表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/80

64・おっさんは眺める

 召喚者たちが重い足取りで歩みを進め、サンポやヘタが先行して辺りを探る。


 そこは春に南部へ向かった時を思い出すような大地であった。まだ灌木の生える草原ではあるが、他に何も見るべきものがなく、そこがどこなのかも分からなくなるような光景がずっと続いている。


「本当にこんなところで農業なんて出来るのかな」


 コータが疑問に思うのも無理がない様な光景。


 それでもさらに南に見える塔が人がそこに居る事を伝えてくれる。


 昨日、多くのオオカミを狩ったからだろうか、おっさんは複数のオオカミの群れを視界に収めたのだが、こちらへ向かって来るものは居らず、一定の距離を取るばかり。警戒はしているように見えたが襲ってこないところを見ると学習能力は高いのだろうと考えた。


 時折帰って来るヘタによれば、東西方向には目立ったものは存在しておらず、オオカミの群れも南へ向かうものや北上するものが多いという。


「砦の周りに捕食できる餌でもあるんでしょうか?」


 エミリーが不思議そうにそう口にし


「それはサンポが帰ってこないと分かりませんね」


 というヘタ。


 そして日が傾いたころ、ようやく塔だけではない建造物が目に入った。


「何あれ、北の拠点なんて比べるだけ馬鹿らしいじゃん」


 見えた要塞に呆れるキャリー。


 そう、エミリーが言っていた拠点並みの存在などはそこにはなく、山をひとつ要塞として造り変えたのではないかという規模の大建造物が存在していた。


「あんなもの、聞いたことない・・・・・・」


 エミリーも唖然とするしかないそれ。


「おう、遅かったな。砦の周りにオーガが転がってるのを目当てにオオカミが集まってきているみたいだな。周りに生きたオーガは居なさそうだ」


 というサンポ。


「そうそう、あれ、すぐそこにあるように見えるが、中の連中と話がしたいなら今日はここまでだな」


 という。


 おっさんも気付いていたが、まだ10キロをこえる距離があるので、今から向かえば到着が日没後になる可能性があった。


「ウソだ。あんなにデカいんだからもうすぐでしょ」


 キャリーがサンポに突っかかるのだが、あと1,2時間で着ける距離ならば、おっさんならずとも要塞上に居る人たちを視認できるはずだった。 


 襲撃者や盗賊と誤認されるのを防ぐために火は使わずの食事に不満を言うキャリー。コータやキョーコも口にこそ出さないがそろそろ限界そうに見える。おっさんも嫌気がさしていたので人の事は言えないが。


「缶詰が普及してたらよかったのにな」


 ついついそんな事を言ってしまうのは仕方がない。そして、ふと要塞を見れば灯りが確認できる。どうやらあそこに到着できればまともな食事が出来そうだとおっさんは待ち遠しげに眺めるのだった。


 翌日、一行は要塞へと歩を進める。


 すると、2時間ほど進んだところで要塞の門が開き、騎兵が飛び出したのを発見したおっさん。


「どうやら向こうも発見したらしいな」


 できるだけ相手に警戒心を与えない様に歩みを進め、騎兵との邂逅に備える。


「なかなか来ないね」


 キャリーが不思議そうにそんな事を言うが仕方がない、おっさんが見つけたソレは騎兵に続いてチャリオット風なナニカが現れ、それを重そうに引っ張ってしばらく進むとこちらへ向けて構えていたのだから。


 その準備が済むのを待ってようやくこちらへと駆けてくる騎兵隊。


 おっさんが騎兵が出て来るのを見てから1時間以上かけてようやく現れたその姿に驚きの顔を見せたのはキョーコだった。


「なんで防弾チョッキ?!」


 おっさんは軽量そうな鎧だなぁという感想しか持っていなかったが、キョーコにはそれが防弾チョッキだと理解できた。

 迷彩が施されている訳でもなく、警察が使う様なグレーという訳でもない。王国の軍装に準拠させたからだろうカラフルな布で覆われたソレは、間近で見れば防弾チョッキ然としていた。


「そこの連中!とまれ」


 頭には時代相応の兜を被って時代不相応な防弾チョッキを着こんだ騎兵が叫ぶ。


 おっさんたちはそれに応じて止まり、次の指示を待った。


「こんな時に北からやって来たのか?」


 そう問いかけられ、エミリーが応えようとするのを制止し、おっさんが口を開く


「拠点から南の様子を探る様に言われてやって来た」


 そう言うと、どうやら騎兵も納得したらしく、間近までやって来てメダルの確認を行う。


「おい、召喚者なのか?」


「そっちのふたりは森人か?」


 騎兵が驚いたようにそう口にするが拠点の様に蔑んだ様子はなく、むしろ警戒していた雰囲気が和らいでいるくらいである。


「ああ、そうだ。砦にも居るんだろう?」


 おっさんが何も知らない風にそう返す。


「ああ、いるぞ。カズキのおかげでこんな軽い鎧まで手に入ったのだから召喚者様々だ」


 明るくそう口にする騎兵の態度に、キョーコが反応した。


「カズキが生きてるの?」


「あ、ああ、ケーイチやユーヤは残念だったがな」


 少々気圧されたように騎兵も返した。


「って事はショーコは?」


 キャリーもそう口を開く


「ん?ああ、聖女なら居るぞ」


 おっさんにとってはもはや名前も顔も覚えていない召喚者たちではあったが、3人にとっては同じ学校なだけに切実な事だろうと遮ることなく聞いていた。

 騎士によると、剣や槍、魔法を使って前線で戦った3人が亡くなり、後方にいたふたりは生き延びていたらしい。

 しかも、カズキという人物は本来おっさんの様に弓を扱うスキルだと思われ、魔弓使いとして扱われていたのだが、どうやら本当はクリエイトスキルであったらしい。


「やっぱりあの橋、カズキが作ったんだ。要塞と言い何だか見覚えがあると思った」


 キョーコがそう安堵した顔をして呟いた。


 それから騎兵が配置されたチャリオットへと合図を送り、要塞へと促してくる。


「さあ、砦へ」


 おっさんたちは騎兵に従って要塞へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔弓ではなく、物造り?物作り? 何と読んだのか……表音文字はこれだから
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