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66・おっさんは途方に暮れる

 キョーコとカズキはさらに銃を弄っては射撃を繰り返し、砦内にあったオーガの素材や鎧なども的として並べては射撃をしていく。


「え?何やってんのアレ」


 新たな声に振り向いたおっさんは、キャリーと並ぶ新たな人物に首をかしげる。


「何かさ、スプリング・エアーライフルとかいう鉄砲らしいよ」


 と、キャリーが教えているが、それが事実とは違うことくらいはおっさんでも分かった。いまキョーコたちが弄んでいるのは遊戯銃(エアーソフトガン)と同じ原理で弾を飛ばす銃器である。


「え?でもオタク君、弾が作れないって言ってたんだけど」


 という言葉に、その人物がショーコと呼ばれる召喚者であることにようやく気付くおっさん。


「それがほら、鉄砲を一度折ったら撃てるんだって」


 と、原理を理解しないまま適当な解説を続けるキャリー。おっさんよりも酷い。


「あ、おっさん。このコがショーコ」


 いつもの調子でそう言うキャリーの紹介にどう返すか悩んだが、とりあえず名乗ってあいさつをするおっさん。


「はじめまして。なんかそっちも大変そうね」


 そんな返事にキャリーと同じ匂いを感じたおっさんだが、その事は顔に出さなかった。


 そんな事をしていると、外に出ていたサンポとヘタが帰って来て追加のオーガを立てかけていく。


「何がはじまんの?あれ」


 キャリーがおっさんに聞いてくるが、おっさんも知らないので答えようがなかった。


 揃ってキョーコたちのところへ向かえば、まだ何かやっているらしく、銃を折るとバキッという音がしている。


「あ、折れた」


 キョーコのそんな声が聞こえ、不安になるおっさん。


「限界値はこの辺りらしいから、この下のスプリングでピストンとシリンダーにウロコのコートしたら良くなるんじゃない?」


「それならピストンも形状変えてバレルかライフリングも弄った方が・・・・・・」


 などとよく分からない会話をするキョーコとカズキに声を掛けることをためらうおっさん。


「ねぇ、何やってんの?それ」


 そんなおっさんを余所に、空気を読まずに声を掛けたのはショーコだった。


「オーガを殺傷できる威力と銃の耐久性のバランス試してる」


 とキョーコが応えると、ポカンとするキャリーとショーコ。


「オーガって、何?」


 再起動したショーコがそう問いかけ、キョーコがおっさんが名付けた事を伝えると、今度はおっさんに矛先が向いた。


 おっさんがアレコレ言われている間にふたりは作業を進め、完成したのだろう、射撃音がしたところでショーコが振り向いた。


「おお、ちゃんと鉄砲してんじゃん」


 嬉しそうにそう言う。


「とりあえず50メートル以内なら弾は通ると思う。確実に致命傷を与えるなら30メートル以内で頭部を狙う必要があるから威力は知れてる」


 と言って何やら作業を始めてしまったキョーコに代わってカズキが補足説明をするところによれば、エアーライフルは籠城時に弓矢に代わる武器として兵士たちに持たせる事を目的としており、威力自体はカズキの造ったコンパウンドボウ同様、何とかオーガに通じるが、確実性を取るならカタパルトだという。


「なにそれ、微妙~」


 ショーコはそう言って興味を失ったようで、その時こちらへと近づいて来ていたサンポとヘタに興味を示す。


「ちょっとちょっと、何あの美女二人」


 そう言っておっさんをからかって来る。


「誰が美女だ。俺は男だぞ」


 聞こえていたサンポがショーコにそう言うと


「ちょ、さすがに無いわそれ。アンタみたいな男が居てたまるか!」


 と、やはり反応もキャリーと同じである。


 案の定、見慣れた光景が繰り広げられ


「サンポは召喚者と仲が良いですね」


 などと、おっさんの側までやって来たヘタが笑う。


 サンポと言い争いを始めたショーコと参戦していくキャリーを残し、おっさんはキョーコへと話を振った。


「さっきカズキが言った通り。弾もAPCR(硬芯徹甲弾)みたいな構造にして貫通力を増すことで頭蓋骨を貫通できるようにしてるけど、その分造るのに時間や手間がかかるから、用意できる弾数も限られるから頼りにしない方が良い。次の襲撃が起ったら、最後は私たちが何とかする必要があると思う」


 銃自体の評価を求めたおっさんにそう語るキョーコ。


「そのエアーライフルと言うのはキョーコたちの世界では普及しているのですか?」


 そう聞くヘタに対し、キョーコが語った話はおっさんも初耳であった。


 エアーライフルのはじまりは風砲というオモチャのような道具で、19世紀初頭には日本でもオランダからもたらされた空気銃を参考に国友一貫斎という鉄砲鍛冶が製作しているという。

 その時代、欧州で一時期軍用に用いられたものの、取り扱いが難しいことから早々に廃れ、工作技術が向上した後に実用的な猟銃や競技用として普及するようになるが、実弾を使う銃器に比べて射程や威力の面で劣る事が多いため、猟銃としては一定程度の普及に留まるという。


「もっと凄いものがあるんですね」


 そう驚くヘタであるが


「森人やおっさんの弓には劣るのがほとんどだと思う。魔法があるから銃器が必ず勝つかは分からないし、相当に機械技術が発達しないとカズキみたいな職人芸に頼る事になるから性能のばらつきが大きすぎるし数も作れないんじゃない?」


 そんな説明にどこか安心するおおっさん。ヘタはそれでも興味が尽きないようであった。


 その後、おっさんは騎士に呼ばれて砦の責任者に会う事になったのだが、拠点から逃亡した役人は辿り着いていないという驚きの答えが返って来た。


「拠点を発った時期がはっきりしないが、砦が囲まれている頃に鎧馬に襲われたか、あるいはその後に現れたオオカミや盗賊に襲われたのかも知れんな」


 その返事には納得するしかなった。


 さらにオーガとの戦いで多くの兵士や騎士を失い、冒険者たちも逃げ出したため、カズキが作った立派な要塞も今はガラガラの状態であるという。


「本来この規模なら万の軍勢も受け入れられるのかもしれないが、今や千ほどしか残ってはおらんよ。おかげで食料に余裕はあるが、早々に拠点との連絡を確保せんと冬は越せんだろうな」


 そんな悲観的な未来を聞かされてしまったおっさんであった。


 そして、おっさんの語る拠点の状況を伝えると責任者は頭を抱えてしまった。


「それでは拠点もアテには出来んではないか。半数程度は王国に帰さんと持たんな」


 結局、おっさんも含めて途方に暮れてしまうのだった。


 

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