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38・おっさんは頭を抱える

 翌日、体の疲れはとれたものの、心に何か重たいものを抱えて出発する事になったおっさんは、荒野を更に南へと進んでいった。


 南下を続けること二日、辺りはこれまでの荒涼とした風景から草原が広がる光景へと変化していく。

 南を向けば山脈がそびえており、あれがどうやら王都からも遠望できた大山脈であるらしい。


「壁みたいだね。あれ」


 キャリーがそう言うのも分かる山脈である。どうやらあの山脈が南北を分かつ壁と言われるそうだが、なるほど、そう言われても不思議はない威容を見せている。


 その山脈の住人たるドワーフみたいな種族が住み、鉱石の採掘や鍛冶を生業にしているとの事だった。


 とくにこの南の街ではすぐ近くで燃料となる鉱石の採掘地があるとかで栄えているとの事だが、この辺りはまだなだらかな丘陵が続く地域で、鉱山が何処にあるのかよく分からない。


「あ、あれがその鉱山ですね」


 と、エミリーが指さす方角には、切り崩された丘が見えている。が、石炭が採れるようには見えないと首をかしげるおっさんだった。


「燃料ってもしかして魔石?」


 そんな問いかけをしたのはキョーコだった。


「魔石?熱を出す石だけど、魔力が噴き出すとか聞いたことないかな」


 というエミリー。


 その会話を聞いて、やっぱり石炭的なナニカだろうと思うおっさんだったが、街が見えて来るとその考えに不安がよぎる。

 街には高い煙突も無ければ、19世紀的な工場群ではおなじみの黒煙を吐き出す煤汚れた情景すら見られなかったからだ。


「鍛冶が盛んな街なのに煙が出て無いんだね」


 と、おっさんと同じ疑問を持ったコータ。


「え?何で煙が出るの?ああ、この辺りは炭や薪を使わないんだ。鉱石の熱で鍛冶をやって、料理や暖房もそれを使うから」


 と、やはりエミリーはさも当然の様に返す事に更なる疑問を深めるおっさん。


 そんな事を話ながら歩いていると、西の丘の向こうから伸びる道が見えて来た。どうやらあれが王都から南の街へと繋がる街道であるらしい。


 双方は合流することなく南の街へと入っていく。街の入り口で待たされるでもなく入れたのだが、そこは王都とちがって職人街といった風情で、統一感のある街並みからは程遠かった。


「まずはギルドへ向かいましょう」


 というエミリーに先導され、冒険者ギルドへと向かえば、そこは王都や東征村同様の造りをした建物、中に居るのもやはりよく似た連中だった。違いと言えば、横幅のある力士のような体型をした連中が散見されるくらい。


 受付に座っていたのもやはり横幅のあるいかついおやじであった。


「ほう、こんな時期に鋼級のパーティとは珍しいな。今頃来たんじゃ、東へ向かうのは夏ごろだろ。大丈夫なのか?」


 イメージ通りの渋い声でそういう受付。


「ほとんどが召喚者だから。王都じゃ武器が手に入らなかったんで、こっちを紹介された」


 おっさんがそう言うと、受付は全員をジロリと眺め、メダルを確認する。


「赤やオレンジともなりゃあ、王都じゃ無理だわな、金はあるのか?」


 召喚者と言う響きに驚かない受付に不思議を持ったおっさん。


「ああ、召喚者ならお前ら以外にもやって来たからな。もっとこぎれいな格好をしてたぞ、連中は」


 キャリーがその言葉に反応したが、何を問うでもなく押し黙ったままだった。


 受付は個々の能力を聞き、そこでおっさんとキャリーの能力に驚きを示す。


「何?魔弓使いか。投擲というのも珍しいな」


 コータとキョーコは以前のメンバーにも似た連中が居たらしく、おすすめの鍛冶屋を教えてくれた。


「必要なのはニホントーって細曲剣とバルディッシュ風のナギナタって槍だったな。なら、ビッチューのところへ行きな。召喚者の技を継ぐ鍛冶師だ」


 召喚者の中には鉄鋼なのか刀剣なのか、そちらに明るい者が居たらしい。錦帯橋の様な橋を造る者が居たり、刀剣に詳しい者が居たり、過去の召喚者は単に魔物を倒すばかりでは無かったという事なのかと考える。おっさんにしろ、いま居るコータやキャリー、キョーコも、誰もその様なこちらへ知識や技術を伝えられる者は居ない。話を聞いた限り、他の召喚されたメンツにも居なさそうだった。

