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ステージ・1 此処から始まる勇者活動

あーくそ、どじった…いや。俺がどじった訳じゃ無いんだが、なぁ。


かろうじて動く左手で、なんとか無事だったスマホをやっとこさ操作する。意外と痛みは無いんだが、しんどさは感じる。まだ、出勤の時間前な筈の母親にコールする。


そして、出てくれた母親に…多分助からない事と、これまでの感謝。親父にも同様の事を伝えてくれと頼むのと、集めたコレクション…所謂オタクグッズを好きに処分して、葬式代の足しにでもしてくれと伝える。


意図せず、口から血が溢れた。真面目に長くないだろうし、死ぬ瞬間はわからない方がいいだろうと、最後にもう一度感謝と別れを告げて、電話を切った。


会社にも連絡を入れたかったが、その時間は無さそうだ。


11月15日。通勤途中の信号待ちで、運悪く居眠りのトラックに追突されて交差点に叩き込まれた俺は、更に運悪くちょうど交差点に入って来た大型トラックに愛車ごと吹っ飛ばされ、気付いたら腹に金属の何かはぶっ刺さっているわ既に火が車に付いているわで、むしろ即死じゃなかったのは幸運だったのだろうか。とりあえず万が一生きて帰れたら俺の超厄日として記念日にしてやろう。…まあ実際、火が付いてるのに熱さすら感じないし、あちこち折れたり刺さってるのに痛くないからまあ、長くはないだろうけど。


そんな、余りに悠長な思考も、炎に巻かれ、もしくは血と共に流れて消えてしまった。…はずだった。


(あー、コレ死んだって奴か。ははっ、暗えなぁ…)


意識と体が一致しない。無くなった様な感覚だ。死んだら消えると思っていたから、案外意識があるのは驚いた。いや、幽霊もこんな感じだろうか。


と、思っていたら。唐突に、引っ張られる感じがした。光の中に、急激に叩き込まれた…いや、視界にいきなり光が差した。


そして、目の前には。とんっでもねえ美少女が居た。ストレートな金髪に、白い肌。エメラルドグリーンのくりっとした瞳。キリッとした目鼻立ちにクールな顔立ち。その輝く瞳は、つぶさに俺を観察して…目が合うと、その人形の様な印象を即座に捨てさせるほどに柔らかく人懐っこい笑みを浮かべた。


そして自覚した。これが運命と呼べる出会いなのだと、生涯初めて体の奥底から齎された衝撃を噛み締めた。


って、体?あれ?体がフッツーにある!?怪我もなんも、ない?


困惑を察したのか、美少女は申し訳無さそうな顔をした。



「ごめんなさい。今がどんな状況で、此処が何処だか…わかりませんよね。貴方は一度死んで…魂だけを、この世界に呼び込まれたんです。そして、肉体をこの世界で再構築したんです。勇者として、この世界で戦って貰う為に」


なるほど、死んだのは間違いないらしい。マジか。声めっちゃ可愛い。二次元万歳な俺が24時間365日聴いていたいってレベルだわコレ。


「私は、貴方がた勇者のサポートを担当する女神のノエリアって言います。いきなりで困惑してるのは分かりますが…何か質問はありますか?」



「伴侶、もしくはお付き合いしている男性は居ますか?」


「は、はい?」


「あ…いや失礼、間違えた。元の世界に帰れたり、死ぬ前に戻れたりは…する?ああいや、しますか?」


間違い、と告げたら可笑しかったのか女神様…ノエリア様は、クスッと微笑んだ。マジ天使、いやマジ女神。


「どんな間違いなんですか?もう。とりあえず、私にはそういった相手は居ません。それと…」


冗談だと解釈した質問にも律儀に答えてくれた。だが、その先で表情を曇らせた。つまりは…


「ごめんなさい。貴方の世界では、貴方の死は確定してしまいました。きっと戻れば要らぬ混乱を生んでしまいますし、そもそも戻れないんです。死を取り消したり…まして、死の前に戻して差し上げる事も…ごめんなさい、私にはそこまでの力は無いんです」


深々と頭を下げるノエリア様に、めっちゃ罪悪感。ノエリア様悪くないよコレ。


「あーいやぁ戻れたらめっけもんだなってだけです。女神様が謝らないで下さいよ」


「そんで、コレからなんですが…女神様。俺は何をすれば良いんです?」


「この世界を救う為に、戦って頂きたいんです。私と、一緒に。もちろん、女神として出来る限りのサポートはします」


女神様のサポート付きで二人旅。ならば答えは決まっていよう!


「是非とも喜んでッ!」


「残念だけど女神様と二人っきりじゃないわよ。というか女神様、この人大丈夫なんですか?私に気付きもしないし反応おかしいんですけど」


「多分大丈夫…ですよ?亡くなった直後で錯乱してらっしゃるんですよ、多分。それに、勇者の召喚術式では善良な方しか呼べませんから大丈夫です」


もう一人居たっ!?黒髪ポニテの眼鏡っ娘!委員長タイプ!


「あー、うん。ちょっと真面目に混乱してるんだろうな。君は?」


「永良特殊士官学校三年、永夜千雨。オジサン、貴方は?」


「山城星也、会社員…だった。てか特殊士官学校って何ソレ、そんな学校あんの?あったっけ?」


とりあえずオジサン呼びは辞めて欲しい。間違ってはないんだが刺さるんだ、心に。現実は人間に厳しい。


「えっと…お二人の世界は、非常に似通っては居るのですが別の世界の様ですね。特に、千雨さんの世界は戦争真っ只中みたいですね…」


つまり軍人養成所みたいなもんって訳か。戦うにはうってつけなんだな。…アレ、ただの会社員の俺が一番お荷物じゃないコレ?


「…てか、なんでただの会社員が勇者?大丈夫なのかなソレ」


ノエリア様は苦笑いを浮かべて俺の手を取る。やめて惚れちゃう、惚れてるけど。


「大丈夫です。貴方にはきちんと勇者として戦う素質があり、そして私が貴方を勇者として戦えるようにサポートします。一緒に、世界の脅威…魔王を倒して下さい」


なるほど、断れる訳が無い。異世界万歳、女神ノエリア様万歳。


「まあ、そういう事なら…宜しくお願いします、女神様、永夜さん」



こうして、異世界での勇者活動は…始まったのだ。

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