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32・おっさんは倒れそうになる

 東征村へ帰って2日ほど休息をとることとなった。


 そうしないとキャリーとコータは動けそうにないし、キョーコは注意力なしに興味だけで暴走しそうだとおっさんは危惧していた。


「街道が整備されてるって言ったじゃん」


 南へと武器調達に向かおうとなって、今度こそ馬車の旅というキャリーだったが、エミリーがそれを却下する。


「王都からなら駅馬車があるんだけど、東征村から定期便は出てないよ」


 という残酷な知らせであった。


 王都と南の町には定期的な交易や人の移動がなされているものの、東征村は主に晩秋に帰還する冒険者目当ての交易なので、利益が見込まれる夏から初冬までが主。春先に南へ向かう馬車は商人が東や北の村の素材を運ぶ隊商くらいしか存在していない。


「それに、馬車って役人とか商人が乗るものだからものすごく高いよ?」


 日本におけるバスや電車のつもりで乗ろうにも、大きさは小型トラックサイズしかなく、定期便の荷物を載せると人の乗るスペースは限られる。荷物の代わりに乗せてもらう訳だから、そこそこの料金が発生するという仕組みだった。

 基本的に庶民が気軽に移動するような国情ではないし、国境の町となる為そう気軽に行ける場所でもないと話すエミリー。


「じゃあ、冒険者も行きにくいの?」


 当然の疑問を口にするキャリー。


「ダイキさんは鋼級だから、私たちパーティなら問題ないよ。武器の材料が採れるのは南の国だから、そこまで足を延ばすことも可能だけど?」


 エミリーがそう聞いてくる。ただし、南の国へ行ったからと腕の良い職人に巡り合うかどうかは別の話で、東方開拓に積極的なこの国の鍛冶師の方が適正な価格で性能の良い武器を販売しているらしいという話だった。


「需要があるから優秀な鍛冶師が集まってるのかな?南の町って」


 というコータ。


「何とかって燃料が手に入りやすいから、町が出来たんだって」


 と、教えるエミリー。たぶん、その燃料は石炭とかコークスだと推測したおっさん。


「魔物の骨とか牙の武器ってないの?」


 と聞くキョーコ。それはおっさんも興味があった。


「あるけど、一点物でものすごく高いよ?大山猫(タマ)とか縞大猫(キジトラ)並みの希少な魔物が素材だから、武器とか防具になって売られた時には金貨数万枚かな」


 それにはキョーコも顔をしかめるしか出来なかった。ファンタジー物に出てくるドラゴン製の武器や鎧はだいたい高いと相場が決まっているが、ここでもそれは通用する事に納得したおっさん。


「あ、キョーコのサーベルなんかだと、刃こぼれしたらもう直せなくなるから、その都度それだけのお金が掛かる事になるよ。すぐに替えのサーベルが手に入るとも思えないけど。だから、そういう武具って、冒険者はいくら性能よくても使わなくて、貴族が屋敷で飾ってるんだ」


 と言う追撃に、もはやぐうの音も出ないキョーコ。夢が潰えた事に心の中で合掌するおっさんだった。


 馬車に乗れる唯一の方法が隊商の護衛だが、南へ向かう隊商は冒険者の方が立場が弱いという事で却下となり、今回も歩きが決定した。


 東征村から南下を始めて、2日もすると雪が無くなり、石畳の街道が姿を現した。しかし、アスファルト舗装とは違ってデコボコだらけで歩きにくいことこの上なく、街道を外れて歩くことになる。


「これさ、道の両脇がキレイなのって、みんな歩いてるからかな?」


 というコータ。流石にそんな細かい事まではエミリーも知らないらしいが、馬車の邪魔にもならず、その上歩きやすさを考えれば、きっとそうだろうと歩いていると、南から道を外れて歩く姿を見つけ、確信に至るおっさんだった。


 代り映えのしない起伏の乏しい平原を歩く事さらに2日ほど、辺りは徐々に乾燥が厳しくなり、たまに降る雨で表土が流されたのだろう、起伏も大きくなってきた。


「たしか、もう少し歩けば宿場町だったかな」


 そろそろ日が傾き、そう長く歩けそうにない。身体強化で歩行速度は上がっているし疲労度も少ない。

 しかし、すでに馬車数台に追い抜かれ、どんどん先へ見送った事が精神的な疲労となっている所だった。ここらで休息が欲しいおっさん。


「はい、日暮れ前には着けると思います」


 道案内役でもあるエミリーがそう断言するので任せるおっさん。


 起伏が大きくなったことで、先の見通しが悪くなり、地平線が望めなくなったことから、もうすぐだと言われても町が見えない。


「お、見晴らしが良くなったな」


 それから少し歩いた先は低いなりに丘の頂上、僅かな高低差ではあるが、そこから街道をなぞれば、集落らしきものがようやく遠望できた。

 すでにキャリーは歩く屍と化し、獲物を探すことに集中しすぎたキョーコも気力が失せていた。


「ああ、やっと建物で寝られる」


 そんなキャリーの声はパーティ全員に共通していた。


 どうやら街道整備にあたって宿場町は馬車を基準に設定されたらしく、徒歩であれば2、3日は掛かる距離に設定されている。特にこの街道はその設定間隔が悪く、徒歩での距離では中途半端となるような場所に一つ目の宿場があったことからここまで野営で過ごすことになっていた。


 その宿場町から西へ延びる道がある事を不思議に思ったおっさん。


「ああ、あの道は王都からの街道と連絡しているんだそうです。馬車で1日なので、徒歩だと2、3日西に街道があるそうですよ」


 仮に駅馬車を拾うにしても、行こうと思える距離では無い事に落胆するおっさん。


 最も落胆しているキャリーが足を引きずる姿は哀れに見えたおっさんだったが、自分も似たようなものなので仕方がない。


 何とか宿場町へと到着した頃には、夜のとばりが下りようとしているほどにエミリー以外の足は重かった。


 だが、衝撃はこれで終わらない。


 おっさんがより絶望したのは、宿となる部屋を借りようとギルドへ入った時だった。


 訳の分からない事を呟く冒険者が数名、飲食スペースに座っている。それを囲むメンツもどこかお通夜ムードである。


「何かあったのですか?」


 エミリーが渉外担当として冒険者に尋ねると


「おう、見ない顔だな。こんな時期に東征村からか?」


 と、不思議がられはしたが、それより重要な話を聞くことが出来た。


 何でも、連絡路を半日ほど行った処にナニカが住み着いてしまい、ここ数日不通になっているという。そして、探索に向かった冒険者が何組も戻らず、戻って来た冒険者があの状態との事だった。


「ちょっと何言ってるか分からんが、魔王だの神だの言う奴もいれば、美女がどうした言う奴もいて、サッパリ状況が分からん」


 これ、聞いた以上はスルーできなくね?と、倒れ込みそうになるおっさんだった。

 

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