26・おっさんは思い付く
「他にも召喚者が居たんですね」
驚いた様な。嬉しそうな顔でエミリーがそう尋ねてくる。おっさんは召喚された時の事を思い出し、確か10人くらいは居たんじゃなかったかなと言ってはみたが、今回何人来るのかまでは分からなかった。
話を受けてから彼らがやってくるまでにそう時間はかからず、王都に戻っても特にやることが無かったおっさんとしてはどこかホッとしていた。
以前狩猟を行っていた角兎に関しては、いくつかのパーティが継続して狩猟を行っているおかげで、おっさんの思惑通りに、王都へ帰って来るとウサギ肉メニューが現役で提供されていた。
幾人かからお礼を言われたり、話かけられたりと、交流も持てたおっさんは嬉しくもあったが、彼ら彼女らがメインで狩っているのであまり荒らしたいとも思わなかった。
「あ、マジでおっさんじゃん」
おっさんが連絡を受けてギルドへ入ると、すぐにそんな声が聞こえて来た。声を発した人物が誰であったか、名前は覚えてはいないが、その髪が半ばからかなり明るい茶髪な事から、召喚された中の一人という事を判断したおっさん。その声で他のメンバーもおっさんを見ているが、おっさんは別メニューとなっていたので、顔を会わせたのは召喚のあと数日のみであったので、召喚者たち個々の顔や名前はほとんど知らない。何とか日本人顔だから同じ召喚者だなと分かる程度である。
「つかおっさん、となり誰?」
パリピなJKにそう問われ、横を見ればエミリーが居た。
「ダイキさんとパーティを組んでるエミリーだけど」
と、どこか不機嫌そうに先輩風を吹かせている。確かに先輩冒険者だが、年齢で言えば召喚者たちが年上である。
「うわ、ラノベしてんじゃん。おっさん!」
陽気にそう言って来る彼女の相手をしながら、他のメンバーを見回す。どうやら聖女とか戦士とか魔法使いと言った主要な戦力ではなさそうだなと、その装備を見て思った。どう見てもおっさん同様に追放された部類に見えたからだ。
パリピな彼女はエミリーにも声を掛け、彼女が16歳と聞いて驚く。
「え?私より下じゃん!17よ、17!」
と、どこか勝ち誇っているが、数えなので満年齢で言えばエミリーはまだ15歳、中学生である。それをわざわざ伝えるおっさん。
「犯罪じゃん!」
と、当然のようにドン引きである。
世間話で盛り上がるパリピ元JKだったが、そのまま遊んでいる訳にもいかず、受付へと向かうおっさん。
すでに登録は終えているが、そのジョブがイマイチ判明しないという事で、早速おっさんが呼ばれたのだった。
まず、パリピ元JKだが
「私、オキャピキーとか言われてさ、訳わかんないまま短剣持たされちゃってぇ~。使えなくは無いんだよ?でも、並だとかムカツク事言われて、最後にはギルドへ行けって」
と事情を説明する。
おっさんはオキャピキーが何のことか訳が分からなかったが、共にやって来た男子が説明してくれた。
「オキャピキーは岡っ引きの事じゃないかって話になったから、十手の代わりに短剣使いになったんだよ」
と詳しく聞いたが、その実力は並みであるという。もちろん、ここで言う並とは、普通に騎士が務まるレベルの事であり、それだけの実力があるなら冒険者としても普通にやっていける。ちなみに、魔力レベルはオレンジメダルだそうだ。
「キャリーさんは短剣使いなんですね」
と、すでに溶け込んでいるエミリー。
「キャリーじゃなくてカオリね?」
と、真顔で訂正しているが、この国の人間は、日本語の「か」が発音しづらいんだろうと結論を出すおっさん。どういう訳かこちらの言葉として会話をする分には、何も違和感がないのだから。
おっさんは考える、岡っ引きといえば時代劇で町奉行と一緒に犯人を捕まえる「御用だ!御用だ!」の人たちである。なるほど、十手だ。が、それが並というのであれば、おっさん同様にどこに齟齬があるはずだった。そして、おっさんは時代劇の岡っ引きと言えばと、ある事を閃いた。
「もしかして、俺が勘違いした魔球使いだったりするかもしれん」
と言い出し、当のカオリからは変な顔をされる。
「いや、おっさんじゃないから」
と真顔で言われたが、引き下がらずに解説した。
「時代劇に出てくる岡っ引きは銭を投げるんだ。いや、主人公だったんだけどな」
と、おっさんは有名な時代劇の岡っ引きについて説明した。
「まあ、分かったよ。コインか何か投げれば良いんだよね?」
と、どこか納得していない様子である。
さて、次である。
「君は?」と男子生徒に聞いてみるおっさん。
「僕はナマクサボーズだったから、聖魔法がつかえると言われて、確かに使えるんだけど、ほら、聖女とか治癒師とか居たでしょ。あれと比較したらどうしても能力が低くて、二流だって」
と、ちょっとヤサグレ気味である。そんな彼の魔力量はカオリ同様にオレンジであるという。
「なまくさ坊主か。僧侶や神官としては格が落ちるよなぁ」
と、おっさんもそれ以上の事は分からなかったが、では、召喚された中に僧兵や神兵なんてのは居なかったよなと考え、もしやと思った。あの翻訳者が持っていた辞書は必ずしも正確ではない。鑑定だって微妙なモノである。おっさんのマキューツカイが良い例だ。
「実は僧兵だったりしてな?弁慶みたいに薙刀持ったら活躍できるかもしれんから、試してみるか?」
と、コータに提案すると、ダメもとだと頷く。
そして残るは、明らかに陰キャな少女である。
「キョーコさ、ヒョーホーカだったんだってwでもさ、孔明?みたいな軍師じゃなかったんだよwポンコツだよねぇw」
というキャリー。おっさんはエミリーに合わせて改ざんして覚えてしまっている最中だった。が、そう言えば、あの時も兵法家と言われているのを聞いたかもしれないと思い出すおっさん。自分のスキルが訳分らなかったので他人の事どころではなく、何と訳されたのかは覚えていなかった。
「なあ、兵法家って宮本武蔵とか塚原卜伝の事だ。軍師の事はヘーホーカって言うんだ。漢字で書けば同じなんだが、中身がまるで違う」
と、説明するおっさん。もちろん、たまたま戦国モノと三国志モノを齧っていたので知ってただけだが。
陰キャなキョーコはそれを聞いてふと顔を挙げた。(顔自体はキャリーより整ってるじゃないか)と、どうでも良い感想を持ったおっさん。そんなキョーコの魔力量はおっさんに迫る薄い赤だった。
おっさんの思い付きでキャリーは銭投げ同心のマネを。コータは薙刀に近いバルデッシュを、キョーコがギルドで「カタナは無いですか?」と尋ねたら、日本刀の造形をした両手持ちサーベルが示されたので、それを手に練習場で思い思いに練習すること数日、コータとキョーコは角兎の突撃に合わせて楽々攻撃を行えるようになり、キャリーも魔法の様に高威力な投げ銭が可能となった。残念ながら雷属性でなかったので、電磁投射は成功していない。




