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21・おっさんは北へ向かう

 三が日を趣味に費やしたおっさんは、年越しで消費された食料の確保に出ている他の冒険者や猟師に少し遅れながらも日常へと戻る。


 鳥魚(バードフィッシュ)は身も味が良く、ウロコは防具の材料として高値で取引される。おっさんがコンスタントに持ち込む事から値崩れを心配したが、どうやら事は逆に動いているらしい。


 マグロ釣りパーティとおっさんによってコンスタントなウロコの入荷がある事を聞きつけた東征村の商人たちがこぞって買い取りを口にし出している事から、逆に値段がつり上がっているという。この調子であれば持ち込めば持ち込むだけ金が入ると、件のパーティは大喜びであるが、おっさんは狩りを絞ることにした。

 それもそのはず、日本においてこうした価格高騰を幾度も目にしたおっさんは、自らバブルを作り出して値崩れする事を望んではいなかったのだから。


「湖の上流側まで行くって、そこまでいかなくても鳥魚(バードフィッシュ)釣れてるじゃない」


 三が日をともに新作食品づくりを行った少女は今日も一緒である。


 実は湖の上流側へ行こうとミツヨシのようなベテランに声を掛けたのだが、年越しでどこも宴会で大量に食料を消費しているため、「わざわざマグロ猟に付き合う暇はない」と断られ、コメもどきの試行錯誤に付き合ってくれた彼女に依頼したという訳だ。


 ポーターもその後に冒険者として活動するために猟師に付いて広範囲に歩き回り、東征村から来る冒険者の案内が可能なだけの知識と経験を叩きこまれているため、冬の湖周辺であっても問題なく案内ができる。

 そんな彼女の魔力量は青。冒険者をやるには最低ランクであり、戦闘には向いていない。何とか草原の踏破に身体強化を使える程度で、攻撃魔法を使えば数発で尽きるし、エミリーの様に戦闘に用いるほどの余力は有していない。王都であれば、周辺での希少な魔草の採取やヤギの狩猟くらいは行えるのだろうが、氷風狼(ブリザードウルフ)への対応すら日常となるこの村では、危険行為と言ってよい。


 そんな話をしながら、獣道程度には踏み固められた道を辿って湖の流入河川の河口を目指して進んでいく。


 その辺りまで行けば、氷風狼(ブリザードウルフ)を超える防寒着の材料となる大山猫(タマ)が生息しており、それを狩りに行くことにしたのだった。

 

「タマはオオカミ以上に慎重な動物で、主に単独行動をしているから見つけるのも至難の業だって」


 話を聞いたおっさんは、白く毛の長いペルシャ猫をイメージしながら聞いていた。


「でも、攻撃性も高くて氷風狼(ブリザードウルフ)並みに獰猛で、足の速さはそれ以上らしいよ」


 と聞いて、(いや、それってチーターじゃないのか?猛獣の類だろ)と、脳内イメージの大幅修正を強いられることとなったおっさん。タマってかわいい名称からは、まるで想像できない魔物であるらしい。


 話を更に聞くと、この地を訪れた召喚者が猛獣を使役(テイム)し、名前をタマとしたらしく、それ以後大山猫(タマ)と呼ぶようになったとか。甚だ迷惑すぎる話だと思うおっさん。


 もちろん、その迷惑者にも功績はあって、湖を周遊可能なように上流と下流には堅牢な石の橋が架かっている。日本人が見れば、誰もがそれを錦帯橋と思うであろう綺麗な連続アーチで構成された下流の橋は既に目にしているおっさん。同様の橋は上流部にも存在し、村の生活に役立っているばかりか、一時はさらに新たな村が作られていたともいう。


「その召喚者の人がタマを飼いならして周辺のオオカミを追い払ってくれてたから、この周辺には村が三つあったらしいんだけど、その人が亡くなると、タマも言うこと聞かなくなって、村は滅んじゃった」


 やはり、迷惑な召喚者である。その後はタマの毛皮の有用性に目を付けた冒険者たちがタマを狩って一儲けしたらしいが、もとが警戒心が強い魔物である為、数が減ればそれだけ捕獲が難しくなっていき、ここ数年は目撃情報すらないらしい。

 それでも昔の情報から、上流側、昔の廃村周辺には居るだろうと言われていて、おっさんはこうしてやって来た訳だ。


 少女の案内によって丸一日かけて訪れた上流側の橋周辺。今は何も見えないが、ここには昔の村であった痕跡がいくつも雪の下にあるらしい。


「今日はここで野営だね」


 元気にそう言う少女に促され、野営セットを取り出したおっさんは、エミリーにも手伝ってもらいながら設営を行う。

 このテントも異世界ご都合魔道具の一つで、魔物除けが施され、夜番をしなくて良いとの触れ込みだった。売っていたのは当然、あの何でも屋。個人用を買おうとすると、ニヤつきながら四人用を勧める店主の顔が頭から離れないおっさんである。もちろん、エミリーもそちらを推すので四人用を購入している。


 その間に少女は雪の中で器用にカマドをつくり、乾いた枝も集めていたのに驚くおっさん。野営だから冷たく硬い保存食と冷え切った水を飲んで過ごすのだと覚悟していただけに、喜びもひとしおだった。


「いや、こん位できないと冬の野営なんて無理だし」


 と、冷ややかにおっさんを見るポーター少女であった。


 彼女の作ったカマドで持ち合わせの食料を鍋に入れてスープにする。


 鑑定持ちだったのか、農業スキルがあったのか、過去の召喚者が食用として栽培を始めた魔草の類は地球の野菜類を思わせるものが多く、持って来た食料は、見た目はニンニクやユリ根、食感や味はジャガイモというシロモノ。その茎や葉も食用となり、乾燥したものを鍋へと放り込む。そして、マグロ節を細切れにして放り込んで煮込めば完成。味付けはさらに高濃度の塩をため込む魔草を少々。


 こうして、日本人にとって不満のない食事ができるのだから不思議な世界だと思うおっさん。


 唯一問題があるとすれば、中高生程度の少女二人におっさんひとりという、この怪しい状況。ふたりは特に気にしていない中でおっさんは意識しすぎて、三が日の悪戦苦闘を何か勘違いした酒場のマスターが分けてくれた甘酒のような酒を取り出してチビチビ飲んで気分転換を行う。


「ダイキさん、あんまり飲むと明日の探索に差し支えますよ」


 というエミリーの言葉に、僅かばかりを飲んだところで控え、日本であればもはや犯罪臭すら漂う少女たちと同じテントで眠りにつくおっさんだった。


 飲んだ酒は僅かだったが、寝付くには十分だったので、真っ先に寝たのはおっさんだったが、その事をおっさんは知らない。

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