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27・おっさんはパーティを強化する

「私、こんなことできるんだ!」


 そう言ってヒャッハーしながら岩鎧亀(ロックタートル)の首や足を攻撃してダメージを与えるキャリー。

 短剣使いとしては並と言われ、これまで中距離から打撃を与えられなかった。今でもウサギに対してはおっさん程の正確性のある投擲は出来ない。


「破斬!」


 と、瞬間移動のような縮地で近づいて中二なキメ技名を叫びながらカメの首を刈り取るキョーコ。


「あれ?僕の出番は?」


 と、全く見せ場が無いコータ。


「心配するな。他にも魔物は居るさ」


 と、励ますおっさん。


「さすがは召喚者ですね」


 と、喜ぶエミリー。


 その後、コータもウサギ百羽という課題をクリアし、登録一月で三人揃って銅級へとスピード昇級を果たす。

 もちろん、最初のうちは解体を見るのすら避けて逃げ回ったキャリーや何度もやせ我慢をして服を汚したコータ。なぜか数度の解体でカエルの解体か魚の調理の様に慣れた手つきで解体を始めてしまうキョーコと、まさしくそれぞれ個性あふれる展開であったことにおっさんは自分と比較してしみじみ考えてしまった。


「三万枚!?」


 そんな折、貴族へ売り出していた大山猫(タマ)縞大猫(キジトラ)の毛皮が売れたとの知らせを貰い。金額に驚くおっさんであった。


 日本での価値に直せば億単位にもなるその額に驚かない方がおかしいが、エミリーは当然とばかりに頷く。


「ダイキさんですから」


 いまちい価値の理解が及ばない召喚者三人組はポカンとするだけだが。


 その莫大な金額をどうするか悩むおっさんは、パーティ強化に使おうと言い出し、エミリーを慌てさせる。


「待ってください。ダイキさんが狩った報酬ですよ?もっと自分のために使えばどうですか?」


 だが、おっさんは言う事を聞かない。


「エミリー、考えてみろ。何に使うんだ?三万枚だぞ。パァーとパーティ強化に使う方が良いじゃないか」


 日本で億単位の資産があれば遊んで暮らすだろうが、ここは異世界。王宮の晩餐や高級宿のディナーよりもギルド飯が地球の味に近い世界だ。

 金を出しても望む食事ひとつ揃えるにも苦労する。が、自分で狩れば楽にありつける。そんな倒錯した世界に居るおっさんは、(遊ぶにしても選択肢なさすぎるしなぁ)という贅沢な悩みを抱えていた。


「え?数千万円とか億なの!?じゃあさぁ」


 キャリーがブランド物の名前を並べる姿を眺めるおっさん。


「それ、どこの鍛冶屋の武器?それとも防具?」


 と、名前から想像がつかないエミリーがこちら世界の常識で尋ねる。


「なんで武器や防具になんの!バッグにコートに時計だっつの!」


 と、キレ気味に説明するキャリーだったが、現実は無常である。


「なんだ、キャリーもパーティ強化に賛成なんだ」


 と、エミリーには何ら伝わることはなかった。


 あとの二人はキャリーとエミリーのコントを見ながら、自分が今ドコに居るのかを再確認してしまい、気が滅入っている姿をおっさんは目撃した。


「そんな訳だから、ちょっと鍛冶屋や防具屋をまわろうか」


 おっさんはそう皆に声を掛け、エミリーに案内を頼んだ。キャリーは納得いかずにエミリーに推しブランドが如何に凄いかをまだ説いているが、常識が異なる世界でそれは単なる徒労でしかない。


「ここがギルドでも評判の鍛冶屋ですよ」


 と、小綺麗な店を示すエミリー。

 中へ入ると剣や槍が並べられており、盾や金属鎧まで揃っていた。


 アランと名乗った店主にコータとキョーコの武器を見せるとため息をつかれた。


「坊っちゃんに嬢ちゃん。随分と酷似してるね。君たちの魔力量は?」


 と、仏頂面な問いかけで示されたメダルカラーを見て口を開けた間抜け面へと変化した。 


「お、お前らオレンジや赤でこんな安モン使ってんのかよ。それじゃほとんど使い捨てじゃねぇかよ」


 と、武器の説明をはじめる。


 まず、魔力付与を行えるならば、魔力量に耐える素材を用意しないと、どんな高性能な剣や槍もナマクラと変わらない。

 一般的な数打ちは黄色の魔力量までしか想定されていないので、オレンジや赤だと数ヶ月でボロボロになると呆れられた。


「そりゃあ、駆け出しならしゃあねぇ面はあるんだが、まだ一月でこれはねぇわ。よく保ってんな」


 と、シゲシゲとバルディッシュとサーベルを見る店主。


「じゃあ、私の短剣は?」



 と、キャリーが短剣を差し出すが、ほぼ使わないのだから何がどうなのか、おっさんには分からなかった。


「そいつは使用跡がほとんどねぇわ。使ってんのか?」


 と、当然の返答に不機嫌になるキャリー。


「短剣使いって言われたけど、ホントは投げ銭同心だったんだからしょうがないじゃない!」


 と逆ギレしながら、投げ銭に代わる武器はないかと問う。案外交渉上手かも知れない。


「投擲がスキルなのかい?お嬢ちゃん。オレンジなんて魔力量持ってんなら、魔力で生成できそうなもんだがな。伝説の魔弓使いがそうだったらしいが」


 それを聞いておっさんを見るキャリー。おっさんは「出来るが?」と、意図を理解して答えた。


「じゃあ先に言ってよ。どうやんの?」


 と、問われ、教えていると


「その向こうに試し斬り場がある、そこでやれ」


 と、店主に追い出されてしまう二人。


 言われた通りに戸を潜ると中庭状のスペースにワラ人形がいくつか立てられていた。


「こうかな?」


 キャリーが右手を挙げてそう言うと、五円玉風な物体が出現する。そして、いつも通りに投げると、見事にワラ人形に刺さり消えていった。その光景はおっさんの魔力矢と同じである。


「よし!どう?おっさん」


 得意顔で聞いてくるキャリーに頷くおっさん。


 しばらく練習がてら投げているとワラ人形はバラバラ崩れ、お猪口サイズの円盤を投げると芯から崩れ落ちてしまった。


「スゴ!」


 と喜ぶキャリーに満足そうに頷き、店内へ顔を向けたおっさんは、武器の説明を受けている三人を見た。


 店内では三人が武器の説明を受けているが、コータとキョーコの武器に関しては、この店で買えるものではなく、南のドワーフが居る街まで出向く必要があると言われてしまう。


「それって遠い?」


 そう聞くキョーコに店主は


「つっても歩いて十日そこらだ。そこまで遠かねぇよ」


 と、この世界感覚で答えるが、キョーコやコータにすれば想像の外である。

 あとからそれを聞いたキャリーも「嘘でしょ」と文句を言うが、北の村まで歩いたおっさんにはもはや普通の感覚だった。

 おっさんは北の村までも通算でそのくらい。召喚バフがあるから思ったほど疲れないと説明したが、言って理解出来る事ではない。


 その後、防具に関してはキョーコがおっさん同様に甲冑を希望したのでウロコが安く手に入る北の村へ発注する事になった。

 コータは渋ったが、キャリーが悪乗りして「私も甲冑!」と言い出し、エミリーも巻き込み、先ずは北の村を目指すという話に発展してしまった。


 ちなみにエミリーの槍だが、軽く研げば問題ないと言われたので研ぎが終わる明後日には北の村へ向かう事になり、展開の早さについて行けないおっさんだった。



 

 

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