55・おっさんは呟いた
盗賊はコータに治療され、傷口は塞がった。
しかし、治癒士としての能力は高くないため、武器を振るえるほどには回復出来てはいない。
「なんつうか、攻撃特化なんだな」
盗賊は苦笑いしながらそう言い、どうやら素直に東征村へと向かってくれるらしかった。
「逃げるとは思わないのか?お前ら。お人よし過ぎるぜ」
そう言いながら別れた後、どこへ向かうかが問題となった。
「ここまで来てしまうと、砦へ向かうのは遠回りになります」
エミリーがそう説明するが、まず分からないのは、拠点や開拓村と砦の関係である。
「その砦って、どういう物?」
キョーコがそう問えば、エミリーが説明してくれる訳だが、一応は開拓地も王国の領土と言う扱いであり、当然ながら王国の役人や軍が居る。
彼らが徴税を担い、それ以外はギルドが主に行うという形になっているのだが、形式的には軍が防衛や治安を担うため、開拓拠点に住まう商人や農民の避難先ともなる砦が築かれている。
その多くは主として冒険者が人員を出して建設や維持にあたり、多くの魔物が現れた際の戦闘要員となる訳だが、あくまで国の持ち物であり、冒険者は傭兵的な立ち位置でしかない。
「人使いの荒い話だなぁ」
おっさんはそう思った訳だが、王侯貴族は西方から持ち込んだ動植物しか口にしないのだから、当然と言えば当然の結果であり、開拓地は貴族からすれば左遷先でしかない。下手をしたら島流しの様なモノとさえいえる。
「そう言うな。俺たちが独立勢力なのも、連中が関わり合いたくないからだ」
サンポが嫌そうな顔でそう言った。
彼は召喚陣がある王国とは別の国と交流がある事から、王国では手に入らない話を知っている。
「何であんたの話した事がひろまって無いわけ?」
キャリーがそう不満を口にするが、それは仕方がない。
「なぜって、鋼級以上の冒険者が活躍する場所が東方以外にあんのか?分かるだろ」
と、サンポが言う通り、東方でなければ大きな収入にはならない。冒険者は東を目指す。
「だったら東方に他の国の冒険者も集まるんだから、簡単にひろまるじゃん」
と呆れ顔のキャリー
「北の森か東か、さもなきゃ南の砂の海にでも行かなきゃ強力な魔物なんか居ないだろうが。他の国で鋼級になんざ、ほとんどなれねぇんだが?」
サンポがそう返す。
そもそも、国を越えた移動には多くの制約が存在し、市民、農民が気楽に国を跨ぐことは難しい。商人なら可能ではあるが、残念ながら王国批判の様な事を口にしては商売ができないため、めったなことを口にする事はない。
「せっかく召喚者というお土産を与えてくれる無能な王国が召喚しなくなって困るのは、周りの国々」
ふたりの口論を眺めながら、キョーコがそう口にした。
「そう言う事だ」
サンポはキャリーをあしらいながら、そう答える。なんとも下らない話である。が、追放した召喚者に無関心な王国中枢にとって、他国に優越できるステータスとなる召喚と言うのはかけがえのない武器であり、それは周りの国々にとっても利益をもたらすお宝でもあった。いわばお互い様である。
「だから、ステータスの研究もマトモにしないで放置してるのかな」
コータも自分の身の上を思い返し、そんな事を言う。それはおっさんも同じであり、もっと研究して解読できるようにしろよと思った。
「でも、城の外の方が私らにあう食いもん多いんだから、良かったんじゃない?」
キャリーの言う通り、外の方が自由があって良いとおっさんも思う。
そんな雑談で間延びした目的地の話であったが、まずはそのまま目的地を変更せず向かい、そこから新たな情報を得て動くこととなった。
なにより、盗賊の話は半月以上前の情報であり、今の状況が分かってもいないので、盗賊の話通りに動く事が正解とは言えなかった。
そこから先へと進む事1日
「まただな」
まだ遠望するような距離に集団が見えたが、おっさんの遠見で見ても堅気の冒険者とは思えなかった。
「間違いないだろうな」
サンポもそれに同意であるらしい。
それからしばらく進み、相手もこちらの詳細が把握できる距離になった頃、動きを見せた。
「昨日の連中より甘いな」
と言うサンポ。
「遠射で仕留めますか?」
という容赦のないヘタ。
おっさんも、敢えて昨日の様に時間をとる必要性は見いだせず、敵対するなら構わず討伐しようと考えていた。
身体強化で加速してやって来たらしき賊がおっさんからすれば間近に迫る。そして、声が聞こえて来た。
「ヒャッハー!女だらけだぜぇ!!」
それを聞いたおっさんは躊躇いなくその後方から掛けてくる集団へと無言で射かける。それに続くようにサンポとヘタも続いた。
「キモ!」
そして、キャリーはそう言いながら戦輪をヒャッハーへと飛ばし、脚を切断して転倒させた。
激痛に騒ぐ賊だったが、矢で討ち漏らした残りの賊から見向きもされずに放置されている。
走り込んで来た残りの賊はキョーコとコータに両断され、悲鳴すら口に出来ずに倒れていった。
「で?アレから話が聞けると思うか?」
サンポがキャリーにそんなことを言う。
「じゃあ、どうしろって?」
喧嘩を買ったキャリーがそう返してまたワイワイ始めてしまった。
「ギャーギャー煩いので黙らせますね」
結局、賊は暴れるばかりで話せそうにないのでエミリーが介錯する事になった。
「こんな状況だと、そもそも後続の連絡員が出せるかどうかも怪しいですね」
2度目の襲撃にエミリーがそんな事を言う。
賊から情報を得ることは出来なかったが、これでは東方の状況は昨日聞いた以上に悪化していると考えるほかないなと思うおっさん。
「とりあえず、コレ片付けましょう」
誰も人死にを見ても動揺もせず、ただ淡々とメダルや装備品をはぎ取っては魔物を呼び寄せない様に埋葬する。
そこから少し進めば、エミリーの情報では宿泊施設がもうけられているはずだった。
「完全な無法地帯と化してるんじゃないか?」
おっさんは建物の残骸を視認してそう呟くしかなかった。
そこにあったのは、破壊された数棟の建物だった残骸と辛うじて建っている物見やぐらだったらしい柱だけである。
「どうやら、考えていた以上に厳しい状況になってるらしいな」
別の方向を見たサンポがそんな事を呟いた。