ステージ・2 女神様から力を貰おう
「っと、言うわけで。まずはお二人に勇者としての力を授けますね!」
ノエリア様は輝く笑顔を浮かべながらそう言った。勇者としての力…扱えるんだろうか。
とか思ってたら、ノエリア様の差し出した掌の上にキラキラした何かが現れた。浮いてるぅ。
「これをお二人の胸に入れてみて下さい。魂と結び付いて、相応しい武器へと変化する筈です」
「よっし。頼むぜー、いっちょ強い武器ぃっ」
渡されたキラキラ光る何かは俺の掌の上に浮いている。それを、どうにか胸に入るように慎重に動かしていく。
その光が俺の中に入った。異物感は無く、むしろ有って当たり前の様な…それでいて、感動を覚える心地よさ。胸に灯火の様な暖かさが宿る。
「今度は、その感覚に力を入れる…みたいな感じをやってみてください」
ふんす!みたいなポーズを取るノエリア様。見た目の浮世離れした美しさに反して所作の可愛らしさというかなんと言うか。好き。
その暖かさに、力を込める。…胸から光が溢れて、目の前で形を成した。
「…剣、か?すげえな…」
「私は…杖、ですね」
…アレ?軍人としての教育受けてる永夜サンが杖で、俺が剣?逆じゃないのソレ?
「では、ちょっと触りますね」
そう言ってノエリア様は剣と杖を掴んだ…ってぇそこ刃ァ!切れちゃうって!
「ノエリア様ァ!?手が切れちゃいますよっ!?」
「ああ、大丈夫です。私が『女神』として与えた力は、その大元には決して力が通じる事はないんです。驚かせてごめんなさい」
「な、なるほど。なら安心、かな」
「うーん…星也さんのは、切断…触れた物はなんでも切れちゃいますね。凄いですよ!」
なんでも切れる。…それはつまり、切りに行かないといけない?伸びたり斬撃飛ばしたりは出来ない?
「えっと…つまり近接戦闘オンリーって訳ですかね?」
「そうですね。でも防御不可能な斬撃、かっこいいです!」
目ぇキラッキラさせてらっしゃる。クソ可愛。
「千雨ちゃんは…魔法系統の力への増幅能力、解析演算…凄いよ、千雨ちゃん!魔法のスペシャリストだよ!」
「ちょ、女神様っ」
ノエリア様に抱き付かれて、永夜サンは慌てふためいている。眼福ではあるが…女の身ではないことを嘆くべきか、喜ぶべきか。
「さて、それでは。改めて世界の現状を説明しますね」
キリッ、と居住いを正したノエリア様。パチンッと指を鳴らすと椅子とテーブルが出現した。
揃って腰掛けると、紅茶…的な飲み物が現れた。
「この世界には様々な種族が存在します。エルフ、獣人、ニンジャ、サムライ…」
いや忍者と侍は種族じゃ無くて職業じゃないの。
「ここで問題になって来たのが、魔人族です。彼らは高い能力を持つ反面、好戦的で…たびたび、他の種族と戦争を起こしたり、侵略したり…ちょっと困った方達が多いんです」
ちょっと…困った?表現可愛い過ぎない?
「特に今回は、魔王を僭称し、他種族に戦争を仕掛けて来てまして…魔族側の神もそれに乗じて、権益を得ようと画策してるみたいなんです」
泥沼ぁ。いやそんなんじゃなきゃまあ呼ばれたりせんわな。
「魔王の最終目的は神の力を手に入れて、魔族の世界を作り上げること。魔族側の神は他の神を排斥して、自分だけの世界が欲しいみたいですね」
「私達の使命はそれを叩き潰す事。ですね、女神様」
くいっ、と眼鏡を上げて光らせながら永夜サンは言い切った。やだ物騒。
「そう、ですね…何度か和平交渉はしているのですが…残念ながら、彼らは止まるつもりは無いみたいです。神の方はともかく…魔王は討つしか、無いみたいです」
「女神様の心痛はわかります。ですが、戦争を仕掛けて来たなら、その贖いは命しかありません。既に、どうしようもないから私達の召喚に踏み切られたのでしょう?」
ノエリア様が俯く。ばっさり言い過ぎィ!
「ちょっと落ち着けよ永夜サン。ノエリア様も悩んで、その事実は分かりきってんだから叩きつけ直さんで良いじゃない。…ま、とりあえず魔王とやらのツラぁ拝みに行くのが先でしょ?一回シバけば案外話が通じる様になるかもしれんし」
「なんですかその甘い理想論。…ああ、そういえば貴方自身は戦争なんて、経験した事ないんですっけ。目の前で肉親を焼かれた者が、どんな思いで戦場に身を投じるか。貴方は知りもしないんですね」
うわぉ棘っちい。
「まして、大義もなく欲に溺れて侵略行為を行う愚か者が、情けを掛けられたからそれに感謝すると?改心すると?…平和ボケが進むとこうなるんですね。別に貴方のスタイルがどうであれ構いませんか、足を引っ張らないでください」
…もしかして変な地雷踏んだ、か?
「悪いな。こっちは切った張ったとは無縁の人間なのよ。…どうせ百年ぽっちで死ぬってのに、わざわざ奪って奪われてなんてごめんなんだわ。平和が一番だろうに」
永夜サンの顔色が変わる。失言を悟り、撤回する前に彼女は声を荒げた。
「その平和を踏み躙る存在をッ!私達は討たねばならないんでしょうッ!」
ノエリア様がおろおろしている。
「…何があったかは聞かないし、癪に触ったなら謝るよ。ただ、住んでた世界が違うってのは互いに念頭に置いとこうよ。価値観もだいぶ変わるし、さ」
「…失礼しました。女神様、続きを」
「は、はい!とりあえず、下界に降りて、しばらくは冒険者として活動しながら、力を磨いて貰います。情報を集めながら、魔人族領に入り…最終的には、魔王と対峙する事になります。無論、こちらも仲間を増やしたりして行かなければなりません」
「勇者って身分は隠さなきゃならないって事ですかね、ノエリア様」
「はい。魔王や魔族側の神も、勇者を警戒している筈ですから」
「ちなみに、ノエリア様は…何を武器になさるんです?」
「私は術式制御型の剣と…この銃を使います」
俺たちが武器を生み出したのと同じ様に、銃を生み出した。