6.祖先
神バイトを辞め?急に暇になったけど…
翌日バイトを辞めてやる事が無くなってしまった。部屋でスマホを見ていたらメッセージが届く。ピザ屋のバイト仲間の美紅からだ。
忘れ物を預かっているから渡したいと…
『火曜に行くからその時でいいよ』
『火曜じゃ遅いの!最寄り駅にいるから来て!』
『分かった。30分待って』
『ありがとう』
ありがとう?まっいいや。暇だし駅前の本屋でも行こうかなぁ…。学校の休みの時はほぼバイト入れてたから、急に休みになると何していいかわからん!
身支度して歩いて駅に向かう。駅前に来て黒塗りの高級車が目に入り足が止まる。
『まさかね…』
でも胸騒ぎがして駅前が見えるビルの影に隠れて美紅に電話する。駅前には見る限り美紅はいない。
「近くに来たけど何処?」
『駅前にいるよ〜』
「えっと…交差点向かいのコンビニいるから来て」
『…了解。待ってて』
あの車が若様じゃ無いかもしれない。でも用心に越したことはないよね!
コンビニに入りスィーツの棚で新商品を見ながら美紅を待っていると…
「お待たせ!これでOKですか?」
「ご協力ありがとうございました」
「いえいえ!約束は守って下さいね」
『へ?』
振り返ると美紅と若様が立っている。
美紅は「伽奈ゴメンね〜」と軽く言って出て行った。
『何が起きているの?』
目の前の若様を見ながら必死で考える私。取りあえず逃げよう。理由は分からないが若様を見ると逃げたくなる。
無言で回れ右をして後ろから脱出を図るが…流石警備警護のプロ!背後には黒服の別の屈強な男性が通路に立ち塞がっている。つまり挟み撃ちにあっていて逃げ場がない。絶体絶命どうする私…。
若様が危険な人物では無いのは分かっているが何故か逃げたくなる。若様が無言でゆっくり歩み寄ってきた時
『このお守りが伽奈を護ってくれるから危ない時とはピアスの石を2回強く押しなさい。効果はあまり長くないからね』
先日の“ピアス未着用”でこっぴどくおばあちゃんに叱られた時に、おばあちゃんがそんな事を言っていたのを思い出した。そんな魔法みたいな事があるのか分からないが、藁にもすがる思いでピアスを2回強く押す。すると…
「「!!」」
手を伸ばし私を掴もうとしていた若様がキョロキョロしだした。
「若!あの女性は⁈」
「分からん。今まで目の前にいたのに!」
『へ?目の前にいるのに見えてないの?』
若様と黒服は私が見えていない様だ。ラノベの様な展開に私自身が驚いている。
『あまり長く無いからね』おばあちゃんの言葉を思い出し、意味の分からないこの現象が続いている間に脱出を試みる。柄の大きい2人に当たらない様に慎重に横をすり抜けコンビニの自動ドアを出て後ろを振り返る。
コンビニってのは自動ドアが開くと音楽が流れる所が多く、ここもそうで音楽が流れると若様と黒服が入口を見た。
『まだ見えてない様だけど店を出たのがバレた!』
急いで店の外へ!店を出て駅の方へ行こうとしたら目の前が濃紺に染まる。そして何かに拘束された。見上げるとオーナーが私を抱え込んでいる。
「探しましたよ稀衣さん」
「!」
明確な理由が無いのにピンチだと私の本能が告げている。取りあえず逃げよう!
「オーナー!離して下さい。私一応女性です。抱き付くのはセクハラいや痴漢行為ですよ!」
「痴漢⁈」
オーナーの腕が緩んだ隙に脱兎のごとく走り逃げようとしたら、次は目の前がダークグレーに染まり見上げたら若様がいる。もう目眩し効果は切れている様だ。
「鬼頭お前も見つけていたのか」
「えぇ…まだ確信はないですがね」
何故か昨日までの平凡な日々が終わったと感じ漠然と不安になって来た。
私が落ち込んでいる間に若様とオーナー示し合わせ2人に近くの喫茶店に拉致られる。
どうやらお金て喫茶店を貸切にしてしまった様だ。この喫茶店は個人が経営する小さいお店で、常連が通い一見さんが入りずらい雰囲気のお店だ。
獣人と妖が来店し上に圧力をかけられ、貸切にさせられた人間の老夫婦が怯えているのが分かる。
『私は拷問に近いんですけど…』
一番奥のボックス席に座らされ向かいにオーナーと若様。入口と奥のトイレ前には部下の方がいて逃げれない。
溜息を吐いて向かいに座り2人を見る。恐らく今現在で地位、容姿、能力の最高峰が2人だ。超優良物件でまだパートナーがいない女子は鼻血ものだろう。私は只々恐怖しか感じない…
彼らに立ち向かえるスーパーマンが現れてくれないかと現実逃避をしていた。
暫くすると震える手で店主がコーヒーを運んでくれる。何故か私にはケーキが…
オーナーは微笑みケーキを勧めて来る。
ケーキに罪はなく食べるが味が全くしないです。2人はケーキを食べる私をずっと見ていて探られているようで居心地悪く沈黙に耐えかねて
「お二方が何故私みたいな小娘になんの用ですか⁈」
すると若様が
「伽奈さんピアスを外してもらえませんか?」
「拒否します。祖母からお守りだから外さないように言われていますから」
「稀衣さん。外してもらえば我々が捜している人物か分かるんです。もしかしたら我々の勘違いかもしれない。そうであれば謝罪し今後接触はしませんから」
「・・・」
この2人の探している人は同じ人なの?もし探している人が私ならどうなるの気なの?
