50・おっさんは帰還する
「なぁ~にハーレム形成して帰って来てんの」
おっさんが北の村へと帰還を果たすと、キャリーからジト目でそんな事を言われる。
「ん?君が召喚者の男の子か?」
帯同してきた森人がキャリーに尋ねた。
「誰が男だ!」
キャリーが森人にそう怒るが、気にした様子はない。
「ははは、違ったか。じゃあ、君?」
と、今度はコータに聞いている。聞かれたコータははにかみながら頷く。
「本当に男?結構かわいいんだけど」
以前、ウルホがそうしたように、コータへと近づいてジロジロ見る森人に顔を赤くするコータ。
「アンタまさか、男!」
キャリーがそう気づいてコータを引き離した。
「どうやら本当に男だったみたいだね。ああ、心配しないで。西方人と違ってそういう趣味は無いから」
そう言い切る森人だったが、おっさんは疑いの眼差しを向けていた。
「ダイキもそんな目をしてどうした?」
森人はおっさんに近づきそんな事を言う。
その姿はどこからどう見てもギャルである。染めたり抜いたりしている訳ではない薄い金髪なのだが、おっさんにとってはあまり関係がない。
郷での時間が残り三日となった日、ヘルッタとマリが相次いで懐妊したと告げられたおっさん。
「チッ、ダイキについて行こうかと思ったのに」
マリはそんな事を言っていたが、残念ならがそれは叶わなくなってしまった。
そして、ヘタがおっさんについて行くと言い出す。
「マリが行けなくなったならば私がお供させていただきます!」
そう断言するヘタ。とは言っても、彼女は郷でのパートナーすら決まっておらず、両親が反対していた。
おっさんとしても人間に直せばエミリーと同等かより年下に相当する彼女を引き連れて開拓地へ向かうのは気が引けた。ヘタからお呼ばれされなかった事も納得できたし、小学生高学年や中学生に相当すると聞いては、さすがに喜んで手を出そうとも思わなかったおっさん。
それでもなお食い下がるヘタに対し、両親はウルホに相談することとし、その決定次第という事になった。
おっさんもウルホに意向を聞かれたが、狩猟技術はともかく、やはり少々問題があると答える。
そして帰還前日、両親の説得で更に意固地となったヘタがおっさんのところへと押し掛け、連れて行くか血を分けろとゴネた。
そこで手を出せないのがヘタレなおっさんである。無駄な倫理観を働かせて説得を試みるが、精神年齢はともかく外見は既に大人に近い。
おっさんは悩んだ挙句、しばらくは手を出さないという条件で帯同を許す事をウルホへと告げてみる。
「そうかい?しかし、ヘタだけでは心配だからひとり付ける事にしよう」
ウルホがそう言ってヘタの両親を説得し、人を呼んだ。
その人物はどこか気だるげなな顔をしながらやって来た。見た目は申し分なく美人だが、「あーし」とか言いそうな雰囲気をおっさんは感じ取る。
「何だ?長。ケミから帰って来たところだってのに」
予想通りの口調にどこか納得するおっさん。そして、おっさんに気付くギャル。
「ん?誰?もしかして、影熊狩った召喚者?」
おっさんを見た途端、嬉しそうに駆け寄ってくるあたり、男じゃないのかなと思うおっさん。
影熊狩りについてあれこれ聞かれ、ドンドン距離が近くなると、森人特有の香りでおっさんはムラムラし出す。
「ああ、分かる。けど、俺、男な?西方人ってそう言う趣味の奴もいるけど、森人はそういう趣味ないぞ?あ、でも試してみるか?」
拒絶しながら誘って来る森人に乗せられてしまったおっさんだったが
「ホントに乗って来たよ。だから、そんな気ないって」
と、直前で突き放されてガッカリするおっさん。そう言う世界もありかもしれないと思っていただけに、悲しみは深かった。
「サンポはこういう奴だよ。ケミで西方人と関わって一層悪化したのかも」
そう言って額に手を当て憂いた顔をするウルホに見とれてしまうおっさん。
郷へ来て複数の女性と交わったにも拘らず、それでもウルホやサンポの魅惑的な美貌と色香に惑わされっぱなしのおっさんである。
サンポはウルホの最初の子で、すでに70歳。だが、どう見ても20代ギャルにしか見えない。
そんなサンポはここ30年ほどは、南西にあるケミという同じ弓を扱う森人の郷へと出向いており、西方国家との交流もあったという。
そのおかげか西方慣れし、口調も森人らしからぬ喋り方になっている。
「ヘタ?ああ、姪っ子の」
ウルホから話を聞いたサンポは何やら得心したらしい。
「わかったよ。外で色々あっても困るからさ。自重してくれよな?」
サンポがニヤニヤおっさんにそう言った。おっさんも郷での的中率から自重しようと思ってはいるが、ヘタではなくサンポに対しては怪しいかもなどと思っている。
そんな事があっての北の村への帰還である。
キャリーが騒ぐのも無理はない。
「この種馬、五人も子供作って来たのかよ」
蔑んだような目でおっさんを睨むキャリー。
「召喚者と森人の相性は良いと聞いていましたが、ダイキさんは凄いですね。これで森人にダイキさんの魔弓が受け継がれますよ」
エミリーに屈託なくそんな声を掛けられ、後ろめたさを覚えるおっさんだった。
「槍を扱うなら、君、ヨエンスーへ行けばより取り見取りだな。それだけ可愛けりゃ、40代50代が群がって来るの間違いなしだろ。連れて行ってやろうか?」
キャリーがサンポからコータを引き離していたが、目を離した隙にまたふたりで話をしている。
「だから、アンタはコータに粉掛けんなし」
そんなにぎやかな帰還に安心したおっさんは、鎧の話題を振った。
「うん、納得の出来だった」
という満足げなキョーコの姿に、おっさんもどこか安心感を覚える。
北の村へとやってきた後、キョーコは時折顔を出しては、最終的な手直しに助言していた。そして残すところはおっさんの鎧だけと言うので、期待に胸を膨らませているおっさんだった。
「ダイキさんの鎧、気になります」
サンポとキャリーの掛け合いが騒がしくて半ば忘れられたヘタだったが、エミリーとはすぐさま意気投合している様子に、おっさんもホッと胸をなでおろしていた。