その日だけで村人やショーコの担いだ籠にかなりの量が収穫出来た。
「木の実と言うより豆が収穫出来たからエネルギー源としてちょうど良かったね」
こうして数日掛けて砦の周囲を巡れば、これまで以上に食料が確保でき、村長や責任者を喜ばせることになった。




