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36・おっさんは悶々とする

 近付けばさらに酷い惨状に目を背けたくなるおっさん。


 おっさんだって三人より多少マシな経験しかなく、エミリーほど自然に動ける訳では無い。


 二人目の冒険者は額を斬られ、どう見ても生存は絶望的だった。


「冒険者の中には少し間違えば盗賊と変わらない考えを持ってる者も居る。昇級の為に仲間すら踏み台にする者だって居る」


 呆然と見つめるコータにエミリーが厳しい口調でそう告げる。


「拘束が無理そうなら、錯乱した冒険者は殺すしかない。覚悟して」


 そう三人を見ながら口にし、最後におっさんを見るエミリー。おっさんへの信頼からなのだろうが、おっさんにもそこまでの覚悟は出来てはいなかった。


「そうだな」


 おっさんも甘い言葉は口にしない。拘束しようとして仲間が斬りつけられる方が困る。ここは日本とは価値観も常識も違うと改めて理解するおっさんだった。


 しかし、幸運なのか、それとも不幸なのか、三人パーティであったらしい彼らの仲間を連絡路周辺で見つける事は叶わず、少し進んだ場所でよりショッキングな場面に遭遇してしまう。


「ちょ・・・・・・」


 生まれたままの姿で組んず解れつする五人の姿があった。確か男三人女二人のパーティのハズだ。


「どうします?」


 エミリーが困惑しながらおっさんに聞く。しかし、聞かれたおっさんも困っている。


「水が足りているなら先に魔物を探すか」


 年頃の少年少女ばかりを引率するおっさんは、その痴態に足を踏み入れる事を先送りし、顔の真っ赤なコータを促し、先へ進んだ。

 先ほど冒険者の死を見てショックを受けたコータとキャリーであったが、コータは顔が真っ赤だし、キャリーは


「あいつらってずっとヤる事ばっか考えてたって事?呆れた」


 と、先ほどのショックから立ち直ったらしい。


 おっさんも五人の痴態から目を逸らし、道の先を見据える。

 

 その時、ふと何か聞こえる気がした。


「ダイキさん、助けていただいたあの時から私はダイキさんを想っています」


 エミリーが蕩けた顔でおっさんに抱きついてきて困惑する事しきり。三人を見れば、どうやらおっさんに気を向けてすらいないらしい事が見て取れる。


 コータは何やら郷愁に浸っている様だし、キャリーは顔に怒りをたたえている。キョーコは何やら呆れた顔だ。


 おっさんは蕩けたエミリーを引き剥がそうとするが叶わず、何やら目障りな音に意識を向ければ


「*★◯▼チクショーメ!→◇☆ブルル~ン!」


 と、聞いたことのある総統閣下の独白だか演説がエンドレスで聴こえてきた。


 これをどうするにもエミリーを引き剥がさなければ体の自由が手に入らない。

 しかし、エミリーは周りが目に入らないのかおっさんだけを見て愛を囁き、顔は蕩けたままだった。


 何が居るのかハッキリとは分からないが、何かが居るのは間違いなく、演説の方角からすれば、ある程度の推測も成り立つ。


「キャリー、あの岩の隙間が怪しい!」


 おっさんは声を張り上げキャリーに叫ぶと、こちらへ振り返るが


「何?聞こえない!」


 と、怒り顔で怒鳴られたが、おっさんは諦めずに何とか自由になった左手で岩の隙間を指し、訴え続けると、どうやら察したらしい。


「このウザい説教があの岩の隙間から来てんの?」


 そう言ったキャリーが魔力で投擲武器を生成しようとしたが巧くいかない。何度やっても同じだった。

 おっさんも試しに弓を出そうと試みたが無理だった。 


 少し距離のあるコータの声は聞こえず、おっさんの叫び声も届いてさえいない様に見受けられ、キョーコは何か笑っている。


 おっさんにしがみつくエミリーはもはや正気には見えず、催眠状態なのだと思われた。


 エミリーにしがみつかれ何も出来ないおっさんは、とにかくキャリーに何とか望みを託す他なく、あそこだアレだと叫び続ける。


 キャリーも理解はしており、魔力生成が叶わないと知ると、足下の石を拾い投げ出した。


「くたばれセンコー!くたばれ教育狂い!」


 なんか聞かない方がよい叫びを発しながら投げ続けるキャリー。


 しばらくするとキョーコも気付いて攻撃を始めたが、斬撃は飛ばないらしく、何の効果も現れなかった。


 そして、二人が岩の隙間を攻撃する姿に気付いたコータも加わり、何とか音が止み、コータがおっさんへと近づいてくる。


「いつものエミリーらしくない」


 などと笑いながら近付き


「エミリー」


 と声をかけ、振り向いたところへギルドでやった様に催眠解除を行えば、ハッと我に返っておっさんを見つめて赤くなるエミリー。


「あの、すいません」


 おっさんはそんなエミリーに優しく微笑み


「嬉しいよ」


 と伝え、現状を説明した。


「まず、岩の隙間を確認しましょう」


 まだ少し顔の赤いエミリーがそう提案し、皆で岩の隙間へと向かえば、そこは人が二人は入れる空間があり、大型のコウモリが地面に倒れていた。


「これが暴音蝙蝠(エルラッド)?」


 しっかりトドメを刺しながら疑問を口にするキャリー。


「かなり大型なので変異種かな」


 エミリーがコウモリを見ながら答える。


 そこに他の魔物は居らず、おっさんたちは先送りした懸案の元へ歩を進める。


「コータ、頼む」


 顔の真っ赤なコータを促し、過激な運動を続ける五人の元へと促す。


 一度に五人の解除は行えず、あられもない男女の中を数分かけて何とか全員の注意を退きながら催眠の解除を行うコータ。


 五人は少々やつれてはいるが健康そうで、イカ臭い異臭を放つ以外に問題は無さそうだった。


「いや、面目ない。他の事が考えられなくなってね」


 背中や足を傷だらけにしながら激しく運動していた青年が恥ずかしそうに口を開き、他のメンバーもいそいそと装備を整えていく。

 髪がカピカピとか、ドコがどうしたとか言うのも躊躇われる五人に苦笑するしかないおっさんだった。


 五人から話を聞けば、彼らが最後に依頼を受けたパーティであるらしく、二人の遺体も発見していた。

 そして、おっさんと同じく原因を探ろうと進んでいたところ、どうしてもここで運動を始めないとイケない気持ちになったらしい。


 おっさんは彼らの内情に踏み込む気は無かったし、エミリーも事務的に事を進めて二人の遺品の回収と埋葬を行い帰途に就いた。


 帰りは五人パーティよりもコータが恥ずかしそうにしており、キャリーが時折からかう姿を見ることになった。

 エミリー曰く、冒険者の中にはあの様な関係にあるパーティも存在すると言う。もちろん、宿での事ならともかく、魔物がいつ襲ってくるかも分からない依頼の途中や旅の途中ともなれば、危険そのものなので、それが原因で犠牲になったり問題を抱えて解散する事もしばしばとのこと。

 それを考えれば、異臭を放つあのパーティは巧くヤッてるんだなと感心するおっさんだった。


 その夜、夜の店もなく、さらにはエミリーの来訪を受けて何とか手を出さずに返して悶々とするおっさんが居た。


 


  

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