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59・おっさんは思う

 サンポが探索に出ると言い出した時、誰もがそんな事は無理だと思った。


「森人がさぁ、森ん中や、一応草原でも見え難くなるのは分かるけど、ここじゃ無理じゃん」


 キャリーがいつも通りにそう口にする。


 おっさんもその通りだと思った。


 森人の能力は、あくまで自然との同化によって存在を希薄化させる事なので、街の中や建物の中では能力を使ったとて、ほとんど効果はない。

 確かに無関心な人からすれば気にならなくはなるのだが、それは森人の能力に関係なく、人の意識や関心が向いているか否かの問題でしかない。おっさんやキャリーたちでなくとも、ギルド内においてサンポを探そうとする者にとっては、ほとんど効果を発揮しなくなる。


「ああ、そうだな。この砦に居る限り、俺は皆から認識されるし、門から出入りすれば当然分かる」


 サンポはそう言う。


「ってもさぁ、ここの壁を越えて出入りするってできんの?」


 疑い深げにキャリーが問えば


「バカか?木登りするんじゃないんだ、そんな事ができるわけないだろ」


 と、あっさりと否定する。では、どうやって出ていくというのだろうか?


 キャリーがブーブー文句を言っていると、おっさんのよく知るグレーの毛皮を取り出した。


「ドーすんの、夏に毛皮なんて」


 呆れるキャリーを余所に、サンポがそれを羽織ると姿が希薄化していく


「どうだ?」


 しばらくすると声しか聞こえなくなった。はぎ取ったばかりの時とは違い、加工によって効果が大幅に増幅しているらしいと驚くおっさん。


「何それ、怖!」


 キャリーが驚き、そう言う。


「そうだろう?ダイキが狩った影熊(ステルス)の毛皮が手に入ったからな、新たに作られた伝承の毛皮だ」


 ただ声だけが聞こえてくる状態に驚く面々。


「私も持ってきてますよ。ただ、サンポほど見えなくなるわけじゃないですが」


 と、ヘタが口にする。


 おっさんが熱感知で探れば、ほのかに熱は感知できる。熊ほど完全に姿を消せてはいないのだが、それが逆に周囲との違和感を無くし、分かりづらくなっているのは効果的だなとほくそ笑むおっさん。


「熱感知でもほとんど見えない」


 そう驚くキョーコの声も聞こえる。


「何だ?ダイキ以外にもソレが使える奴が居るのか。召喚者コエーな」


 と、どこか暢気なサンポの声に


「エミリーも使えるぞ」


 と、自慢げに言うおっさん。


 ひとしきりそんな事をやり、サンポはまた姿を現した。


「ちょっと探って来るからな」


 そう言ってギルドを出ていくサンポであった。


 その後、おっさんは塔の上からサンポを探そうとしたがまるで見つける事が出来なかった。



 それから5日、サンポは姿を見せる事はなく、おっさん達も安否を心配しながらも普段通りに過ごす事に努めていた。


「何だ、こんな所に居たのか」


 5日目の夕方、通用門が閉まる少し前にサンポが塔へと現れ、呆れた顔を向けると、キャリーがいつもの様に絡みだす。


「あれ?アンタ、本当に外に出てたの?臭くないんだけど」


 そんなワイワイを眺めながらおっさんも元気そうなサンポの姿に安心した。


「バカか?森人は常に魔物に気づかれ無いように行動する。当たり前の事だ。オマエらがおかしい。魔物にワザワザ知らせる様なニオイをプンプンさせやがって」


 とキャリーに言うが、おっさんはそれを聞いてコータを見る。

 コータも気づいてふたりで苦笑するのだった。

 

 サンポは無臭な訳では無い。道中ふたりの苦労を考えれば、サンポの言葉に説得力はまるで無いのだが、それは女性陣には理解出来ない事である様で、キャリーの口撃はそれでも続いていた。


「おっと、ダイキ。2日ほど南下してみたが、南は酷いもんだ。ここ並の砦は見えなかったが、小さな村や砦らしきモノがオーガに荒らされていた。500くらいの群れが彷徨って居たから、明日くらいにはここに現れるかもな」


 キャリーを押し退けてそう言うサンポの言葉は、まさしく砦の危機であった。


 おっさんはすぐさまギルドへと向かい、ギルマスへと事の次第を説明するが、彼女は真剣に受け取ろうとはしない。


「ダイキ、確かにアンタは召喚者で、ソッチは森人だよ、ソイツは否定しない。だがね、魔物が500なんて数も集めて攻め寄せるなんて流石におとぎ話だよ」


 そう笑うのである。


 では、南の状況はどうであったのかという話になるが、こちらへと避難した冒険者達の話では、多くても100に達しない規模だったという。


 もちろん、普通の弓が通用する相手ではなく、投石までしてくる賢さを持ち、騎士の鎧に勝るウロコの防御力に押し負けたと言う。


 ならば、南へと向かった召喚者達がどう犠牲になったのか疑問ではあったが、何のことはない、コータの槍ほどの斬れ味を示せず、キョーコの様な複数のオーガを同時に相手取る技量を持ち合わせていなかったかららしい。


 もし、ふたりが南の街で蛇を相手取る様な立ち回りを経験せず、北で多数の魔物狩りを実戦で成し遂げていなければ、休憩所での結果は他の召喚者たちと同じだったかも知れない。


「城に囲われた召喚者ってのは、そういうモノだ。騎士相手に多少技量を示したところで、魔物相手には意味がない」


 ギルマスに笑い飛ばされた後、サンポにそう言われたおっさんはついついサンポに甘えそうになる。


「ねぇ、オーガが来るってさ、どうするの?」


 キャリーが昼食代わりに齧る乾燥スティック肉を弄びながらおっさんに尋ねる。


 おっさんも座視する気は無いが、あまりに戦力が貧弱すぎて何をやるか思い浮かばなかった。


「とりあえず、明日は朝から塔に登って監視だな。キャリー達は来襲があれば門の守備にまわってもらう」


 ありきたりな事を口にし、その日は寝る事にした。



 翌日、日の出前にエミリーが起こしに来た事に不満を持ちながらも、おっさんは用意を整え、塔へと向う。

 集まる面々を見れば、エミリーやキョーコは真剣な顔つきだが、コータは疲労感を漂わせ、キャリーはマイペースである。


 そんな面々とは少し違う森人のふたり。


「楽しい事でもあるのか?」


 おっさんがヘタに尋ねると


「ハイ!思いっきり弓を引けるんですよね?今日こそは狙った獲物をすべて倒して見せます」


「そうだ、ヘタ。出来るだけ一撃で倒して鮮度を保つのを忘れるなよ」


 と、意味が分からない事を言い出した。


「そうか、言ってなかったが、オーガは見た目に反して美味かったぞ。活の良いオーガを狩って肉を確保しないとな」


 どうやらサンポは偵察に出てオーガを食ったらしく、ヘタにはその話をしているらしい。


「人を食った魔物なんかマズイでしょ!」


 と嫌な顔をするキャリーだが、砦の食料事情から、食えるとなれば食料化するのは確実だとおっさんは思うのだった。 

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