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28、透明石の建設

 詩人たちが美女を手に入れる方法を質問した。

 詩神が現れて答えた。

 美女を手に入れるには、真に重要な仕事をすることだ。

 詩など書いても、心は打たれない。

 詩人は、詩を捨て、国家の重要な仕事に志願したり、海を越えて財宝を探しに行ったり、科学技術の研究を始めたり、勤勉な労働に従事するようになった。

 戦いに敗れた詩がつづいた。真に重要な仕事など見つからなかった。美少女はうなずかない。

「きみたちはそれだからダメなのだ。美少女をうなずかせるだけの詩を書くために詩人になったのではないのか」

 詩で勝負しろというのか。真に重要な仕事だといえるほどの詩を読んだことがあるか。そんなものが実在するのか。

「詩だ。我々は詩人だろう。詩を書くことが至上の職業だと考えて詩人になったのではないのか。思い出せ。自分がなぜ詩人になったのかを。詩で、真に重要な仕事を行う。それで納得しない連中には、透明石の宮殿を建設しているとでもいっておけ」

 そして、詩人の剣は折れ、槍は刃がつぶれ、銃は壊れた。

 地獄が始まるのだ。

 今から我々は大きな仕事を隠す。

「行け」

 そうでないものは、透明石の建設だ。

 死んだものに告げて送る。

 詩神がきみの美しさを讃え忘れてしまった。きみの美しさは否定されていた。二流詩人がどれだけきみを美しく歌いあげても効果はなかった。きみの美しさが知られることなく時間がすぎていく。

 詩。

 それがあるだけで幸せになる詩。

 一度、書かれたら、何度読んでも幸せになれる詩。

 それをこれから書くのだ。

「行け」

 彼に伝えよ、地獄がどこにあるのか、地獄の苦しみがどんなものなのか。

 これから我らは、愛の神に殺され、それから蘇るのだ。

 酒樽を相手に喧嘩して、愛の園にたくさんの墓石があって、夜明けまでを支配する。

 数千年、詩人が詩を書いたが、真に重要な詩が存在したといえるのか。

 詩を捨て、透明石を建設した方がマシなのではないか。

 詩人は奇跡の採集をする。詩人が海を割り、奴隷解放を行う。愛はすべて奇跡であり、詩人は全能の神の如く奇跡を起こさなければならない。

 詩人は、聖書を語りなおし、ギリシャ神話を語りなおし、アーサー王伝説を語りなおす。

 詩人の詩が退屈になる。美少女はうなずかない。

 十六世紀の美少女は、無神論の可能性を考える。聖書でも、ギリシャ神話でも、アーサー王伝説でも、心を打たれたりしない。真に重要な詩を書け。それは独創的な詩であるはずだ。

 難しい。

 詩は完成しない。

 まるで、詩神は非力な神であり、本来意図したようにそれを形成する力なきがゆえに、詩と詩人は存在する必要のなかった被造物であるかのように。

 真に重要な役人の仕事や、真に重要な財宝探しや、真に重要な科学研究や、真に重要な退屈な労働のように、真に重要な詩を書け。

「行け」

 地獄がつづくだろう。

 透明石を建設しろ。

 ぼくも男の道を行かねばならぬ。

 詩人たちの死体が積み重なる。

「真実を求めるな。自由を捨てろ。おまえこそが我が詩に捧げる敵にふさわしい」

 詩人が戦っている。

「お迎えに参りました」

 詩人はきみにうやうやしく手を差し出す。

 きみのために死んだ詩人たちが地獄から蘇り、愛のゾンビとして行列をなす。

 愛のゾンビが歌うなか、きみは抱き寄せられ、ドールールーの系統の始まりを見る。

 詩と、詩人と、美少女の心を満たす一族を進化で作り出し、詩乙女族として存続させる。

 こうなったら、数千年の進化の果てに詩を完成させる。

 詩乙女族が詩を満足させるだけの美しさと賢さを兼ね備え、詩を満足させるだけの人生と出来事と記録と歴史を作ってのち、詩を書く。

 その頃には、透明石も完成するだろう。

 詩人の心に適った女の一族、詩乙女族だ。

 透明石の素材でできた指輪をきみに贈ろう。

 詩人よ、約束するか。

 真に重要な詩を書くと。

 詩人は、全能の神に作られた計画に関与する職業のひとつであることを証明するか。

 読んだだけで、誰もが幸せになる詩。

 読むのに五分もかからない詩。


参考文献。

シェイクスピア詩集。

ジョン・ダン詩集。

ワーズワース詩集。

ブレイク詩集。

テニスン詩集。

ブラウニング詩集。

コウルリッジ詩集。

バイロン詩集。

シェリー詩集。

キーツ詩集。


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