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37・おっさんは再確認する

 翌朝、おっさんは朝早くから起き出してサウナへと向かった。

 ギルド宿舎のサウナは深夜を除いて利用可能で、夜飲み明かした冒険者が酔い覚ましに入る事も想定している。

 この世界は日本ほどではないが召喚者達が伝えた習慣として入浴が定着し、こんな場末のギルドにすらサウナが設置され、開拓地のギルドにすらあるとおっさんは聞いていた。


 おっさんがサウナに入るとすでに先客が居た。昨日助けたパーティのひとりだ。

 男同士の話など話題は知れたもの。彼はおっさんにパーティメンバーとの関係を聞かれ、驚かれる事になる。

 おっさんと三人が召喚者である事にまず驚かれ、コータが男だという事も、やはり分かっていなかった。おっさんからすればどうやれば女に見間違えるのか分からないが、彼にはそう見えるらしい。


 さらにエミリーとの関係を問い詰められるが、この世界と日本の常識の違いが立ちはだかる。


 この世界における成人であるエミリーに手を出す事に何の罰則もないのに、召喚元の価値観で手を出さないおっさんを不思議がる冒険者。


 さらに話は彼らパーティへと移り、五人が常からその様な関係である事に驚くおっさん。


「都会での話は知ってるんだが、俺らの村じゃ、養える奴が養う。産める奴が産むって考えだ。二人もそれを受け入れているよ」


 と言う冒険者。ネットで見かけた昔の日本の農村にあったとされる慣習みたいだなと思うおっさん。彼らのうち彼ともう一人の男、そして女性一人は同じ村出身らしい。


 話が進めばエミリーの話題に戻り、開拓地や王都の様な都会であれば、彼女の年頃は働き手であり、子育てには早いとの話を聞き、どこかホッとするおっさん。


 話しているうちにサウナには人が増え、おっさんは水風呂へと向かうため件の冒険者と別れる。彼は仲間が現れたのでもう少し粘るそうだ。


 おっさんは一度部屋へと戻るとエミリーに出会し、気不味いかと身構えたが、彼女は引き摺ることなく笑顔を向けて来たのでホッとするおっさん。


 それでも不安なおっさんは冒険者との話に出た様に、もう少し冒険者としてやって行こうと告げる。

 おっさんは結論を先延ばしたつもりだが、エミリーがその通りに受け取る保証はない。


 二人が飲食ブースへ向うとすでに三人が居り、コータの顔が赤い。晴れやかなキャリーを見て察したおっさん。

 ひとしきり二人をからかい、真っ赤なコータと賑やかなキャリーを見ておっさんは安心した。


「あたし、おっさんは無理だから。あの五人とは違うから、ちゃんと理解しときなよ」


 などと言われ、若干ショックを受けたのだが、すかさず慰めてくれるエミリーに癒されていた。


 そんなおっさんのパーティは今日は休息である。


 昨日助けたパーティや遺品回収に関する確認などもあり、足留めされて動けない事も都合が良いので否やは無かった。


 おっさん達が仕留めたコウモリは予想通り、確認されている既知の爆音蝙蝠(エルラッド)には見られない特徴があるらしく、生き残った二パーティからの聞き取りも行われている。

 おっさん達の被害は軽微で、エミリー以外に催眠術にかかった者はいなかった。


 おっさんは総統閣下の演説が聴こえ、コータは泣きゲーのメドレーが聴こえたらしい。キョーコは知事選政見放送のぶっ飛び演説だったらしい。キャリーはおっさんの予想した様に教師の説教だった。


 なぜこの様な違いが出たのか分からないが、召喚者とこちらの人達では受け取る内容が違うのだろうと言う話に落ち着いている。

 おっさんはテレビやネットの発達した日本とこの世界では著しく情報量が違う事に原因があるのではと思い当たるが、比較すら不可能なので口にする事はしなかった。


 それからしばらくはダラダラ過ごし、昨日の状況について聴取も受けた。


 かなり暇なのだが、この宿場町は単なる休息場所が大きくなって出来た町、本当に何もない。


 そんな暇を弄んでいた昼過ぎの事、早くも調査に出向いていた見知った冒険者が帰った来た。


 さすがに早すぎるとおっさんが疑問に思っていると、見知らぬ冒険者が彼らに続いて入って来る。


 彼らは受付へと向かい、しばらく話していたが、受付はおっさんや被害パーティのリーダーを呼び寄せる。


「今朝、調査に出てもらった訳だが、西からコイツらがやって来た。向こうも不通の原因調査を始めていたらしい」


 という。


 この宿場町から西の町まで情報を送るには、南か北への迂回を要するためかなりの時間が掛かる。さすがにのんびり待っている話では無いので、西からも調査に乗り出したと。


「幸い、この数日は西から連絡路に入った商人は居なかっが、到着予定の行商が予定日を過ぎても来なかったそうだ」


 この時期は頻発に往来がある訳では無いらしく、偶にこの宿場町を中継した行商が通る程度らしい。連絡路が活躍するのは秋から初冬にかけてらしく、雪解け時期の今は道も荒れ、人通りも疎らになり、夏から秋に修繕作業が行われるとの事だった。


「この時期の行商だ。稀な話だから到着が何日も遅れたら話題にもなる。で、何か起きたのかと調査に出た訳だが」


 その結果、ここから半日ほど西進した場所で、横転した馬車と振り落とされた行商が発見されたらしい。

 行商はすでに息を引き取り、ケガをした馬だけが生きていたが、すでに衰弱状態のため処分して埋葬してきたらしい。


 宿場町には行商ギルドも存在するため、行商の身元確認や足取り調査にと赴いたらしい。

 その途中で出会った調査パーティと話を擦り合わせ、今に至るとの事だった。


 件の岩場より西に危険はなく、行商が第一被害者であったらしい事が判明した。

 西の宿場町では盗賊の可能性が考慮されたらしく、彼らは重装備だ。


「分かってみりゃ、大した事は無かったな!」


 などと言っているが、おっさん達が居なければどうなったか分からない。が、そんな無粋な発言はしなかった。


 どうやら問題は解決し、調査の結果、おっさん達には報酬が支払われた。


「これだけ?」


 期待していたキャリーやコータはその少なさに落胆してそんな事を言う。


「命の価値がこれ。さすが中世異世界」


 キョーコは呆れを帯びてそう言った。


 おっさんも命の安さを実感したが、時代ややっている事を考えれば納得だと思った。


 さらに


「俺たちがやろうとしてることだって、開拓地の障害なのは確かだが魔王討伐じゃなし、あんま力まずやろうか」


 と、再確認するのだった。


 


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