47・おっさんは飛び起きた
翌朝、おっさんは身近に人の温もりがある事に驚き飛び起きた。
よく覚えていない記憶を手繰り寄せ、ゆっくり視線を落とせば、美女の裸体が視界に入る。
酔って面白半分で「男同士でもこの際」などと口走ったおっさんにノリノリで合わせていたマリと部屋に入り、言葉巧みに誘われ、気が付いた時には気持ちよさに頭が支配されていたおっさん。
改めて見下ろした裸体はやはり起伏に乏しく、なだらかな平原が見えるだけだった。しかし、間違いなく付いてない事は自ら確認してしまったので、間違っても男ではなかった。
「先に起きたのかい?」
そんなイケメンな言葉と共に微笑むマリにどういう態度をとれば良いか迷うおっさん。
「ダイキは血を分ける為にやって来た召喚者じゃないか。そんな顔をしなくて良いよ」
その言葉で責任をマルッと投げ捨てる程、おっさんの心は強くない。
「そうは言ってもなぁ」
おっさんがどうすれば良いか迷っているうちにマリは起き上がり、服を着る。
おっさんも心の整理はついてはいないが、促される様に服を来て部屋を出た。
おっさんは昨夜、自分がどこに泊まるかも知らないままに呑んでおり、今居る場所に驚きを隠せなかった。
「え?ここは・・・・・・」
そこはどうやらマリの家、他にも家族が居るようだった。
「召喚者殿も起きて来たの?」
これまた美女が居るわけだが、マリの説明によれば、夫であるらしかった。
何を言っているのかおっさんにはまるでわからなかったが、密会とか浮気なんてチャチなもんじゃ断じてない、とんでもない恐怖心が襲って来た。
「しかし、マリもいきなり召喚者を連れ帰るとは、そこまで焦らなくても良いと私は思うのだけど」
なぜか間男への怒りや嫉妬という類いの修羅場は発生せず、まるで酒癖の悪いルームメイトの無作法をを叱る様な態度にどうして良いか分からないおっさん。
「そうは言っても仕方ないだろう。アウリで三人目。さすがに私には後がない」
と、マリもよくわからない話をしだした。
ふたりの会話から、おっさんは森人の特異な価値観や家族の在り方を知る。
森人は長寿であるが、その分子供が産まれにくいらしく、二十歳頃にまず最初の結婚らしきものが行われるが、10年子供が生まれない者達はシャッフルされ、別の者同士でと二度目の結婚をする。さらに5年、子供が生まれない時は、子の居る50前後の家庭に引き取られ、3度目の結婚となる。
マリは20年に渡り子供が生まれなかった。
男女どちらが原因かはわからないため、一度目のシャッフルでパートナーが変わり、男側はめでたく懐妊したらしい。さらに5年後の二度目のシャッフルにおいても、結果は同じだった。
そして今に至る。
おっさんは20年に渡って磨かれた話術と技術に翻弄されたのだと悟り、複雑な気分だった。
「召喚者はひと月やふた月あれば複数を懐妊させられる。私にはもうこの手しかないじゃないか」
夫をそう言って説得する妻。まったく理解の外な光景に、おっさんはついて行けなかった。
「ウルホが引き合わせたのなら、期待があるのだろう。マリ、頑張りなさい」
理解のある夫の賛同を得た妻がおっさんへと振り返り、今さらながら、アウリを紹介され、キョドるおっさん。
「召喚者殿、マリは魔弓使いとして一流です。あなたとの子なら、きっとその血を引く優れた魔弓使いになるでしょう」
夫が後押しする姿には、もはや思考放棄するしか考えつかないおっさんだった。
森人の価値観や習俗に触れ、考えるのを今度こそ放棄したおっさんは、ウルホの孫が挑んできた熊を狩る事に集中すると心に決め、夫婦の会話を極力耳に入れない様に朝食を摂る。もはやこの状況すら思考から追い出していた。
その後、そのウルホの人となりなどをマリに聞いたおっさんは、さらに驚くことになった。
ウルホは最初の結婚で見事に子が生まれ、子の出来なかった年上の妻を早々に迎え、そこでも子をなし、さらに次をといった具合に、森人には珍しいと言われる10人の妻に12人の子供を為し、最年少は孫より年下であるらしい。
まさしく篤馬とはウルホの事だった。
おっさんとマリはヘタを迎えに行く道すがら、ウルホにも声を掛ける。
「おやダイキ、さっそく励んでくれたようでうれしいよ。マリは子がいなくて悩んでいたからね。別に森人には珍しいことでもないんだけど」
などと言う種馬ウルホさん、外見からは全くそうは見えない事に複雑なおっさんである。
「でも、きっとダイキなら大丈夫。キミオだけじゃなく、召喚者を招いた際にはほんの数か月で成果が上がっているから」
あまりの期待度におっさんは引いた。
その後、ヘタを迎えに行き、ようやく今日の行動が開始されることになった。
ヘタはおっさんとの子供よりも二十歳からの10年間をおっさんと冒険をして過ごす事に期待を持っているらしく、マリとの事は全く気にしている様子はなかった。
おっさんからすれば、森人の郷を訪れた早々に三角関係などと言うボーナスステージに対応する術はなかったので胸をなでおろしていた。
影熊の探索は思うように進まない。
初日は痕跡すら発見できずに郷へと帰ることになった。そもそも森で野営するほど離れる必要はなく、そんな遠方ともなれば他の郷へと至ってしまうため、よほどのことが無ければ日帰りが基本だった。
郷へ帰ったおっさんはここにもあったサウナへと向かうと、色気の漂う森人に出くわした。
「森に入っていたの?随分な遠方から仕留めたそうじゃない?」
などと話しながらサウナへと入り、なぜか話の流れでその人物の家へと招かれることになった。
「うちの娘は50になっても次の相手に見つけようともしないで・・・」
などという会話を聞きながら食事をし、流れる様にその娘を紹介されてしまう。
森人の50歳である。どう見ても20代にしか見えないし、きっと人間で言えばそのくらいに換算して間違いないだろうなどと考えているうちにあれよあれよという間に押し倒されていたおっさん。
2度の結婚をし、子供のいる手練れ相手に抵抗できる訳もないおっさんは、2日目もおいしく頂かれるのであった。