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8.決行

“雅”奪還決行日。策を練り準備をし後は雅が来るのを待ち…

目の前に愛しい妻が…。しかし獣人の男は俺の妻をまるで自分の伴侶の様に触れ怒りを覚える。必死で怒りを抑え2人が聖流の傍の祭壇に来るのを待ちその時を待っていた。


この聖流は源頭は人界にあり遡れば人界に帰れる。この川の人界側には父と義父に待機してもらっており、俺と雅が獣界を脱した時点て結界を張り直してもらう。ここは獣界で馬はおらず足が無い。雅は軽いから抱きかかえて走るのは問題は無いが…


『お腹の子は大丈夫だろうか⁈』


雅のお腹に宿る子は神の啓示を受けた”神の子”だ。長きに渡り争ってきた妖界と獣界との"和"をもたらす子。必ず護り抜かなければならない。

逃走の際に"目晦ましの術"を掛けるがどの位持つのか不安がある。計画を立て昨晩現地の下見と術のかかり具合を検証したが人界でかけた時より早く解けた。やはり獣界では神力の効きが悪い。しかし協力者もおらず俺にできる最善策はこれしか思い浮かばなかった。


車が停まると寅人の長が嫌がる雅を抱きかかえ車から降り祭壇に向かう。

祭壇には煌びやかな椅子が設置されており多くの獣人が2人を出迎える。そして寅人の長は雅を椅子に座られ目の前に跪いて


「この獣界と人界の和を齎す為に俺の妻となり、結界を取り払い獣界の繁栄を齎す子を産んでくれ。愛妾は持たず生涯其方だけを愛し慈しむと誓おう」

「・・・」


雅は俯き否定も肯定もしない。傍が見たら雅が恥ずかしがりあの寅人と想い合っているように感じるかもしれないが、そうでは無く寅人に警戒心を与えないようにしているのだ。夫である俺には分かる。雅は巫女で神力が強いだけで無く頭もよく、いつも先を見据えている。


こうして勝手に祝言を挙げようとしている寅人の長を獣人達が見守る。しかし俺はこの場に反対する者達を見逃さなかった。実はこの街に来てから人を伴侶に迎える事に異を唱える獣人達がいる事に気付く。そして準備で忙しい街の広場で、この街の長である熊族の男に接触を試みた。接触した時は襲われ危うかったが、俺が人の巫女を人界に帰す為に来たと話すと態度を軟化させ俺の話を聞いてくれた。

反対勢力のリーダーは熊族の長でボルクと言い、獣人と人が交わるのを嫌悪していた。


『俺は貴方達獣人に恨みもに憎しみも無い。お互い自分の国で幸せに過せればいいと思っている。だから明日、寅人の長がこの街に来て人の巫女と祝言を挙げる時に、彼女を救い出し人界に戻るつもりだ』

『俺達に手助けしろというのか⁈』

『否、何もしなくていい。ただ見ていて欲しい』

『?』


この街は熊族が多く住む街で、今目の前にいるボルクを慕う者ばかりでだ。その熊族が追跡に加わらなければ追手は半減し成功の確率をあげる。だから何もせず見逃して欲しいのだ。暫く考えたボルクは


『分かった。寅人の傍若無人をよく思っていなかった。ここは我ら熊族の街。奴に加担する義務はない。俺はその時動かないと約束しよう』


そして協力に感謝し握手を求めたら拒まれ立ち去るよに言われた。


その熊族の長は祭壇の一番前に陣取っている。彼は体が大きく背は7尺を超え寅人の長より大きい。そんなボルクが最前列にいる為、後ろの獣人達は祭壇の様子が見えない様で険しい顔をしている。


『協力はしないと言ったが、彼なりにできる事をしてくれているのだろう』


思っていたよりいい奴で少し獣人に好意を持つ。

そして兎人の神主が祝詞をあげる為に懐から祝詞が書かれた紙を取り出した。いつ突入しようかと様子を見ていたが、瞬時に今だと思い雅に知らせる為に紙に術を掛け空に放つ。小鳥となった式神は雅の頭上に飛んで行った。小鳥を確認した雅は表情を明るくし空を見上げた。


