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23・おっさんはビビり散らす

 タマと命名されたライオンのような魔物を、おっさんは巾着袋に収納した。


 何でこんな見た目からして猛獣なのにタマなのかは、もはや誰にも分からない。その性格は獰猛で、召喚者のテイマーがなぜ多数の個体を使役していたのか自体、様々な伝承や物語は伝わっているものの、当人の本音が何処にったのか、それを知る者はいない訳で、おっさんとしてもソイツの趣味嗜好を疑う以上の事は出来なかった。


 ちなみに、大山猫(タマ)の使う魔法も雪の平原に生息するだけあって雪に関するモノかと思いきや、夏でも使える水魔法だという。では、氷風狼(ブリザードウルフ)はどうなのかというと、こちらは夏でも氷であるらしい。

 その性質の違いから、タマの方が狩るのが難しく、そもそも見つけることも一苦労だという。


 それなのに、おっさんは普通に見つけてしまった訳だが。


 大山猫(タマ)は警戒すべき対象を察知すると持ち前の水魔法で姿を隠す。夏ならば霧、冬ならば自身の周りに雪を纏わせると伝わっていると説明するポーターの少女。では、獲物をどう捕獲するのかというと、それも水魔法を自在に使い、鉄砲魚の様に鳥を落としたり、冬には氷の矢を飛ばす事も出来ると説明する。

 冒険者による捕獲も困難を極め、一頭狩ればその年は仕事せずに遊べるなどと言われたほどだと、どこかおっさんを尊敬のまなざしで見るポーター少女。


「ダイキさんですからね。岩鎧亀(ロックタートル)も矢二本で倒したんですよ?」


 なぜかおっさんをダシにマウントをとりに行くエミリーを微笑ましく眺めるおっさん。


 そんな、静かな戦いを繰り広げる少女二人の事など全く理解できていないおっさんは、さらにタマが居ないかと探ってみるが、早々見つかるはずもない。


 そのまま東岸を南下し、道など見えもしない雪原を迷いなく歩き続けるポーター少女に感心しきりのおっさんは、そのコツなんかを時折聞いては褒め、エミリーを不機嫌にさせていた。


 ずっと南下を続け、タマ探しも行っているおっさんだったが、幸運はそう何度もやっては来ない。見つけるのはシカやイノシシ、そして、警戒しながらおっさん達を窺うオオカミ。


 もうそろそろ日も傾き、今日の野営地でも探そうかという頃合いになって、ポーター少女が北の空を見て悲鳴を上げた。


「ウソ・・・・、なんであんなに・・・・・・」


 釣られておっさんがその方向を見ると、黒雲のようなモノが見え、それを望遠で確認すれば鳥魚(バードフィッシュ)の群れであった。

 おっさんからすれば二度目のフィーバー気分なのだが、ポーター少女にはそれどころではない。


「あんな雲みたいな群れ、見たことない・・・・・・」


 その顔は蝗害を目にした農民の様だった。といっても、おっさんには分かってはいなかったが。


 ポーター少女が絶望に打ちひしがれている間にも群れは近づいて来る。ただ、羽ばたいているというより滑空に近い飛び方をする羽根つきマグロはただ静かに、辺りをどす黒く染めながら接近し、気の早いマグロは湖へと飛び込んでいく。もちろん、餌をとったならば離水し群れを追いかけるので、時折マグロが水中へ突入する音や離水する羽ばたき音が聞こえてくる頃には、おっさんもフィーバータイムなどというワクワクよりも、何かオドロオドロしい災厄の音なのかと思い始める。


 おっさんは古老の話を思い出す。


 古老曰く、マグロは越冬のために南下し、村近くの湖や川の周辺で北の氷が薄くなる初春まで過ごし、雪が熔けて緑が顔を出す頃になると北へと帰っていく。そんな繰り返しをずっと続けているので川や湖の生物を食いつくすなどという事があるはずはないと。


 さらに、通年で川や湖に住み着いたマグロも幾らか居るので、実のところどのマグロが渡りでどれが地のモノかは、捌いてみなければわからないという。

 年越し頃に越冬目的で飛んできたマグロは、北の湖で蓄えた力を使い切っているのでウロコや羽根を防具や装飾にするには良くても、その身を食用と考えるならばひと月ほど待った方が価値がある。「ここいらの奴らは鳥魚(バードフィッシュ)の事がよく分かっとらんのだ」と、半ば呆れかえっていた。


 違いの分からないおっさんは、日本の味に近いギルド飯に満足していた。それがいつ獲れたマグロでも美味かったので、(マグロが食えるならフィーバータイムじゃん!)と、この点に関しても「してはいけない」事を守る気が無かった。


 といえ、湖上を飛んでいる限り、落としても拾いには行けないので指を咥えて見送るしかない。


 結局、その日は日暮れまでひっきりなしに飛んでいる群れを横目に、時折聞こえる突入や離水の音に気を逸らされ続ける。


「これに誘われてタマが来てくれたらいいんだがなぁ」


 と、もはや願望に近いボヤキまで出るおっさんであった。


 その日の夕食も昨日同様の内容であった。持ち運べる食料の種類には限りがあるので仕方がない。カレーやシチューの素なんて固形物や粉があれば良いのだろうが、残念ながら見た事がないおっさん。

 そして二日目ともなると、うら若い少女二人と同じテントという事にも抵抗が薄れ、度数の高い甘酒みたいなナニカではなく、普通に沸かした湯で煮だした紅茶のような飲み物を揃って飲んで就寝するおっさん。


 エミリーが尊敬の念を抱いているだとか、大山猫(タマ)を狩ってからポーター少女の視線が変わったとか、そんな事はおっさんの頭には無かった。40のおっさんが中高生から好かれるなど、露ほども期待しておらず、「おっさん、臭い!」と言われないかビビり散らしながらテントに居るくらいである。


 その夜、おっさんは外でボリボリ響く音に目が覚めた。テントの機能に安心しきっているのか、ふたりの少女はぐっすり眠っている。

 二人を起こさない様に起き出し、しっかり防寒着を着込んで表を覗くおっさん。出入口方向には何も見えず、テントから首を突き出してあたりへと視線を這わすが、熱探知でも暗視でも何も発見できなかった。が、外ではより鮮明に音が響いている。


 おっさんはそっとテントを抜け出し、辺りを窺ってみる。そして、音のする方向へと少し進み、テントの陰から伺うと、少し離れたところにナニカが居るのを確認した。

 数は一、熱源の大きさからオオカミではない。暗視で見ると少しぼやけたように風景に溶け込みながら、獲物に齧りついている姿をハッキリ確認したが、タマとは少し違うように思えた。

 しばらく窺っていると、ナニカが口を止めておっさんを窺うのが分かり、弓を出して引き絞り警戒態勢に入る。それを確認したようにナニカがジャンプするのが見え、よく分からないままに矢を放つ。

 少し軌道を変えながら襲い掛かろうとしたナニカを誘導された矢が射抜き、勢いを失ったソレはおっさんの近くでドサリと雪の上に落下する。


 警戒しながら近づいてみると、タマっぽいが白一色ではなく、縞模様が見える。まさしく虎と言った印象を受けたおっさんである。


「何の音ですか!」


 すこし声を潜めながらエミリーがテントから顔を出し、ポーター少女が灯りを持って出て来た。


「うそ、もしかして縞大猫(キジトラ)?」


 少女はよく分からないことを口走った。(キジトラって、また猫ではないか。そりゃあ、虎もネコ科だけどさ)と、心の中で呆れたおっさんである。

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