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28・おっさんは心に刻む

 約束通りに三日後に鍛冶屋を訪れるとエミリーの槍は研ぎ上がっていた。


 槍を受け取り、そのまま東征村へ出発したのだが、エミリーとおっさんだけなら宿場となる村へ着けるところ、慣れない三人を連れての道程だった事から途中で日が沈みかけ、野営の準備をはじめる。


「え?キャンプ?」


 戸惑うキャリー。


「いや、おっさんやコータ居るよね?ねぇ!」


 さらに詰め寄るキャリー。


「だから?ほら、キャリーも手伝って」


 意に介さず着々と作業を進めるエミリーがあしらって終わらせようとするが、


「だって、おっさん居るんだよ?」


 と、まだ粘るキャリー。


 しかし、コータやキョーコはエミリー側に付いておっさんやエミリーの手伝いに忙しい。


「冒険者にとって破格の魔物避けテントがあるから夜番も必要ないのに、何が不満?」


 と、エミリーが逆に問い詰める。


「だいたい、ダイキさんが居ると何がいけないの?」


 そう言われて返す言葉が見つからないキャリーに声を掛けたのはキョーコだった。


「カオリさん、ウブ」


 いや、聴こえる様に独り言を言っている。


「ハァ?私が冴えないおっさん如きに恥ずかしがる訳ないし!」


 キャリーはそう言ってエミリーを手伝いはじめる。


「扱いやすい」


 キョーコは自然な動作でおっさんに近づきそう呟いた。おっさんは反応に困り引きつり笑いをし、(めっちゃヤベー奴かも知れん)と心に刻む。


 王都は狩場が身近にあるのでほぼ日帰りで狩猟を行えるし、ファンタジー活動は行っていない。そう言う事は開拓村における魔物討伐であるとか、おっさんが北の村で行ったような希少な魔物の狩猟と言ったものがほとんどだ。


 そう言った事情から、銅級に上がるまでパーティで野営をしたことは無かった。毎日のようにヤギを狩りに河原へ行くとか、ウサギを狩りに草原へ行くばかり、冬という事もあってそれ以外の事ができる訳でもなかったが。

 そんな三人を引き連れて初めての遠出となった今回、いつものギルド飯と違ってザ・異世界!な貧相な夕食に驚く面々ではあったが、まだ興味が先に立っていた。おっさんも最初は干し肉といくつかの干し野菜を湯に放り込んで戻しただけのスープや狩った肉を使ったスープに喜んだりもした。


「なんか異世界来た実感するね」


 スープを口にしたコータがそう感想を述べる。


「せっかく口に合うご飯にありつけたってのに」


 と、自分が手伝ったスープに文句を言うキャリー。


「王城の料理より味がある」


 と、量こそあったが日本での食事からすると味気なかった召喚者用コースの事を蒸し返すキョーコ。貴族に仕える料理人が作った料理なので、使う食材は限定され、マトモに香辛料もないのでだいたい同じようなメニューが毎日ならんでいた。

 それがギルド飯や街の食事処になると、魔草や魔物の類が主体となるので、日本人の嗜好に近い「どこか懐かしい」メニューをいくつも見ることになった。

 それに満足していたら、野営時の食事がコレである。食べるごとにワクワク感から現実に引き戻され、慣れてしまったギルド飯が恋しくなってくることになってしまった。


「缶詰があったらマシなのになぁ」


 と、すでに野営食に不満の声を上げるキャリー。


「その缶詰を作るのが難しいんだよ。メッキ技術も必要だし、缶詰って『巻締法』って言う特殊な技術で蓋をするから」


 と、うんちくを語り出すコータ。


「巻締法だけ分かっても量産するには湯煎より高度な滅菌装置を作らないと無理」


 と、さらに付け加えるキョーコ。この二人の博識に驚く事しかできないおっさんだったが


「産業革命で工場制が出現しないと量産は難しいし、作るだけの鉄鋼供給能力がまずは備わらないとな」


 と、何とかくらいついて行く事で面目を保とうとする。


「たぶん、輸送インフラも整っていないから、無理だと思う」


 と、話に乗ってくれたキョーコの感謝するおっさんだった。


 事実、キョーコが言うように、製鉄は産業として規模が小さく、農具や武器の製造を支える程度の供給量しかない。さらに、製缶、缶詰製造が行えたとしても、輸送は馬車しかない。王都に工場を作っても、供給可能なのは王都メインであろうし、東征村まで需要を満たす製缶資材を供給し続ける能力は、残念ながらこの国の交通インフラでは無理な話だった。冬には積雪や凍結による危険が高いことから駅馬車すら走らないのに、どこをどうやって、缶詰製造に必要な鉄や燃料を運ぶのであろうか?


「何百年も前から召喚者来てんでしょ?何で出来て無い訳?」


 と、内容は理解できたが、なぜ普及していないのか疑問なキャリー。


「それは、維持できないからだよ。便利で人気があっても冷蔵庫なんか普及してないだろう?」


 と、実体験から語るおっさん。 技術を持つ召喚者がいる間は良い。しかし、その者が居なくなった時、どれだけの技術を遺せているだろうか。

 おっさんの様に特殊なスキルによって無理やり実現している場合など、その当人が亡くなっただけでその技術は途絶えてしまいはしないか。そんな話をすると、ようやくキャリーも納得した。


 そして、今度は寝床問題で騒ぎを巻き起こしてくれたが、やはりキョーコが一言で収めて事なきを得た。

 コータが端っこ、その隣におっさん。そしてエミリー、キョーコ、キャリーの順番となる。


 慣れない三人を連れての旅なので、おっさん達は翌日は屋根のある場所を求めて昼過ぎに着いた村で足を止める。ここからなら、もう一日歩けば東征村である。


「やった!サウナしかないけど、汗を流せないより良い!」


 そんなキャリーの声が聞こえてきて、余計に疲れを感じるおっさんだった。

 召喚者たち、とくに女性陣は王侯貴族や豪商くらいしかやらない湯浴みを毎日要求していたとキョーコから聞いて、驚くおっさん。男連中は城に居る時分でも、サウナに入れたら御の字だった事を思い出し、何だかなぁとさらに疲れがでる。

 宿場という訳でもない村であったため、事前に自分達で魔物を狩って夕食分を持ち込むことで宿代代わりに泊めてもらった訳だが、当然だが、ギルド宿舎や宿ではない為、雑魚寝である。ここでも文句を言うキャリーだったが、他の皆は流して昨日の配置で眠りにつくのだった。

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