13、転落
みんな素晴らしい男ばかりだよ。
ダメな男はおれひとりだ。
おれひとりがダメな男だと聞いて、おれはとても憂鬱な気分なんだ。
どうしたらいいんだよ。
女たちは、おれだけが嫌いらしい。おれだけがダメなんだ。
世界のからくりは、おれだけがいなくなればすべてうまくいくようにできているらしい。
おれは対処すべき汚点だとされている。政治家たちがおれの存在を議題にあげ、おれの人間性の悪さを解決しようとしているらしい。政治家たちは、国家をかけて、おれの下手な生き方を助ける作戦を考えているらしい。ダメなおれを正常化させることをあきらめないとは人徳ある政治である。しかし、おれを正常化させるなどそう簡単にできるものではない。善良なる我が国家において、解決できないおれの存在は国難と呼ばれているらしい。
貧乏くじ。鬼。お荷物。
おれが人生で見つけた楽しいことの数の少なさがありえないらしい。楽しいことを知らないおれはいない方がいいらしい。
おれ以外の男は、みんな、人生を成功させた。
おれだけが成功しなかった。
結局は、みんな素晴らしい男ばかりだったよ。
子供が子供を励ましている声が聞こえる。
おれだけがダメだった。
なぜ、こんな世界のからくりが作られたのか。
おれだけがいなくなればすべてうまくいくようになぜ世界が作られたのか。
これは現代人がそのように世界を構築した結果だ。
これは現実に行われている政治なのだ。
おれはそれを知った。
おれはこの国でいちばんダメな男であったため、この国の政治を垣間見たのだ。
おれのいなくなる世界を目指して現実が動いている。
おれのいない世界を理想郷と呼ぶ声も後を絶たない。
おれがいなくなった時に新しい時代が始まる。
世界でいちばんダメな男は何を考えるものなのか。
おれが世界でいちばんダメだったのか。
みんなは「自分が世界でいちばんダメだ」といっている男に会ったことがあるか。
憂鬱な気分の時には、その体験は、とても貴重なものだね。
かつて、おれはそんな人を10人くらい見つけた気がする。
それをどうしても思い出したいんだ。
本当に世界でいちばんダメなおれと比較するためにね。
そんな男たちは何人いるんだろうか。
政治家なら知っているだろうか。
国難を乗り越えるために、国民に公表してくれないだろうか。




