11・おっさんは異世界を知る
ポーターの言葉が理解出来なかったおっさんは空を見上げて望遠で確認した。
たしかに魚である。それも、トビウオではなく、マグロサイズはあるだろうか。
「鳥魚が出やがった。知らせるヒマはない。なんとか倒せるだけでも倒してくれ」
というポーター。おっさんは十匹?を超える群れに多少困惑したが、数百という鳥や魚の群れに比べればなんとかなるかと、弓を出現させて射るのだが、刺さる様子がない。
(鱗が硬いのか?いや、距離の問題だろうか?)などと考えているうちに数が増えていく。後続が居たらしい。
「この時期から来るのかよ。シャレにならねぇな」
と、呆れた口調のポーターを他所に、おっさんは新春番組でマグロ漁師の激闘とかやってたなと、まるで違う事を考えていた。
「あ、電気ショックか」
ポソっとつぶやくおっさん。マグロ漁師が船に引き上げる前にマグロが暴れない様に電気ショックを与えるのを思い出したのだった。
そして、電気を帯びた矢をイメージし、空飛ぶマグロへと放った。
一匹?に当たり、電気ショックを与えると、そのマグロは落下をはじめ、周囲を何匹か巻き込みながら地面へと落ちる。
「止まったヤツはいいから空のヤツを落としてくれ」
というポーターの言葉で地面で跳ねる巻き込まれたマグロを狙おうとした弓を空へ向け、更に落とす。
おっさんからすればまた飛び上がるんじゃないかと心配だったが、確認する暇なく空へ矢を放つこと10分程度。群れの一部を欠いた空飛ぶマグロは進路を北に変えて飛び去って行く。
落ちたマグロはというと、まだピチピチ跳ねる個体もあるが、かなり弱っており、もはや痙攣の様な動きの個体や身動ぎひとつない個体まである。
「いやぁ、多少は削れたな。アイツ等が来ると川や池の魚が全て食い尽くされるんだ。本来は北のデッカイ湖に居るらしいんだが、そろそろ凍りはじめる時期だろ?凍らない水辺を求めて南下するんだ。っても、この辺りに来るのはもっと寒い時期に少しばかりなんだがな。今年は早すぎるし、数も多そうだ」
と説明するポーター。
因みに鳥魚という名前の通りに鳥肉と変わらない食味であるらしく、川や池の魚を食い荒らす害獣であると同時に冬の貴重な食糧でもある。
間近で見た鳥魚の大きさは人の背丈ほどの体長を持ち、羽根は4メートルはあろうかと言う巨大さだ。地面に叩きつけられた衝撃で飛行魔法が弾け飛び、一種の魔力暴走によるショックを起こしているらしいと、ポーターが言う。
(なら、魔力波とかを飛ばせば簡単に獲れそうだな)とおっさんは思ったが、その魔力波という考え自体が伝えるのに苦労しそうだと思い直す。電波の概念が存在しない世界なのでは、説明が難しい。その時
「風魔法で落とせないの?」
と、エミリーがポーターに尋ねた。
「無理だな。鳥魚に届く前に霧散するさ。火の魔法なら可能だが、想像通りの結果になる」
というポーターの言葉で、仮に魔力波を理解できても結果がすでに出ていた事を知ったおっさんだった。
「今日は大漁だ!これだけ落とせば、ヤツラも敵が居ると知って戻って来ないかもな」
と言ってそそくさとエラの内側へとナイフを刺し入れてトドメをさすポーター。その行動を見たエミリーも後に続き、魚ならば忌避感も激減したおっさんも喜々として参加し、あたりの雪原を赤く染め上げていった。
おっさんはその場で解体しようとウロコを落としにかかる
「待った!」
するとポーターから制止されてしまった。まさか、何か手順があるのかとポーターを見るおっさんだったが、理由は至極簡単だった。
「ウロコは鎧の材料になる。特に召喚者たちの好むカッチューとかいう奴のな。だから、専門の解体師に任せた方が良いんだ」
という。すでには剥がれたウロコを手に取ってみるものすごく軽く、それでいて硬い。おっさんは甲冑にウロコが使われると聞いてなるほどと思った。そう言えば甲冑は鱗のようにも見える。そして、おっさんも冒険者としての自身の装備を見て、ヨーロッパ風なその出で立ちよりも、甲冑の方がカッコイイかもしれないなと、そんな事を考えてしまった。
墜としたマグロのうち、ポーターが収納出来たのは二匹、エミリーが六匹、対しておっさんは残りの二十匹ほどを楽々収納出来、ポーターもエミリーも驚きを隠せなかった。
「ピンクメダルってのは、そんな途方もない魔力量になってるのかよ・・・・・・」
それがポーターから見たおっさんであった。
村へ帰ると件のマグロは他でも目撃されていたらしく、魔法で落とした魔術師も居た。が、火魔法をマグロに放っているので羽根や大半のウロコが使い物にならない状態で、何とか身だけが手に入る状態だったという。
それに対しておっさんは主に電気ショックで落としているので使える羽根やウロコも多く、身に至っては魔法で落とした個体とは品質が段違いだと喜ばれることになった。
「ああ?ウロコの鎧だって?そりゃあ、職人に言えば作ってくれるだろうさ。が、手間暇かかるからかなり値が張るがな」
という解体師の言葉を受け、甲冑の製作費を聞いてびっくりする事になった。
「金貨100枚はくだらないというのは流石になぁ」
と、がっくりするおっさん。
「いや、お前さんの場合はこのウロコを持ち込めば半値くらいにはなるだろうし、ここで冬の間狩ればその程度は稼げるんじゃねぇか?こんだけ状態が良いんだ。生焼け肉しか持って来ねぇ連中とは訳が違うさ」
という解体師の言葉に乗り、しばらくここで稼ぐことにしたおっさんだった。
その日は訓練を軽く済ませ、早めに居酒屋へと向かう。何といってもマグロが食いたかったのだから仕方がない。
当然のようにマグロを頼み、ワクワクしながら待っていると、かなりボリュームのある肉が現れた。
「お前さんの狩った鳥魚だ、羽根の付け根の一番上等な部位を焼いてやった」
そう説明するマスターにお礼を言って手を付けたソレは、マグロというより鳥肉、それもチキンというより鴨肉に近い味わいで、とてもマグロとは思えない「肉」を堪能する事になった。
同時に出されたスープの方はすぐに消費しないといけない魔法師が落としたマグロが使われており、なるほど、これが狩り方の違いなのかと思わされることになった。不味いと文句を言うほどでではないが、ステーキと比較してはいけない普通なスープとなっていた。
おっさんが狩ったマグロに関しては、多くの部位が保存食へと回され、これから四ヶ月近い冬の備えとなるのだという。多くは下処理をして蒸して乾燥、熟成を行うそうで、おっさんからすればまるで鰹節に思える作り方だったが、保存食としては最適らしく、使用の際には削ってスープに使うという。まさに鰹節な使い方に思えなくもない。違うのは、そのまま具材としてスープに入れる事だが、それとて過去の召喚者が伝えた調理法が誤って伝えられた結果に思えなくもないのだが、もはや誰にも真相は分からない。