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2・おっさんは真のスキルを知る

「マキューツカイ?」


 おっさんにはそう読めた。実際にはこちらの言語なのだろうが、翻訳、ないしは言語理解のスキルが召喚時ないしは召喚直後に付与されているとの事だった。そうでなければ、召喚の儀の直後の説明や鑑定時の言葉も分かるはずはない。


「マキュー、ツカイだな」


 青年もほぼ同じように発音した。おっさんが城で鑑定を受けた際の話をすると、青年は何やら少し思案した後、口を開いた。


「ああ、神官や貴族の使う言葉はこう、微妙に俺らと違うところがあるからな。大体は分かるんだが、聞き取りにくいことや意味が分かんねぇ事がたまにある。『マキュツ、カイ』ってのもそう言う事じゃねぇか?」


 との事だった。そして、おっさんは自分が読んだその言葉や青年の発音から、城での言葉とは違うあるものを思い浮かべる。

 魔球だ魔球だと思っていたが、「使い」なのだから、魔球ではなく、魔弓なのではないのか?と。


「魔弓?そりゃあ、伝説でしか知らないなぁ。古の勇者が使えたらしい。スッと手を伸ばすと弓が現れ、弦も無いのに引き絞ると矢が現れてどんなものでも射抜いたって言う話だ」


 おっさんはそれを聞いてすぐさま左腕を伸ばして弓を想像しながら魔力を集めた。すると、そこには思い描いた様に弓が出現したのである。


「おい、マジで魔弓出しやがったよ・・・・・・」


 青年も驚いて目を見開いている。


「じゃあ、これが冒険者メダルだ。紐を通して首から掛けとくのがおすすめだな」


 さすがはプロの受付である。目を見開いて固まったのもつかの間、冒険者メダルを作成しておっさんに提示してきたのだった。 

 メダルは先ほど手をかざした板と同じ魔木を素材にしており、それぞれの冒険者の魔力に反応した色を放っている。赤くなるごとに魔力量が多くなる仕組みで、おっさんの魔力量は召喚者バフもあって一般冒険者をはるかに超える。その為、赤を通り越して白みがかっていた。


「そのメダルの色が一つの目安になるが、それは個人の魔力を示しているだけでギルドの信用とは別物だ。えっと、ダイキの信用はまだ無い。信用を示すランクは石だ」


 青年はおっさんにその様に説明を行い、依頼の達成によって信用度が上がる事を説明していった。

 ただ、おっさんはまずは弓がどれ程使えるのかを試したかった。もう20年も触ってすらいない弓をいきなり扱えるとは思っていない。


「そうだな。城でまったく見当違いの事ばかりやってたなら、まずはそこからだろうな」


 青年はそう言って、街の外にあるギルド所有の練習場を教えた。


 さっそく練習場へ向かったおっさんは門の外の風景を見て圧倒されることになった。

 そこは辺り一面の平地、遠くにうっすらと山脈らしきモノが見える方角もあるが、それ以外はほぼ平らと言って良いほどの地平線が見えていた。

 おっさんはそれを見て思った。(どうやらここは平面世界ではなく、地球と同じく宇宙に浮かぶ星なのだろう)と。


 おっさんは誰も居ない練習場で左手を伸ばして弓を具現化させる。青年の話によると伝説の勇者はその魔力で出来た弓を構え、さらに魔力の矢を出現させたという。それを真似て矢を念じると見事に出現した。

 20年ぶりに弓を引くおっさん。魔力の弓だからだろうか全く引く力を要しない事に驚き、どこか違和感を覚えつつも、引き絞って的となる木を狙い、右手を離した。

 魔力の矢は昔の様に綺麗に飛んで行く。長すぎるブランクを全く感じさせない飛びっぷりの矢を目で追っていくと、木に刺さり、おっさんは「よし!」と、控えめなガッツポーズをする。

 しばらくそこで距離を変えながら練習を続けていると日が中天くらいまで上ったので、おっさんはギルドまで引き返すことにした。


「ま、ここまで当たるんなら問題ないだろう。テンプレな兎系魔物の狩猟依頼なんてのがあれば良いんだが」


 そんなことを呟きながらギルドへ戻ると、受付は青年ではなく、スポーツ選手風な体格の良い女性だった。


「あら?朝遅くに登録に来た人だよね?弓の練習はどうだったの?」


 そう聞いて来た女性に久々の弓だったが腕は錆びついていなかったとアピールし、難度の低い狩猟依頼はないかと尋ねたおっさん。


 女性は机の上の紙をめくって1枚を差し出してきた。


「狩猟依頼ならこれね。角兎(ホーンラビット)牙兎(ファングラビット)は動きが素早いから、大人しい顎髭山羊(ベアードゴート)あたりが良いんじゃない?練習場とは反対の西門を出た川のほとりの岩場によく居るよ。ちなみに解体は出来る?」


 優しく聞かれておっさんの顔も少々緩むが、何せ相手はきっと元冒険者、軟弱なおっさんなど相手にされないと思い直し、素直に出来ない事を告げる。


「そう。なら、ポーターを連れて行きなよ。ちょうど暇してるのが居るから。ケイン!おいで!!」


 それまでとは全く違う迫力のある声にビビるおっさん。振り向いた先にはまだ小学校高学年くらいの少年が走って来るのが見えた。


「彼はケイン。まだ冒険者になる歳じゃないんだけど、ポーターなら11歳からなれるから、一応、冒険者見習いみたいなものね。ダイキより物知りだから、獲物の事を教えてもらいなさい」


 そう言って説明を受けている間に隣へとやって来た少年にも、おっさんが今日登録した初心者であることを伝え、狩猟に関する知識を教える様にと言いつけている。


「じゃあ、行こうかおっちゃん」


 少年に誘われるまま、ヤギが出るという西門へと誘う少年だった。


 西門を出ると景色は様変わりしていた。遠くに地平線が見えるのは同じだが、やたらと広い湖を思わせる大河が見える。


「ヤギなら河原でよく見掛けるよ。ほら、あそこに居るのもヤギ狩りに出た冒険者じゃない?」


 と、ケインの指す方を見れば、弓を持つ人が居る。

 ヤギ狩りは初心者や低魔力の冒険者が獲物とする魔物で、買取り額は安いが狩り易く利用価値は高い。


 おっさんはケインの説明を聞いてヤギの居そうな場所を探し歩いた。


「おっちゃん、あそこだ」


 ケインが小声で指さす方向を見ると、確かにナニカが居る。よく見ると地球のヤギより大型で、名前通りにあごヒゲの様に長い毛を生やしているではないか。


「正面からだとヒゲが邪魔で射抜けないんだ。剣や槍で挑んだら、ヒゲを使って防ぐ事もあるから矢も通らない」


 そんなケインの説明を聞きながら弓を出現させたおっさんは、矢じりの形についてふと考える。

 競技用の矢じりは刺さりはするが、狩猟で使うには向かないハズだ。ある時観た海外の狩猟動画を参考に、カミソリがいくつも生えた矢じりを再現して横あいから狙い射る。


 矢はおっさんの狙い通りに飛んでいき、見事にヤギの胴を射貫く事に成功した。


「おっちゃんスゲェー!」


 ケインは小声ながら声を弾ませておっさんを見る。満更でもないおっさんだった。


 しかし、ケインが喜び勇んでヤギを斬りつけ、血が流れ出すとおっさんの悪夢が始まった。


「おっちゃん、冒険者やるんなら慣れなきゃ」


 ケインは必死で吐き気を抑えるおっさんに呆れた顔を向けるが、血だらけの手を見たおっさんはそこで抑えが効かなくなる。


 


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