61・おっさんは受け入れた
多くの冒険者がオーガへと群がり、我先にと砦の中へと運び込んでいく。
そして、運び込んだ先から解体しようとするのだが、如何せん硬いウロコに覆われた体のため切ることが出来ない者ばかりであった。
見かねたサンポが切り方を教え、何とかウロコの隙間や傷口、口などから切って開くことが出来る者が出始めたが、それでも僅かな数に限られてしまう。
多くはキャリーたちがウロコや皮を剥げるように切れ目を入れて周り、何とか解体が進んでいく。
そして、中には肉の採取が困難なオーガを用いて攻撃練習を行う者たちまで出始めている。
おっさんはそれらを見ながら、再来襲に備えたオーガ攻略法を多くの冒険者に身に着けて欲しいと望んだ。
こればかりはおっさんが教えることは出来ない。
その日は日が落ちてもかがり火をたいてのオーガ回収や遺体の埋葬が行われ、食事にありつけたのは夜中頃の事であった。
「んまぁ」
当然の様にメニューはオーガ肉を中心にしており、栽培期間の短い野菜がチラホラ混ざる程度。
どこか誤魔化されている気になってしまうおっさんだったが、脂身が少なくあっさりしたオーガに好感を持つのだった。
「動きが馬とか猿だったから、もっと動物かと思ったら、鶏だね。マグロに近いかも」
あれだけオーガを食べる事を嫌悪していたキャリーであったが、空腹と調理された肉の状態で出されたこともあって抵抗なく口にし、そんな感想を述べる事に驚いたおっさん。
どちらかと言うと、おっさんの方が口に運ぶことに抵抗があったくらいだ。
翌日も作業が続き、サンポは対オーガ対策の指導員と化し、回収作業と並行して戦闘訓練に励む冒険者達を眺めるおっさん。
「連中の崩壊が早かったから畑の大半は無事さ。これで冬を越す事は出来そうだよ」
そう言ってギルマスが冒険者たちを励ますのだが、東征村との定期便の再開の目処すら立っておらず、東や北の開拓地との行き来も安全を考えて最低限まで絞られているのが現状である。
「まずやるのは、南の状況確認だね」
指導中のサンポを眺めながらギルマスがそう口にする。
その日は結論が出る事なく話は終わり、おっさんは塔へと登り、寝るまでの間辺りを警戒していた。
翌日の事
「ダイキたちで南へ探索に出てくれないかい?」
朝、ギルマスから唐突にそう言われたおっさん。
だが、何の情報もない中で慎重になっているおっさんは首を縦にする気はない。
「藪から棒になぜそんな話になってるんだ?」
理由が分からなくもないおっさんだが、それが必ずしも期待や歓迎を込めたものでは無い事を察していた。
「他に有効な戦力が居ないからさ。何か不満かい?」
ギルマスは悪びれもなくそう言って来るが、そこには不満を抱く事しか出来ない。
なにせ、依頼ではなく防衛戦の一環なので報酬が貰える訳でもないのだから。
冒険者への報酬を考えるならば、まずは東征村への連絡と街道の安全確保の筈だが、ギルマスはそんな話はまるでしなかった。
「メリットが無い」
おっさんは素っ気なくそう返したが
「かなりのメリットがあるんじゃないかい?アンタらなら他の村や砦も解放出来るだろう?昇級も報酬も思いのママさ」
それを皮算用と言うんだが?と、おっさんは内心思いながら、ギルマスの思惑に思い至る。
おっさんたちは活躍し過ぎた。
もし、これがしっかりした組織基盤の上での話ならば、ギルマスも諸手を挙げて歓迎した事だろう。だが、拠点は風前の灯火であり、いつまで耐えられるか分からない。
そんな場所に救世主の様な存在が居座りでもすれば、権力が誰のモノになるかは明白だった。
拒否する事は簡単だが、幾ら個として強いと言っても、ここで争うのは自滅しか招かないと思い直したおっさんは、ギルマスの要請を受け入れた。
「・・・分かったよ。だが、成功の暁にはタンマリ報酬を請求するからな」
それを聞いたギルマスは、顔色こそ変えなかったが
「そうかい、それは期待して良いよ。私も力になろう」
その言葉からは安堵の色が隠せていなかった。
ただ、サンポが対オーガ戦の指導をしているので直ぐに出発は出来ない。
おっさんはエミリーを連れて日帰り圏内の探索を行ってみたが、どこまでも広く、ひたすらに平らな草原が見えるばかりだった。
「これは道に迷いそうだ」
それがおっさんの感想だった。
本来ならば南の拠点までの道案内の出来る冒険者を付けるべきなのだが、ギルマスはそんな話は一切しなかった。
おっさんも、サンポが居れば開拓地伝いに拠点まで行けるだろうと敢えて要求せず、一通りの指導が終わった三日後に出発した。
「はぁ~?おっさん、なんでそんな事知りながら受けるかなぁ」
出発後にキャリーたちに今回の経緯を話せば、やはりそんな不満を口にするキャリー。
「おっさんが正解。勇者は王女と結婚して幸せに暮すなんてフィクションの中だけ。現実になったら役目を終えると捨てられるか暗殺される」
キョーコは当然とばかりにそんな事を口にした。
「世の中って、世知辛いね」
コータはなぜか達観していた。
サンポとヘタには毛皮効果を使っての斥候を頼んでいるためこの場には居らず、案内はエミリーが行っている。
「召喚者の話はそんな後ろ暗いモノではないんですが、私の知る召喚者の話は森人の話とは違いましたからね」
と、エミリーも何やら感慨深げに口にした。
おっさんが振り向けばまだ塔が見えている。
走って離れる方法もあったが、敢えてユックリ普通の冒険者と変わらぬ足取りで南へと向かっていた。
振り返り塔を見れば、そこに人が居るのが見える。
拠点の冒険者は望遠の様なスキル持ちは居らず、双眼鏡の様な器具も無い。
あちらからは何とかおっさんパーティが点にでも見えれば御の字だろうと考え、遠見で覗いてみる。
やはりおっさんたちを見張る冒険者が確認出来るが、おっさん個人を認識してはいない事が視線で分かった。
もうすぐ日が暮れる頃、塔も霞んで先端しか見えなくなっている。
「この辺りにオーガは見当たりません」
先に帰ってきたヘタがそう報告してくるのを静かに聞いたおっさん。
しばらくしてサンポも戻る。
「どうする?明日は脚を早めればこの先にある村までは行けるが」
サンポの提案にキャリーが不満を漏らすが、それはいつもの事。おっさんは明日、村へ向う事を決めた。