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30・おっさんは首をかしげる

 北の村までの道を歩き出して半日、もうすぐ日没と言う頃にキョロキョロとあたりを探り出すキョーコの不審な行動におっさんは首をかしげるが、それよりも周辺の警戒を優先して辺りを見回してみる。


 おっさんは数キロ先まで見通す事ができるので、パーティの中では索敵担当である。それもあって時折、周辺に何か居ないか見回しながら警戒しているが、遠くに小動物っぽい反応こそあるものの、近づいてくるような気配はない。


「ん?」


 その時、おっさんは雪の陰になった場所に僅かな熱反応を見つけた。それも随分と近く、よくよく見ればウサギのように見えた。ウサギの魔物と言えば王都で良く狩っていたので見間違える事もない。


 おっさんがそんな事を考えながら弓を出そうとした時だった。キョーコがサッと剣を抜いて、それを僅かなスナップで振るい、斬撃を飛ばす。流石にウサギとは言え、それでは逃げるだろうと思いながら見ていると、見事に後ろ脚を直撃した斬撃によって脚を傷つけらえたウサギは上手く飛べないらしい。


「あ、ウサギ!」


 キョーコが剣を抜いたことでそちらへ注意を向けたキャリーが気付いて追い討ちとばかりに投擲を行い、止めを刺した。


「今日の肉は確保」


 というキョーコの呟きに、おっさんはキョーコが何を探していたのかを悟る。手持ちの保存食などたかが知れているし、干し肉なんて三人にはもはや食えたものではないらしい。出来れば他の食材をと言うも異論があったのだと思い至る。


「じゃあ、解体は頼んだ」


 なぜかキャリーが仕切って解体をコータに押し付ける。間違いなく、自分が解体や料理をやりたくないのをおっさんは感じたが、何も言わずに流して歩みを進めていく。


「なんで?キョーコさんの獲物だよね?」


 そんなコータの抗議は二人には聞き入れられず、渋々解体を行うコータ。


 おっさんは商人に野営の提案をし、エミリーとカマドの準備と薪を取り出して夕飯の支度である。


 キャリーとキョーコもそそくさとテントの準備を行い、コータに隙を与えない。


「さすが、冒険者の護衛が居ると夕食もにぎやかだねぇ」


 などと商人が声を上げる。


 何という事か、護衛内容が昼間に会った時点で追加され、「赤クラスが居るなら道中の食料も頼もうかね」などという話になり、おっさん達が用意する事になったのだった。さすが商人なので魔物除けテントは自前で用意していた。しかし、出発予定に関しておっさん達のパーティの魔力量から商人は大した準備もなく待ち合わせ場所に訪れ、そのまま出発と言う、どうにも図々しいものとなったのは、交渉役が年少のエミリーだけという事に原因もあった。

 

 ただ、今回の場合は悪い話ではない。質の良いウロコを供給可能なおっさんが向かえば、高額の輸送報酬だって期待できるので、道中の食事を用意するのは苦にもならないだろうとおっさんも考えていたのだから。


 翌日はもう少し大きな獲物は居ないかとさらに欲を出して辺りを見回しているキョーコ。護衛と言う事をどこか失念してやる気なく歩いているキャリー、真面目に商人の護衛をしようと気を張るコータ。


 護衛依頼と言う事で、一応道筋ははっきりしているが、案内役として先導するエミリー、そして、後衛兼広域索敵を担うために最後尾を行くおっさん。


 二日目は期待した獲物は手に入らず、手持ちの食料で凌ぐことになったので不満げなキャリーと無駄に疲れたらしいキョーコをエミリーが宥め、三日目には早くも北の村へと到着したのだった。


「おばさんさ、あるくの速くない?」


 と、驚きの声を上げていたキャリー。


 それもそのはず、軽装で大型マジックバッグを持つ商人である。魔力量もそれなりであり、自身の持ち分も大きい。

 主に王都や東征村の職人向けに素材を売ったり冒険者ギルドの品の輸送を担うらしいが、なるほど、だからこそ冒険者相手の交渉に手慣れていて、エミリーが手玉に取られたのだなと、どこか納得のおっさん。手の内を後戻りできなくなるまで明かさない辺り、商人だった。


「あたしの商売分の買い付けはこれからだよ。二、三日は村で狩りをするなり休むなり自由にして居な」


 といってギルド前を後にする商人。おっさん達はまずはギルドで鳥魚(バードフィッシュ)に関する情報を当たり、ウロコがだぶついているという話を聞いて、狩りより先に鎧の注文に向かう事にした。


「おや、お前さんら」


 鎧の注文をしようと向かうと、ちょうど商人がそこに居た。鎧の注文をしようとしていたと伝えると、商人だけでなく女店主も驚きの声を上げる。


「まだ注文するのかい?そこの四人分となると糸が足りないよ」


 半ば冗談のつもりであろう店主がそう口にしたが、おっさんはその四人分であると告げる。


「そう言う事らしいよ。追加の注文が必要だねぇ」


 と、商人に伝え、どこかほくほく顔で店から出ていった。


 そして、おっさんは自分の鎧について尋ねると、すでに完成している袖を見せて貰った。


 それに反応したのはキョーコだった。


「うほ。鎧の袖。でも、この作りは大鎧かな?当世具足の造りに倣ってウロコの加工を最小限にして縫い合わせるともっと時間短縮になるはず」


 と、構造にまで言及して自分の鎧の形までああだこうだと話始めてしまったので、おっさんはもはやついて行けなかった。

 おっさんの鎧はこれまでの様式を踏襲してウロコを小さく加工して縫い合わせていたらしいが、キョーコが言うにはもっとウロコの原型を残した作りでも可能なはずだという。おっさんの鎧の袖を見て、造りに関する話をはじめ、職人たちは慌ててカタログを持ち出してきた上に、おっさんの鎧まで持ってきてキョーコの話を聞いている。


 キョーコがただの陰キャではなく、こんな才能もあったのかと驚くおっさん。


「え?防水透湿の上に遮熱効果まであるの?!その上に強度と魔力浸透までとなると、鎧下に背骨と筋の補強も出来るように‥‥‥」


 もはやおっさんにはついて行けないレベルの話を始めてしまい、四人の鎧だけでなく、おっさんの鎧の仕様変更まで話が及んでしまった。

 金額に関しては余裕があるが、製作でどれほどかかるのか想像すらできそうにないなとおっさんは思った。


「春になったら東征村から職人を呼ぶよ。コイツは召喚者のもたらした新しい技術だ。アタシらだけで独占したら恨まれちまう!」


 などと店主がものすごく乗り気で話をしている事も不安材料だったおっさん。


「何だい?そんな顔をしなさんな、あんたの鎧だって大したもんだよ。このお嬢ちゃんのアイデアだって取り入れるんだ。問題ないさ」


 と、違う事を言って来るので、納期について尋ねるおっさん。


「そうさね。東征村に話を持っていくににしても製作には時間が掛かるから、初夏だろうかね」


 と、おっさんの予想よりも早く出来そうだった。


「私たちの鎧は腹巻が基本だから。徒歩で槍や剣を振るうのに大鎧は邪魔だし、カオリさんなんて投げられなくなるから」


 と答えるキョーコ。その腹巻が分からず、おっさんは本当に腹巻を想像して首をかしげるのだった。

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