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6・おっさんは感心する

 すらすらと答えるエミリーに感心したおっさんは「なぜそんなに詳しいの?」と聞いてみる。


 すると、ギルドがいわば教育機関として機能している事を知る事となった。


 冒険者ギルドとは、数百年前に召喚された勇者が創設した組織であり、身分を問わず誰でもなる事が出来る職業として立ち上げられた。

 当時の勇者は未だ魔物が溢れる当時の王国周辺から一掃する事を目的に召喚され、見事、多くの強力な魔物を率いた群れのボス、いわゆる魔王を討伐し、一挙に領土を広げることに成功したという。

 その結果、大平原は人間の楽園となり、王国だけでなく、いくつもの国が林立するまでに発展を遂げるまでに至ったのが、現在の姿だそう。


 そんな功績を打ち立てた勇者が求めたものは、名誉でも地位でもなく、自分と共に未開の地を開拓する有志だった。

 強力な魔物こそ倒したものの、そこは数多の魔物が生息する土地であり、国の兵士だけでは開拓を成し遂げるのは難しかった。その為、勇者は身分を問わず、自らと開拓を行う者を募り、その者たちを束ねる組織として「冒険者ギルド」の設立を王に許され、多くの「冒険者」を率いて開拓を行ったという。

 その慣習が今に残り、ギルドは冒険者ギルドと総称されるものの、ダンジョンを専門とする盗賊ギルド、開拓民から生じた平民の食生活を担う狩猟ギルド、勇者が始めた事業を引き継ぐ開拓ギルドへと分化して今に至る。


 そうしたギルドの役割の一つが、孤児や貧困家庭の子供を雇い入れて労働に就かせる傍ら食事や知識を与える事で平民層の生活向上に役立てる事だった。

 その労働と言うのが冒険者の荷物運びや雑用を担うポーターであり、冒険者から必要な知識を習い、覚え、そしてギルドは読み書き計算を教える。

 冒険者は14才からしか就けないが、ポーターならば11歳から可能だ。この学習期間に冒険者として必要な知識を学ばせることで死傷率を下げる事ができ、読み書き計算を教えることで冒険者としての適性が無くとも街や村での仕事に就ける知識を身に付けさせている。


 そうした話を聞き、おっさんは感心するほかなかった。勇者召喚と言えば魔王を倒して王女と結婚すると言った程度の考えしかなかったおっさんからすれば、その勇者はよほど先の事を考える事ができていたんだろうと、ただただ感心するしかなかった。


 そこで更に疑問に思ったのが、魔物を狩って食料にしているというが、中世社会において領内にあるものは全て貴族や王族の物ではないのかという疑問だった。


「貴人の人たちは魔物なんて食べませんよ。私たちが魔物を食べるのは、他に食べるモノが無い時に勇者さまが食して平民に勧めたからなんです」


 と、エミリーはギルドで習った知識をおっさんに聞かせる。

 その通り、城で食べていた食事は日本の食事情からすれば貧相ではあるが、まあ、理解の範囲内だった。

 が、城を追い出されてこの2日の間に食べた食事はまるで別物だった。


 おっさんにとってどちらが良いかと言われれば、ギルド飯と答える程度には驚きだった。


 それもそのはず。


 魔物を食べるようになったのは勇者の影響であり、この草原へ他所から乗り込んで来た王侯貴族たちにとって魔物食は、宗教上の禁忌なのだから。

 明確な身分制度が存在する世界である為、王侯貴族は身分を明確にする意味もあって今でも魔物や草原の魔草を口にする事はない。

 

 そんな中で食うに困った開拓民たちに魔物や魔草を食べる様に勧めたのが勇者であり、何が食べられるかを示し、自ら実践したという。

 その知識を教えるのもギルドの役割であり、今でもそれらによって多くの平民が飢えずに暮らす事ができている。

 勇者はさらに魔草であれば徴税対象外となるよう交渉し、ギルドの管理農場を拓いて平民用に魔草栽培まで行っている。

 おっさんの魔弓がチートであるように、その勇者も鑑定チートを持っており、食用可能な魔物、魔草を見出し、地球の味に近いレシピまで完成させている。その結果、おっさんにとっては王城の豪華なディナーより、ギルド飯に愛着が湧くことになったのである。


 さらにおっさんは獣人やエルフ、ドワーフについても尋ねたが、


「獣の特徴を持った人?見たことないし、ギルドでもそんな人たちがいるなんて聞いたことないですよ?」


 と、エミリーの答えはあっさりしたものであった。もちろん、人と会話ができるドラゴンも居なければ、人と同じ様な姿かたちをした魔族も知らないというので少々ガッカリしたおっさんだった。

 この世界においても、魔物と人が交わった存在と言うのはおとぎ話の世界でしかなく、魔物はせいぜい野生のゴリラやオランウータンが魔法を操る程度の存在で、会話ができる訳ではないと教えられた。

 ただ、エルフとドワーフは存在する。


「ドワーフって南の山岳地帯に住んでる鍛冶が得意な人たちですよね。でも、精霊や妖精ではなく私たちと同じ人間ですよ?」


 というエミリー。あくまで山岳地帯に住む草原とは別の民族、部族と言った意味合いでしかないらしい。当然ながらそれはエルフにも当てはまり、北方の湖と森の中で生活している民族の事であるらしい。特段に長寿な人たちでもなければ尖った長い耳を持つ訳でも無いと聞いて、(せっかく魔法があるのに、これじゃ夢もファンタジーも無いじゃないか・・・・・・)と、現実の無常さに打ちひしがれるおっさんだった。


 そんな話をしているうちに街へとたどり着き、角兎(ホーンラビット)をギルドに卸し、代金を受け取ったおっさん。エミリーの見立て通り、後ろ脚が銀貨4枚、角が銀貨2枚だったので、一人当たり銀貨3枚の収入となった。


「ウサギの狩猟は普通は割に合わないので不人気なんです。でも肉は美味しいんですよね」


 というエミリー。おっさんとエミリーであれば、ウサギ狩りも割のいい狩りなので、これからも行おうと約束して別れたのだった。


 それからおっさんは日が沈むまでの時間を訓練場で誘導がどの程度可能なのかを試すことにした。


 少し狙いを外した方向へ矢を放っても、おっさんが木や的を狙いたいと思っていればそこへ向かって飛んでくことが分かった。

 吊り下げて振り子のように動く的を狙ってもほぼ確実に命中させる事ができる。唯一、おっさんが狙いをズラしていれば、当然ながら当たらなかったが。


 そして、狙った目標とは全く違う見当はずれの方向へ矢を放っても当てることは出来なかった。


 的から90度ずらしたり、敢えて地面や空を狙って放てば、矢は曲がり切れずに狙いを逸れていく。


(本物のミサイルみたいにどこへ撃っても後で誘導さえすれば当たる訳じゃないのか)


 とおっさんは残念がったが、そもそもミサイルも狙った方向へ向けて飛ばさなければ誘導や命中は期待できないのだが。

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