この場を混乱させる為に昨晩森で見つけた"もくろ"という実をつぶし丸玉を作ってあった。丸玉の中心に火薬を仕込んで有り、衝撃で"もくろ"の実が飛散する。この実は人は臭いと感じる程度だが、嗅覚が発達した獣人には刺激が強く息ができない。この臭いが飛散しているうちに雅を連れ逃げるつもりだ。計画を事前に伝えてあった熊族達は小鳥を見て祭壇から離れ出した。


『協力してくれた獣人達を巻き込むわけにいかない』


熊族が離れたのを確認し手拭いで口と鼻を覆い丸玉を投げつけた。一気10玉ほど投げ辺り一面に強烈な臭いが立ち込め獣人達が涙を流し苦しみ出した。逃げ惑う獣人をよけながら祭壇に近づき気配を消す術をかけ雅に近づく。寅人に長は苦しみながらも雅を腕を掴んでいる。

直ぐに寅人の長の手を払いのけ雅を抱きかかえ、騒然としている中を川に沿って上流を目指し走る。すると


「巫女を奪われた!恐らく人界に向かうはずだ。追え!しかし巫女に危害を加えるな」

「長!姿が…」

「ちっ。神力で目晦ましの術を掛けているのだろう。川沿いに逃げるはずだ。投石しろ」


やっと動けるようになった獣人達が追って来る。義理堅い熊族は静観し動かない。そして無差別に投石してくる獣人達。雅を怪我をさせないため、俺の上着を雅の頭に被せ頭を守る様に言う。そして投石を躱しながら疾走する。幸いにも投石は大きくなく致命傷にはならないが、当たると痛く数ヶ所の骨折は覚悟する。予想以上に目晦ましの術ともくろか効き追手の手は届かない。


「聖!あそこ」


腕の中の雅が指を指した。前方に結界が見えてきた。あと少しと思った時


「行かせん!」


あり得ないスピードで寅人の長が追い付いてきた。他の獣人はまだ俺たちが見えていない。しかし長だけありに匂いを消しをしていない雅の匂いを辿って来たのだ。あと数メートルの所で追いつかれ寅人の長は雅の腕を取った。


「いや!離して!」

「離さん!お前は俺の…」

「あっ!」


寅人の長の手を振り払った勢いで俺の腕から雅が落ちた。


”ばしゃ!”


雅が聖流にお落ち直ぐに川に飛び込んだ。落ちた所は流れは緩やかだが川底は深く、花嫁衣裳を纏った雅は着物が重く川底に沈んでいく。必死に潜り雅の手を掴み、雅を抱え上流にそのまま泳いで行く。


獣人は水浴びはするが泳ぐことは出来ない。この水深では入って来れないよだ。

そのまま結界まで行き境界で水面に浮上し残り少ない神力で結界を破り人界に入った。


「戻ったぞ!直ぐに結界を!」


待機してくれていた親父と義父が直ぐに結界を張り、弟や雅の従姉妹が川から引き上げてくれる。体力の限界の俺の視界の隅に雅が入る。直ぐに駆け寄りたいが体が動かない。

背中を叩かれ水を吐きだし自発呼吸をした雅を確認し俺の意識はここで果てた。




獣界から脱出後3日目に俺は目覚めた。雅は俺の翌日に目を覚ました。意識が戻り一番初めに視界に入ったのが幼い娘の真理まりだった。


「父様?」

「真理…」


娘の笑顔を見て人界に帰って来たのだと実感する。そして医師が来て診察を受けた。体中投石による打撲で痣だらけだったが、骨折等は無く数日安静にすれは治るだろう。


「親父!雅は?」

「…無事だが」

「?」


雅は一時昏睡状態になったが一命を取り止め、別室で眠っているそうだ。すると義父が神妙な顔をして


「落ち着いて聞きなさい。雅は助ける事が出来たがお腹の子は無理だった」

「!」


どうやら冷たい川に落ちお腹の子がもたなかった。神から授かった獣人・妖界との和をもつ啓示を受けた子だったのだ。親父や皆は仕方なかったと慰めてくれるが、後悔と罪悪感に押しつぶされ暫く寝込む事になった。そしてそれは雅も同じで自分の体に宿った神の子を守れなかった罪悪感から弱って行き、獣界脱出後1か月ほどで衰弱し亡くなってしまった。


