ウェンディの遺産
翌日、荷物を馬車に積み込んで、カーラと継母に挨拶をして、ダニエルと共に馬車に乗り出発した。
カーラも継母も少し涙顔で私を見送ってくれた。
「すぐに、帰ってきてね!!貴方がいないと寂しいんだから。」
カーラのその声に、初めて家を離れて遠くへ行くのだと実感がわいて、少し感傷にひったってしまったがそんな感情を直ぐ吹き飛ばす魔王の声が聞こえた。
「この先の森にゲートを開いた。ゲートは、2か所。この国と国境を越えてすぐの森に作ってある。ゲートを通るときに少し衝撃があるから中でしっかり、つかまっておけ。」
「分かったわ!!」
一つ目のゲートを通る抜けるとレリアン公国の国境まできた。ここで、私は、『国境を超えるための許可書って?』何かいるのかしら?と改めて思った。
「ねえ。ダニエル…。国境って簡単に通してくれるのかしら?何か許可書とかっているの?」
「ええ。まあ、商人は商人の通行許可書が有りますね。」
「え?じゃあ。私たちは?」
「お嬢様は、親族がいらっしゃいますから、その証明が有れば大丈夫ですよ。」
「そんなの…持ってないわ。ダニエルが持って来てくれてるの?」
「いいえ。」
「じゃあ、通れないわ。私、何も持ってないもの…。あ~なんて、無知なのかしら。自分が情けないわ。ごめんなさいダニエル。一度家に帰りましょう。」
罪悪感で一杯の私とは、裏腹に、ダニエルはニコニコしている。どうしてそんなに余裕があるのか…さっぱり、分からない私だった。
「ねえ。ダニエル帰りましょう。」
「大丈夫ですよ。お嬢様。もう、国境警備の者が待っています。さあ、手続きで、馬車を降りますよ。」
「え?証明書は無いんでしょ。」
「はい。ですが、お嬢様である限り大丈夫です。」
ダニエルの意味の分からない言葉に戸惑いながらも私は、馬車を降りた。そして、国境警備の騎士たちが証明書を出すように促すのかと思っていたら、騎士たちが私を見てすぐにお辞儀をして、そのうちの一番偉い感じの騎士が、私の手の甲にキスをしてくれた。私は、訳が分からないうえに驚きで声が出なかった。
「ラウンダー侯爵家の方ですね。」
「ええ。どうして?分かるの?」
「その瞳の色です。我が国の4大侯爵家の瞳は、他国に無い色ですので。」
「そうなの?ダニエル。」
「はい。それが証明です。」
「だから、大丈夫って言ってたのね。」
「お嬢様の瞳の色は、青から緑に偏光します。その色は、代々、侯爵家当主に受け継がれる色でございますので。ちなみに、ラウンダー以外の侯爵家は、赤から紫、黒から黄色、黄緑から橙色でございます。そして公爵家は、黄金色でございます。」
「え?当主?」
「はい。」
「私が…。」
「そうでございますね。当主としての瞳の色でございます。」
ダニエルがしれっという言葉に驚いたが、私を見る警備騎士の顔がその事を本当だと証明していた。なんだか…嫌な予感がするが後戻りもできないし、とりあえず、侯爵家へと急ぐことにして、国境をあとにすることにした私だった。
「とりあえず通過出来て良かったわ。でもダニエル、私の瞳の事、どうして、今まで、教えてくれなかったの?」
「あちらの国で生涯を過ごされるなら…。必要ない事だと思っておりました。お嬢様に色々と降りかかる面倒事もございませんし…。ですが、こちらに来た以上は、色々あるかと思いますので、後で、色々とご説明いたします。一つだけ。その瞳は、ウェンディ様の遺産と思っておいてください。」
ダニエルは、そう言ってから、静かに本を読み始めるのだった。私は、なんとなくその先が聞きづらく軽く頷いてから、馬車の外を眺めていた。




