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56・おっさんは落胆する

 サンポが見ている方へおっさんも振り向いた。


 が、そのナニカを理解する事が出来ずに困惑する事になる。


 盗賊は言った。馬であると。


 盗賊は言った。猿であると。


 しかし、そこには馬も猿も存在していなかった。


 おっさんが、いや、召喚された彼らが東征村の情報や盗賊の発言から想像したのは、まずは馬に乗ったゴブリンであり、後にケンタウロス風な魔物であろうという予想であった。


 しかし、そこにはそのどちらも存在していなかった。


「なんだ、アレは・・・・・・」


 おっさんはしばし絶句し、それでも何とかある記憶にたどり着いた。


「恐竜人間か?」


 敢えて、おっさんの知識に当て嵌めて認識したらそうなる。

 が、確実な二足歩行は確立出来ていなさそうな歩行をしており、なるほど、その姿は馬にも見える。


 そして、こちらを確認する為に立ち止まる個体の仕草はプレーリードッグにも見えるが、確かに顔の容貌からは猿だろう。


「そりゃ、正確な伝聞なんて無理だな」


 人によってその捉え方が変わるであろう容姿、例える対象が定まらない風貌、表現の難しい動作。


 それらが混ざり合って出来上がった姿が、東征村で目にした首のない馬と空飛ぶ上半身猿ではなかろうか。


「あれが東方の魔物か?食えそうにないな」


 サンポがそう言う。おっさんも同意であった。


「なるほど、知恵はあるらしい。棒を向けてくる奴が居る」


 サンポがそう言った個体が群れのボスであろうか。

 その指示に従う様に一斉に全ての魔物がこちらへと志向している。


 おっさんは弓を出し、最大の大きさにし、目一杯引き絞り矢を放った。


 目で追えないほどの速度で飛ぶ矢を、ボス個体を睨む事で誘導するおっさん。


 ボス個体は矢には気づかず、何やら指示らしきものを周りへと飛ばしている様子を視認しながら、その頭を凝視する事数秒、ふと横を振り向いたところへ矢が突き刺さり、口を開け、左手を振り上げた状態で崩れ去っていく。


「さすがだな」


 サンポが妖艶な笑顔を近づけながらそう囁くので、思わず赤面してしまったおっさん。


「さ、さあ、狩るぞ!」


 サンポから目を逸らしておっさんはそう叫び、新たな獲物へと矢を放つ。


 事態が飲み込めていない、仮称猿竜は右往左往するばかり。


 そこへさらなる矢が襲い掛かり、おっさん達を監視する様に座っていた個体が崩れ落ち、さらにサンポとヘタの放つ矢が周囲の個体へと降り注ぐ。


「ダイキさんの様にはいきません」


 ヘタが矢を外し、そう口にするが、それでも立て続けに矢を放ち、命中させていく。


「コイツは堅い。普通の弓矢じゃ刺さりもしないかもな」


 サンポも真剣な顔でそう零すが、言葉とは違い、確実に首や脚へと矢を命中させ、一矢で倒し、あるいは行動力を奪っている。


「逃げる奴は仕方ない。倒せる奴だけ倒してしまおう」


 30は居ただろう猿竜は半数以上がおっさん、サンポ、ヘタによって倒されるか行動不能になり、10ほどがこちらへと向かっていた。残り数体は逃げ出している。


 おっさんの声でキョーコ達が向かってくる猿竜へと突撃し、おっさんは逃げた個体を丁寧に倒していった。


「ダイキさん、私たちも行きましょう」


 護衛に残ったエミリーに促され、キョーコ達を見れば、キャリーが戦輪を飛ばして一度に二体の脚を斬り飛ばしていた。


 その痛みからだろうか、確かに猿っぽい鳴き声を発する猿竜。


 キョーコとコータも危な気なく猿竜を倒し、気が付けば辺りに動く魔物は居なくなっていた。


「ふむ、コイツはまた、厄介な魔物が出たもんだ」


 おっさんは絶命した猿竜を見下ろしながら頭をかく。


「まさか、ディノサウロイドが居る世界だなんて、驚きだなぁ」


 コータがそう言い、キャリーに何だと詰め寄られている姿を横目に、猿竜を観察するおっさん。


 間近で見れば、決して猿ではない。


 もちろん、ゴブリンの様に小型という事もなく、もしモンスターの名称を当て嵌めるなら


「オーガって言えば、イメージ出来るかもなぁ」


 そう口に出したおっさん。


「何ですか?それ」


 だが、エミリーにはまったく伝わっていない。


 さらに日本におけるモンスターの説明をしたが、余計な混乱や誤解を拡大しただけで、より解決からは遠のくだけに終わり、困惑するしかないおっさん。


「いや、まあ、空想上の魔物で、いわばこんな姿や体躯をしているんだよ」


 何とか強引にそう締めくくるが、それは誤解にしか繋がらない。


「では、対処法もありますね!」


 エミリーの真っ直ぐな瞳に、何も言えないおっさんである。


「オーガは僕らにはイメージしやすいネーミングだけど、エミリーには誤解しか与えないよね」


 近くで聞いていたコータにも苦笑されるおっさん。


 それからエミリーやサンポによって解体調査された猿竜には、東方に居る魔物の特徴はなく、遠方からやって来たのではないかと推測された。


「これまで見た事も聞いた事もない魔物だしな、毛皮に覆われてない事も含め、謎しか無い」


 魔物に関してエミリーより詳しいはずのサンポをして、投げ出すレベルとあっては、もはやおっさんたちパーティにはそれ以上の事は調べようもない。


「どうする?拠点へ向うか?」


 あまりにも急展開過ぎ、出来るなら東征村へ帰り仕切り直した方が良いと思ったおっさん。


「常識的にはそれが正解。でも、東征村へ帰っても、事態は変わらないと思う」


 というのはキョーコである。


 彼女は東征村でおっさんが挙げたタルタルの話をする。


「つまり、東方から新種の魔物が生息域を拡げる為に走りまわっていると言うのか?」


 サンポのそんな質問に首肯するキョーコ。


「この状況で東征村へ向かっても、暫く後にあちらでコレに出会うだけだと思う」


 だから、偵察も兼ねて拠点の様子を知る事が先決との意見であるらしい。


「逃げようとした方角は南だ。盗賊が言った砦のある方角だな?」


 サンポがエミリーに確認すると、エミリーもそれに同意する。


「なら、拠点まで行くのはアリだな。東や北東の開拓村までは被害が及んでない可能性もある」


 サンポがそう言い、拠点まで前進する事が決まった。


「まあ、まずはあの瓦礫の場所だ」


 そして、猿竜を片付け辿り着いた瓦礫と化した休憩所には、生々しい遺体が散乱していた。


「あのオーガの仕業でしょうね。腹だけ齧られた遺体が殆どです」


 瓦礫を調査してまわったエミリーがそう言った。

 エミリーならずとも、散乱する遺体の腹だけが口を開けている姿に、結論は他に無いだろう。

 

「煙が上がって無いんだから予想出来た事ではあるが、あの数でコレかよ」


 サンポの言葉通り、まったく先が思いやられる。と、おっさんも落胆するのだった。


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