残された俺は暫く塞ぎ込んだが、幼い娘が甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれ少しずつ正気を取り戻した。目の前の雅に瓜二つの娘を見て、彼女の成長を見届ける事を雅の墓前に誓った。


そして雅が無くなって1年経ったある日異変が起こる。友好的な獣人を連れた若い女が神社を訪ねてきた。そして面会を願われ会う事になった。獣人の男は狼人で人間の女性と恋に落ち将来を誓い合っている。その狼人は


「神官殿にお願いがございます。獣界を助けて頂きた」

『助ける?』


意味の分からない願いに眉を顰めると狼人は項垂れながら現在の獣界の様子を話し出した。唯一の水源であるあの聖流の水が穢れ、獣界は水不足に陥っているそうだ。人界に渡れる獣人が聖流を確認したが、人界の聖流は問題が無く人間はその川から水田に水を引き農作物を作り、家畜にも与えているが全く問題が無いという。


「私が聞いた話では妖界でも同じ事が起こっているそうです。何が起こっているのでしょうか⁈」

「・・・」


思い当る節はある。しかし確信が無く"分からない"と答えこの獣人の話を聞き流した。必死で抑えているが何故か体の震えが止まらない。これ以上訴えても無理だと感じた狼人は人間の娘と夫婦になりたいと話し、うちの神社で祝言を挙げたいと願ってきた。結界を越えれるこの狼人は人に悪意は無く、人間の娘とも仲睦まじく二人の願いを受ける事をした。そして2人ははお礼を言い帰っていった。


『妖界と獣界の水が汚染されている?』


狼人の話では古くからある井戸と貯めた雨水で飢えをしのぐが限界が近いそうだ。人界の結界を渡れる獣人や妖は次々に人界に渡っている。嫌な予感をしながらその日を終え床に着いた。すると久しぶりに夢を見た。夢に雅が現れ腕には赤子を抱いている。そして


『この子がずっと冷たい川底で泣いている。この子を悲しみを癒せるのは私の血を引く巫女だけ。その巫女が心から獣人と妖を愛し、その間にこの子の生まれ代わりができた時、水は浄化されるでしょう。でも私はこの子も失うきっかけをつくった獣人と妖は許さない』

「雅…恨んでいてはお前もその子も神の所へ行けないぞ」

『獣人と妖が変わるなら…』

「待ってくれ雅!俺も連れて行ってくれ!」


雅と子に手を伸ばした時に目が覚めた。起き上がりふと枕を見ると涙で濡れていた。これ以降雅は夢に出てはくれなかった。

そして獣人と妖界の汚染は進み、住めなくなった獣人と妖は正式に人に和解を求め人界で共存する事になる。


 


「そんな歴史があっただなんて…」

「こんな話教科書に書ける訳ないだろう?」


おばあちゃんとそう言い悲しそうに笑った。そしてこの昔話には続きがあると言い教えてくれた。

雅の娘の真理が神社を受け継ぎ結界を守り雅と赤子の供養をした。そして真理が夫を迎え子を産んだが、その子も女の子でそれからウチの血筋は女の子しか生まれていない。


「ウチの歴史は分かったわ。じゃあ何で獣人と妖に付きまとわれ求婚されることになったの?」

「それはね…」


重く辛い昔話は終わりやっと本題に入れそうだ。早く何故獣人と妖に恋われているか知りたい。

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