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35・おっさんは警戒する

 おっさんはコータが先頭と言う条件を出した。


 それに対してコータはやる気を見せて頷く。おっさんの後ろから大きなため息が聞こえてくるのはキャリーである。

 できれば休みたいキャリーだったが、コータが行くというので嫌とは言わない。キョーコとエミリーは静観していた。


「はぁ?討伐依頼がないってどういうことだ?」


 問題は、その魔物を討伐すると受付に言ったとき、その依頼はないと言われた事だった。


「いや、まだ正体が分かっていない案件だから、魔物討伐と言われても、そんな依頼は出せんだろう?」


 と、受付は苦笑しながら返す。


 現在のところ、連絡路で何かが起きたから調査をしてくれという依頼はあるが、それは既に発見されたパーティを含めて3パーティが依頼を受けており、これ以上の依頼は受けられないという。

 では、すでに依頼を受けたパーティの捜索はと言えば、まだその段階にはないという。


 そして問題となるのが、件の帰還したパーティだが、可能性としては暴音蝙蝠(エルラッド)ないしはその変異種と言う可能性が考えられるものの、あくまで可能性の段階。他のパーティからの情報待ちになるという受付。


「だって、まだ帰って来てないんでしょ?歩いて半日の場所なのに。だったら・・・・・・」


 コータも受付に訴えるが、3日やそこらでギルドが遭難認定しての捜索依頼などは出せないし、調査に出たパーティの関係者からの依頼もないという。


「依頼として行かせるのは無理だな」


 受付の返答はあっさりしたものだった。


「ただし、君らが連絡路を通って西へ向かう事は止められん。まだ正式にどんな危険があるか分からないから、通行禁止にはなっていない」


 と言う。つまり、勝手に向かう分には問題なく、そこで遭難パーティを見つけたり、原因となる魔物などを討伐した場合、その救助報酬や魔物の買取には応じるという話だった。


 おっさんはコータを見る。


「行きましょう。同じように彷徨ってるパーティが居たら催眠を解いてあげる必要がありますから!」


 と意気込むコータ。


「まあ、半日だし、良いんじゃない?」


 という投げやりなキャリーの言葉で、おっさんも行くことを決断した。


「わかった。そう遠くまでは行かず、遭難パーティを探すことが優先な」


「そうですね。暴音蝙蝠(エルラッド)だった場合、討伐依頼がなければ、売却代金なんてほんの少しですから」


 討伐依頼が受けられない以上、何らかの報酬を期待するならば、遭難したパーティを保護するなり、遺品を回収する方が確実な収入につながる。エミリーの意見を容れて行動を開始するおっさんパーティだった。


 ギルドを出て西へ延びる街道へと足を踏み入れると、その整備されていなさに驚くことになった。


 南へ向かう街道はきれいに石畳舗装がされているが、こちらは人が歩いた跡や馬車の轍がそのまま道を主張しているに過ぎない。平地でなければ道として存続できるかどうかも危ぶまれるレベルだが、この道は連絡路として用いられているものの、正式な街道には指定されていない間道あつかいのため、国は整備をしていないという。


「石がないから歩きやすいかと思ったけど、ここって道なの?」


 そんなキャリーの文句も当然だ。雨が作った水の流れた跡がそのままその辺りを這いまわり、緩やかな丘陵地帯にも拘らず、そこここで足を散られる状態だった。


「街道じゃなくて抜け道だから仕方ないよ。国とか領主に認められた道じゃないから整備も自分たちの手の届く範囲でしかやってないみたいだし」


 と、キャリーの隣を歩くエミリーが解説していた。そんな道は時折平坦でとても歩きやすい場所と、傾斜地に雨が作った溝が這いまわる場所が入れ替わるように現れて歩くペースも一定しない。本当に歩きにくい道だった。


 そんな道を進むこと数時間。聞いた話では現場まで半日と言われていたが、一向にその様な気配がなく、おっさんの目にも怪しい魔物が映る事がなかった。それどころか、食糧になりそうな生物を見つける事すら稀と言う状態で、この道を通って西の街道まで行こうと思わせない光景ばかりを見ることになり、早くも引き返したくなっていた。


 そんな中でもコータだけは意気揚々と先頭を進み、軽快に溝を越え、平野を闊歩している。


 おっさんはそんなコータの背中を見ながら、しかし周囲への警戒も怠っていなかった。

 しかし、そこには何も見当たらず、本当にコウモリの類が生息しているのか怪しく思い始めていた。


 そんな時、コータが立ち止まる。


 さらに続いていたキャリーやキョーコも立ち止まり


「ヒッ」


 そんな小さな悲鳴まで漏らしている。


 エミリーはそんな三人をおいて丘を下ったようで姿が見えなくたった頃、おっさんもその場に到着した。


 三人の視線の先には冒険者の姿が見える。ただし、かなりのケガをしているらしく肩から下は血で赤黒く染まっている。どう見ても生きているようには見えず、エミリーを見れば意図を察して首を横に振る。


 おっさんはこれまでよりも警戒を強めて辺りを見渡してみるが、熱感知には何の反応も現れなかった。


「エミリー、キャリー、魔力探知の反応はあるか?」


 そう聞いてみたが、キャリーが反応しない。


「キャリー、しっかりしろ。出発前にも言ってるだろう?こうなる事を」


 おっさんはキャリーに強くそう言う。


「いや、だって相手は催眠術しか使わないって言ったじゃん」


 三人は王都ギルドで狩猟の最中に負傷した冒険者は目にしている。角や牙による攻撃で死にそうな冒険者すら見てはいるが、やはり事前の心構えなく放置された遺体を見てはショックが大きかったらしい。


「なんで」


 コータが呟く。おっさんが見れば呆然と冒険者を見つめている。


「コータ、今は生存者を探すのが先だ。ほら!」


 おっさんはコータを促し、歩を進めさせる。


「ダイキさん、剣で斬られてます。パーティの仲間が暴れた様ですね」


 エミリーからそう聞かされ、最悪のケースに対応する事が決まった。


「だって、催眠術しかけるだけなんだよね?なんで、斬られるの?」


 コータが余計にショックを受けている。


「出発前にコータが言った通りの事が起きた。潜在的な衝動を掻き立てられたんだろう」


「だからって仲間を殺すなんて、なんで?」


 コータが出発前に被害冒険者の状態から推測したのは、暴音蝙蝠(エルラッド)の超音波が人の潜在的な衝動を掻き立て幻を観させるという推測だった。

 だが、コータやキャリーはその潜在的な衝動が仲間への攻撃に向くとは考えていなかったらしい。


「仲間への不満、不快感から錯乱して攻撃行動を選択したのかも」


 キョーコはそんな中でも冷静だった。今はそれだけが救いと言える状態だとおっさんはさらに周囲を入念に警戒し、新たな冒険者を発見する。すでに熱感知には反応しない事は伏せ、パーティに伝えた。


「前方に新たな冒険者だ。周りに何が居るか分からんから気をつけろ」  


 



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