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43・おっさんは急かされる

 そんな事をしているとあっという間に期日がやって来た。


「おお、凄い」


 キョーコが日本刀に魅入りながらそんな事を呟き


「え?蛇の革ってこうやって使うんだ」


 と、コータが薙刀の柄をしげしげと眺めている。


「イイモン手に入れてくれたからな、一番良い所を使ってある。どうだ?」


 鍛冶師は自信満々にそう言う。


「ソイツでなら、全力を出しても折れたりしねぇぞ」


 自信ありげにそう胸を張る鍛冶師。


「大丈夫。この前よりも魔力の扱い方に慣れた。切れ味特化で使えばコレはもっと良くなる」


 と、壁を破壊した先日とは違う扱い方を口にするキョーコである。蛇を狩る際に遠距離ではまるで倒せないと知って近接高威力型に扱い方を変えた結果だった。


 もともとキョーコの様な遠隔攻撃が得意ではなかったコータも、近接威力型ならばキョーコに引けを取らないため、以前よりも自信がついている。


 二人は満足したようで、ギルドへ行って何か依頼でも探そうかという話になった。


「お、撃墜王。北方からお前さんに呼び出しが来てるぞ」


 ギルドに入るなり、おっさんへとそんな声が掛けられた。

 太鴨(ネコ)狩りでいつの間にやらそう呼ばれている事に苦笑いするおっさん。


「何でしょう。ダイキさんの鎧が完成したんでしょうか?」


 エミリーが不思議そうに聞いてくるが、おっさんにも分からない。ギルドに齎された話も、鎧など一言も無く、ただ来いという話である。


大山猫(タマ)を仕留めたんだろ?新たな獲物の依頼でもあるんじゃねぇか?」


 受付もさして内容に興味はないらしく、ギルドらしい発想からそんな事を言うだけだった。


「それが一番可能性があるか」


 おっさんも受付の言葉に納得し、キョーコやコータを見る。


「別に良い。道中で試せば良いから」


 おっさんの意図を察したキョーコがそう言うのでおっさんは明日には出発すると受付に告げる。


 翌日、おっさんパーティは南の街を出発し、荒野を北上して行く。


 連絡路のその後を聞こうと復路も宿場町ギルドへと立ち寄る一行。


「おう、早かったな。聞いたか?」


 という受付の言葉に頷くおっさん。もちろん、ここでも詳細な話は聞けず、呼ばれた理由は分からないまま。


 連絡路の一件からこちら、変異種は現れていないとのこと。


「まさか、あんな変異種が居るとはなぁ、街道や集落にでも現れたら大事だぜ」


 受付の言う通り、とんでもない被害がおっさんでも予想出来る。そんな事もあって徹底した調査が行われ、行方不明だった冒険者の遺体も発見された事から事件は解決したと言われたおっさんは、翌日には宿場町を発ち、東征村を目指すのだった。


 数日後に東征村へと着くと、あの賑やかさが嘘のようだった。


「かなり人が減ったね」


 急ぐおっさんに対し、復路の間中文句を言っていたキャリーが街を見回してそう呟いた。


「開拓地への出発点だから、春はこうなるんだよ。春一番で東方から齎された情報がギルドに張り出されたら、ソレを見た冒険者から東へ向かう」


 エミリーが解説する処によれば、春一番の情報には依頼そのものは含まれてはいないが、複数ある開拓村や開拓地の情報が網羅されており、その情報から、目指す開拓地を決めるのだという。


 実際に何を行うかは行ってみないと分からないが、後から具体的な依頼が東征村まで届く頃には、高額依頼や実入りの良い依頼は現地の冒険者が受け、余った依頼が回ってくるという。

 そんな割に合わない依頼や難易度の高い依頼は確かにギルドの昇級には有利で、昇級を望む者達が受けるという。


 もちろん、春一番で受ける依頼を誤ればひと夏の収入にも響くため、2便目以後の詳細な情報を待つ者も居る。


「街の雰囲気が違うのはそれか。怪しそうなのと自信家っぽいのがやたら多いね」


 キャリーの感想におっさんも同意だった。ザ・冒険者!という風情のムキムキ野郎やビキニアーマーではないが、やり手のバリキャリ風冒険者が目についた。

 あとは、後ろ暗そうな奴もチラホラ。


 ギルドで名を告げれば、やはり北の村からの呼び出しを告げられ、しかし、内容については何もない。


 少し東方について知ろうと聞いてみれば


「猿が馬に乗って暴れているのか?」


 謎な情報が張り出されていた。


「ゴブリンライダーみたいな連中かな?」


 と言うコータ。


「ゴブリンが他の魔物を使役して群れを作っているんだ。人の居ない未開地だから、知恵を持つ魔物が他の魔物を付き従えて社会性を獲得してるのかも」


 受付によれば、当たらずも遠からずと言ったところらしい。

 ただ、東征村ギルドにもまだそこまで詳しい情報はないため、熊や虎の様な個として強力な魔物とは違う状況が生じた事しか分からないらしい。


 おっさんからすればなんとも中途半端な内容であり、そんな不確かな情報で向う気にはなれなかった。


「この世界の魔族だったりして」


 話を聞いていたキョーコがそんなことを言った。


「魔族って、角の生えた奴?」


 キャリーも参加してくる。


「でも、猿みたいな姿だから、ラノベやアニメみたいに『角があるだけで人間と変わらない容姿』とは違うっぽいよ?」


 と、コータが付け足した。


「分かっているのは組織だって動く群れが現れたって段階で、それがタタールみたいな蛮族なのか、魔族みたいな異種族なのかも分かってないんだな。こんな情報じゃあ動きようがないなぁ」


 おっさんは少年少女の議論をそう言って打ち切った。


 おっさんは自身が呼ばれた理由を知りたがったが、「なるべく早く」以上の話はここでも聞けなかったのだ。


「おっさん、何で止めたの!」


 キャリーが突っかかるが、おっさんは笑う。


「まさか、せっかく注文した鎧も持たずに行く気だったか?」


 そう言われては、言い返しようがないキャリーである。


「相手が騎馬なら、ちょっと今のままじゃ無理」


 キョーコの援護を受けたおっさんは得意げだった。


 そして、休息もそこそこに北の村を目指して旅立つおっさん。


「ちょっと、少しは休ませろ!」


 キャリーがそう叫ぶが、急ぎの用らしいと知れて、要望は無視される事になった。 




 


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