30、不思議を集める皇帝
1、不思議の独占
皇帝は幻の中にいる。
皇帝は、皇帝になると、自分の国から不思議を集めていった。この国の不思議と非常識は皇帝のもとに集まった。皇帝はこの国の不思議をすべて集めてしまい、庶民には平凡で常識的なものしか残らなかった。心をワクワクさせるものは皇帝のところへ集まっている。
不思議の独占。それが皇帝の贅沢だ。
金銀財宝などを集めるのは、野卑な贅沢である。皇帝の贅沢は、不思議非常識を集める。高貴な贅沢である。
皇帝の住む幻は、空理虚構の玩具ではなく、物質的根拠を持った現実である。それはもともとこの国のあちらこちらに不思議を感じさせるものとして散らばっていたものだ。皇帝はそれを集めた。
皇帝一族は戦いつづけている。集めた不思議を守るために、全力で一生を生きている。
全力で一生を生きる一族でなければ、皇帝一族にはとても敵わない。
皇帝一族については、世間で知られているほとんどがまちがっている。わざとまちがえさせているのだろう。庶民の皇帝一族への誇大妄想や被害妄想も、皇帝の集めた不思議のひとつだ。皇帝一族に関する先入観は、そのほとんどを疑ってかかるべきである。それでなければ、幻の中を進むことは難しいだろう。幻の中に何が待っているのか。私はその一部を見た。しかし、黙っていなければならない。知りたければ、幻を探すしかないのだ。常識とは何か。非常識とは何か。それによって、幻の中にあるものがいかに神秘足りえるのかが決まる。偶然では決まらない。誰かが全力で神秘を構築したのだ。そこには、我が国の庶民の全力の痕跡が残っている。一国の全力である。欲しがるものは多い。しかし、譲ってはいけない。我が国のものだ。
皇帝は奇妙な音を集めた。宮廷では奇妙な音ばかりが鳴る。
皇帝は怪異の原因を集めた。都に死体の山が積まれるのも、皇帝の集めた不思議のひとつなのかもしれない。
皇帝は幻惑する技を集めた。皇帝はよく人を惑わした。
2、平凡な町に生まれ名を挙げようと
貴次解は、自分の生まれた町を退屈だと思った。どこに大爆笑な町があるのか探してみたいと思っていた。
たまに見かける町娘のきれいな顔だけが楽しみで、後は何にも面白いことのない十五年を生きていた。世界はこんなにも退屈なのか。生まれてきても仕方ないな。これからの人生をどう楽しんだらいいのか、途方に暮れてしまうよ。そんなことを思っていた。
しわくちゃ顔の婆さんがその様子を見て、「おみくじを買え」といった。「不思議なものは皇帝のところに集まる。皇帝は、小さな不思議を庶民の町に置いて試す。おまえは、この町で小さな不思議を見つけることもできなかったボンクラだ。だったら、おみくじを買え。せめてヒントが書いてある」
この町の小さな不思議? 貴次解はまったく思い浮かばなかった。
おれももう十五歳だ。いつまでものんびりしていられねえ。この町の不思議っていったら、あの意味もなく高い棒しかないだろう。あれを登ってみるか。
貴次解は町の外れに立っている意味もなく高い棒を登っていった。そして、下を見ると、壁に囲まれて出入口のない家が一軒ある。あそこだ。あそこは不思議だぞ。
貴次解はまわりの静止を振り抜き、壁にはしごをかけて登った。出入口のない建物。そこには、ものすごく穏やかな性格のお姉さんが住んでいて、貴次解を皇帝のところへ連れてってくれるという。
3、不思議宮殿に三十年住む
そして、貴次解は皇帝の居る不思議宮殿にやってきた。竜巻が布を巻き上げ、糸電話で会話する商店街に、壊れっぱなしの家がたくさんあるとか、とても変なところだった。
「おれ、この町、大好き。三十年住む」
貴次解はそういって、住み込みで働ける職を探した。
「逆立ちで荷物を運べるなら雇ってあげるよ」
というから、貴次解は逆立ちで荷物を運ぶ荷物運びの仕事について、逆立ちで荷物を運び始めた。最初は一時間で三メートルしか運べなかったけど、若さに期待して、一年後には逆立ちで荷物を運べるようになることを期待して、がんばって仕事した。
この都には、たくさんの不思議があるんだ。飽きることがない。美人も多い。




