27、外の指輪
注:これは「外の剣」の続編である。
1、石を吐く竜の群れを退治する話
外の剣を持つヒロエの旅はつづく。
地上には、さまざまな脅威がある。空から岩石の雨が降るのも、そのひとつだ。地球には、岩石が時々、降り注ぎ、岩石の雨期が始まり、岩石の洪水が地上を襲う。地上の岩石が空に舞い上がり、岩石の雲となって空をただよい、岩石雨となって降って来る。岩石の洪水は、土砂が盛りあがって押し寄せて来て、家をつぶし、町をつぶし、平野をつぶす。岩石の洪水で地形が変わる。島の形が変わったり、大陸の形が変わったりする。人類は、その洪水を生きのびなければならない。
岩石の雨を降らす力の原因を止めるために、ヒロエはベトナムのタングステン鉱山に竜退治に出かけた。
鉱山には、石を吐く竜の群れがいた。ヒロエは石を吐く竜を外の剣で倒していった。
石が飛んで来て痛い。痛みに耐え、ヒロエは竜を斬りつける。
「ここには八種類の息吹を吐く竜がいる。気を付けろ」
逃げていく男がそうつぶやいた。
ヒロエは、石を吐く竜を五十頭退治して、鉱山を登って行った。やがて、赤銅を吐く竜が襲ってきて、それを退治すると、次は、白銀を吐く竜が襲ってきて、それを退治すると、次は、黄金を吐く竜が襲ってきた。ヒロエはそのすべてを退治する。
逃げていく竜がいる。ヒロエはそれを逃がす。竜に足の速さで勝つのは無理というものだ。竜はさらに翼を羽ばたいて飛ぶ。
瑠璃を吐く竜がいて、タングステンを吐く竜がいて、エメラルドを吐く竜がいて、ダイヤモンドを吐く竜がいた。ヒロエは思った。この鉱物竜たちを倒さない方がよいのではないかと。鉱物竜からの収穫をうまく考え出せば、その方が得なのではないか。鉱物竜はただの害悪ではない。損得勘定を数えて、収穫の対象と考えるべきだ。
鉱物竜は、ヒロエに見逃されて、存続した。そのため、石の雨が降り、赤銅の雨が降り、白銀の雨が降り、黄金の雨が降った。瑠璃の雨が降り、タングステンの雨が降り、エメラルドの雨が降り、ダイヤモンドの雨が降った。
石の洪水が起きて、赤銅の洪水が起きて、白銀の洪水が起きて、黄金の洪水が起こった。瑠璃の洪水が起き、タングステンの洪水が起き、エメラルドの洪水が起き、ダイヤモンドの洪水が起きた。貴金属や宝石の土砂が盛りあがって町をつぶし、大陸の地形を変えた。
人々は、『ここはヒロエに見逃された世界だ』といった。
2、外の工房に何が起きたのか
ヒロエの外の剣と同じように、遠い北東の島国で、空から、外の槍が落ちてきた。外の盾が落ちてきて、外の帽子が落ちてきて、外の服が落ちてきて、外の袋が落ちてきた。
外の指輪が落ちてきて、外の首飾りが落ちてきた。
いったい、これらの道具はどこから落ちてくるのか。空より上の天から落ちてくる。この道具がやってくる場所には大気はないであろう。
これらの道具を作る工房がどこにあって、誰がどうやって呼吸をして、これらの道具を作っているのか。それはヒロエにはわからない。地上の武具とは思えないこれらの道具は、鉱物竜を退治できるほどである。
鉱物竜を見逃したために資源にあふれた地上は、採掘業が主産業になり、ヒロエは採掘会社の社長になっていた。
ヒロエは、社内の女と親しくなり、きれいな女に石を吐く竜の群れの話をした。社内の女はヒロエを慕い、ヒロエは社長業を楽しんだ。鉱物竜は地上に大きな影響を与える。鉱物竜を退治するには外の武具がいる。それをもたらす外の工房に異常があった可能性が高い。
「もし、ぼくに何かあった時、交渉の資格があることを示すために、きみはこれを持っておきたまえ」
とヒロエは、社内から厳選した女に外の指輪を渡した。
「プロポーズですか、社長」
社内の女がいう。
「好きに受け取りたまえ」
ヒロエが答える。
「こういうことははっきりしてもらわないと困ります」
「そうか。それもそうだな。なら、これからはっきりさせるよ」
そして、ヒロエは気持ちを整理して、社内の女と婚約の手順を整えた。
ヒロエのはっきりさせる作業は難航して、なかなか婚約は決まらなかった。
「社長、早くしてください」
「もうちょっとだ。もうちょっとはっきりさせる必要がある」
社内の女は、ヒロエの心の整理を手伝った。
社内の女は、ヒロエの恋愛事情の相談を受けるようになり、それをことごとく整理した。
二人の仲は深まり、ヒロエは、社内の女を妻に迎える決意を固めた。
「社長、はっきりしましたか」
「とうとうはっきりしてきたぞ。あの時の指輪は、まちがいなく、ぼくのプロポーズだった。ぼくの愛の証として、外の指輪を持っていてくれ」
「社長、次は私の心をはっきりさせなくてはなりません」
「それもそうだな」
ヒロエは、こうして、社内の女の心を確かめた。




