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48・おっさんは思い直した

 おっさんはそれから5日ほど、次から次へと新たなお相手に頂かれる至福の毎日を過ごしたが、全員、ヒトヅマである。ヘタの様な独身では無かった。

 そもそも、ヘタからお呼ばれされていない。


「血を欲しがっているから、私たちも子を産める者たちに頑張ってもらっているんだよ」


 二巡目を過ごすある日、ウルホに尋ねるとそんな答えが返って来たおっさんは、本格的に価値観の壁を実感する事になった。

 おっさんの価値観から見れば、ハーレムや再婚などではなく、夫婦なのに他の男が妻の相手をするというのは異常としか思えないが、森人の価値観は大きく違い過ぎていて理解の範疇外だった。


 ウルホの妻と言うのは今も10人居るという訳ではなく、どうやら子を宿した後は別々に生活しているという。

 子は郷の宝でみんなで育てるという考えで、全くついて行けない世界である。


「だから、ダイキにも今が子を産みやすい40代50代の者を紹介しているんだよ。過去には色々いう召喚者も居たと伝えられていてね、今の形に落ち着いたんだ」


 というウルホに、納得は出来ないが、一応理解は示すおっさん。


 森人は誰を見ても美人ばかり、実のところ、40や50と言っても全員20代にしか見えない。人間の倍以上の寿命と考えれば、ウルホで人間の40代半ば、おっさんの相手は20代半ば前後に相当するのだろう。以前話したミカという100歳の美形はどう見ても50代ではない。精々30代だし、ウルホと今おっさんが相手をしている女性陣を比べて、年齢差を感じないのだからバグりまくりなのだが。


 毎日夜は充実しているおっさん。


 郷に来てからそれまで以上に元気になっているように自分でも感じているが、その理由がどこにあるのかは分かっていない。


「今日も痕跡はないね」


 より問題なのは、影熊(ステルス)の痕跡が一切見つからず、毎日シカやイノシシを狩ることはあっても、目的の獲物には出会えていない事だった。


 熊の痕跡をマリが見つけた事はあったが、他の熊だと断言しているので、おっさんにはどうする事も出来ずにいる。


 三週間に渡って森を探索して手掛かりひとつないというのは、もはやその影熊(ステルス)と言うのがただの伝説か何かではないかと思うようになったおっさん。


「そんなことはありませんよ。幻ではない証拠に、キミオが狩った具体的な話が伝わっています!」


 というヘタ。


「キミオだけじゃないんだよね。100年に一度程度には狩られているはず。現に私の祖父がしっかり探索法を遺してくれているよ」


 というマリ。


 たしかに、マリの探索スキルは優秀で、シカやイノシシの数や年齢まで糞や噛み痕から導き出してしまう。これほど狩りがやり易いことはエミリーと組んでからこの方あり得なかったほどだ。それほど優秀なマリをして痕跡一つ見つけ出せなのだから、一体どんな相手か、おっさんは周囲をくまなく探りながら、様々な想像を巡らせていた。


「ここにも熊の痕跡がある」


 その日、マリが熊の足跡を見つけた。


 オスの7歳になる単独の熊であるという。足跡の方向からとくに郷に脅威となる事もないし、群れを成している風でもないとまで読み取ったマリ。


「この熊も外れだね」


 そう言って探索を再開する一行だったが、おっさんはふと奇妙なものを見た気がした。


 見えたというより、何も見えなかったと言う方が正しい。


 おっさんは熱感知と魔力感知が可能で、サーモグラフィーとして周囲を探れば、かなり遠くまで状況が分かるのだが、その時は一部が欠落しているように思えた。

 しかし、そう思って見返した時には、特に異常はなく木々と木漏れ日という状況を認識する。


「ダイキ、どうかした?」


 マリが立ち止まっているおっさんに声を掛けると、おっさんも気のせいだろうと歩みを進める。


 その日も全く痕跡一つ発見できずに探索を終え、郷へと帰ることになった。


 翌日の事、おっさんは朝、同年代の、いや、同年代と言ってもここ最近ようやく郷の人たちの年齢や性別が何となく感覚で分かるようになったので、100を優に超える美魔女と推定した相手から声を掛けられた。

 美魔女であってイケオジなどではないだろうというのもある種の勘の様なモノだったが。


「召喚者殿。おめでとうございます」


 いきなりそんな事を言われて、何のことか分からなかった。


「お相手をしていたエイネが子を宿しておりますよ」


 そう言われ、なるほどと納得した。エイネは4人目に紹介された46歳のたれ目の美女で、かなり絞られた記憶があるおっさん。


「それは良かった」


 本当に良かったと思うおっさん。郷に来て元気が有り余る様になったおっさんだが、それでも郷の女性たちは猛者であり、普通であれば音を上げていただろうと回想する程度には、ハードな夜が続いている。


「チッ、エイネめ」


 現れたマリが舌打ちをして悔しがっているが、こればかりはおっさんにもどうしようもない。


「エイネの分もマリに使うといいよ。今のマリなら期待できるからね」


 そういう美魔女の声に顔をほころばせるマリ。おっさんにとっては天敵である。


 この日も成果はなく、ただ毎日のように誰よりも多くのシカやイノシシを持ち帰ったのみだったが、違和感を覚える事が起きたおっさんである。

 ただ、その違和感が何であるのかは、やはり分からなかった。


 そして、それから10日に渡り、違和感を感じる毎日が続き、さらにふたりの懐妊報告を受け、マリの鼻息はどんどん荒くなっていくばかりである。


 そして


「ダイキ、ヘルッタの同意は得た」


 そう言ってマリの家で夜を過ごすことが常態化してしまう。


 付いてない事は理解している。付いてない事は確認している。付いてない事は感じている。


 だが、それでもイケメンに毎日押し倒されるのでは、危ない性癖に目覚めそうになる。それでも干からびず、集中を切らさずに昼は探索が出来ているのだから、この郷はおかしい。そう思う程度には、まだ正気を失っていないおっさん。


 そんな日の事、おっさんは違和感の正体を知る。


「なにかおかしい」


 おっさんはいつものように探索中は熱感知や魔力感知を行っているのだが、時折何もない場所が出現する。

 これまで気のせいだと思い。毎夜の戦闘が集中力に影響しているのだろうと思おうとして来た。だが、やはりそれは気のせいではなさそうだと思い直したおっさん。


「どうしたんです?」


 ヘタに声を掛けられたが、それを手で制し、おもむろに弓を構える。


 何かが居るというのではない。木々が立ち並んでいる筈の場所に、ふと「何もない」場所が浮かび上がっている。

 それは違和感以外の何物でもなく、その光景はもはや気のせいや集中力切れで片付けることが出来なくなっていた。


「動いている」


 おっさんはそう呟き、「何もない」移動するソレへと誘導を付与した矢を放った。


「何をやっているんだ?」


 マリが気が付いた時には矢を放った後だった。 

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