 召喚と言うのは単に魔物退治の為だけではなく、技術習得のためにも行われているのだろうかと、少し考え込むおっさんだった。


「刀が手に入るのかな。楽しみ」


 キョーコがそんな事を言い、コータもどこか嬉しそうなのを見て、頭を切り替え、教えられた鍛冶屋へと向かうおっさん。


 教えられた鍛冶屋へと到着すると、そこはいかにもと言う建物だった。ただ


「これ、店やってんの?潰れてない?」


 キャリーでなくともそう思うほど外観が終っていた。それでも入り口を覗けば、中に人の気配がある。


「誰だ?冷やかしなら帰れ!」


 ズカズカとやって来たいかにも職人と言った風体のオヤジがおっさん達を見てそう言う。


 キョーコが刀が欲しいを告げると、ジロジロとキョーコを眺め


「ほう、召喚者か。刀ってもお前、どんなモンが必要なんだ?」


 一目で召喚者と判断し、必要な刀について問い質してくる。兵法家であるキョーコがどんな刀を所望するのかおっさんも興味があった。

 興味津々でキョーコを眺めるおっさんだったが、そこで押し黙って何も言わないキョーコ。


「おい、どうした?何も言わねぇんじゃ、どうにもならんだろ」


 鍛冶師の言う通り、要望を伝えなければ始まらない。なにより数打ちの刀などは置いていなさそうだし、刀と言っても長さも異なるのだから当然だ。


「私にも分からない。このサーベルでは思いっきり振れない事なら分かるんだけど」


 というキョーコの言葉に唖然とするおっさん。


 これでは相手の機嫌を損ねるんじゃないかとおっさんが身構えていると、鍛冶師は突然笑い出した。


「はっはっはっ、素直な嬢ちゃんだ。この前来た奴は可笑しな装飾ばかり語って大変だったからな。どれ、得物を振ってみな」


 おっさんがそう促し、キョーコはその場でサーベルで居合をやり、一通りの型を披露した。


「なるほどな。その上で、魔力も乗せるんだよな?ちょっとこっち来い」


 おっさんに促されて中へと入ると、そこは外観からは想像できない程綺麗で、ついて行けば試し斬り場らしき場所まで完備されていた。


「魔力を乗せてアレに当ててみな」


 そう言う鍛冶師に促されたキョーコが斬撃を放つ。


「ほう。コイツは中々、で、お前らは?」


 そういっておっさん達を見て来るので、コータに促し、キョーコの倣って型を見せ、的へと切りつける。


「ふむ。なるほどな。連中よりうまく扱えている。それに、ナマクラを労わるだけの加減も分かっているな」


 そういっていくつかのサンプルを持ち出してキョーコに手渡す。


「ちょっとこいつらを振ってみてくれ。その中でどれか馴染む物があれば言ってくれ」


 そう言って再びキョーコがそれらを試し、中の一つを選んだ。


「壊していいぞ。全力でやってみろ」


 そう言われたキョーコが斬撃を放てば、的どころか壁まで崩れてしまった。


「あ、折れた」


 キョーコの言う通り、刀も半ばから折れている。だが、壁を破壊した事が気になるおっさんは鍛冶師の顔色を窺った。


「おうおう、やるじゃねぇか。こいつは作り甲斐がありそうだ。そっちの嬢ちゃんもやってみな」


 と、壁の破壊など気にも留めずコータにも促し、さらに壁を崩すことになった。その向こうの建物の壁にも破壊が及び、おっさんはどうしようか心の中で頭を抱える。


「壁なら気にするな。どうせこの建物はボロイからな。チョチョッと直せば仕舞だ」


 などと呑気に言う鍛冶師だった。


 

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