『怖い…でもこのままだとずっと付きまとわれる。ピアスを外してサクッと別人認定してもらった方が私の平穏な生活が戻ってくるかも』
黙り込む私を2人は優しい眼差し?いや期待しているのが見て取れる。その眼差しが普通じゃない事に気付いていれば、私は穏やかな生活に戻れていたかもしれない。後々に後悔する事になるなんて、この時は思ってもなかったのだ。無実を示す為だからおばあちゃんいいよね…
無言でピアスを片方外す・・・と
頬を染め2人は同時に立ち上がった。
「ひっ!」
恐怖で仰け反り涙が出て来た。
“ガシッ!”2人は私の手を取り
「「貴女こそ私の花嫁だ!」」
「はぁ⁈」
若様とオーナーのお付きの男性が興奮気味に何処かに連絡している。
「寝ぼけるのは家でして下さい。私は“DNAマッチング”で該当者ゼロと結果が出ているからそんな訳ないでしょ!私の事からかっているんですか!悪趣味な!」
2人の手を振り払いピアスを着け直して席を立ち帰ろうとしたが、2人は目の前にきて跪いて
「貴女はご自分が何者かお知りにならない様だ。説明させていただきたい」
困っていると貸切なのに店の入口が開いた。そしてそこには…
「おばあちゃん!」
「はぁ…やはりどんな対策しても運命には逆らえないんだね…お二方。私は伽奈の祖母です。この子には何も知らせていないのよ。説明するから時間をくれませんか?」
「おばあちゃん?何でここに?」
「この喫茶店の富美ちゃんとは散歩友達でね。伽奈が獣人と妖と店に来て様子がおかしいと連絡をくれたのよ」
「ごめんなさい。ピアスを外すなって言われていたのに…」
「仕方ないよ。この人たちは何をやっても嗅ぎつけてくるのは何代も前からずっとだからね。近い内にこうなると思っていたわ。さぁ!詳しくは家で話そうね」
「「是非私達も同席を」」
「断ります!今日は大人しく帰りなさい」
誰に対しても丁寧で優しいおばあちゃんの超塩対応に、オーナーも若様も口を噤み押し黙る。おばあちゃんは私の手を引き喫茶店を出たら…
凄い数の高級外車が停まっていて黒服集団が大勢いて恐怖を感じる。おばあちゃんは気にもせず黒服を押し退け歩いて行くと
「綾子さん。相変わらずお綺麗だ…」
「ちぃっ!」
「おっおばあちゃん⁈」
優しく品の良いおばあちゃんが舌打ちした!
黒服軍団よりおばあちゃんが衝撃たった私。
全く状況が分からない私を優しい目で見る老紳士。紹介されなくても虎人の先代当主だと分かった。瞳が若様と同じで綺麗な琥珀色をしている。おばあちゃんの事名前呼びしていたと言う事は知り合いなの?
「彪。綾子さんを困らせるんじゃないよ」
また新しい登場人物が…
声のする方を見たら真っ赤な瞳が印象的なこれまた老紳士が濃紺スーツにステッキを持ち立っていた。この人も誰か分かる。鬼族の前当主だろう。2人共ダンディなイケジジで若かりし頃はモテたのが分かる。
2人ともおばあちゃんを好きだったの?熱のこもった視線を送っている。
「もう子も宿せないおばあちゃんにまだ執着するの⁈もう解放して欲して。あといい加減ウチの監視もやめなさい」
「私が愛するのは生涯綾子さんだげだよ。旦那が居ない今、私の元にいつ来てくれるかとずっと待っているんだよ」
「綾子さん俺はもう隠居の身だから俺が綾子さんの元に行ってもいいよ」
何この状況?老紳士達が孫達の前で思いっきりウチのおばあちゃんを口説いてるし!
口説かれいるおばあちゃんはもう能面の様に表情無いし。とりあえず帰りたい私はおばあちゃんの袖を引っ張り帰りたいアピールをした。察したおばあちゃんは前当主をあしらいどんどん歩いていく。
やっと家に着いたらお昼を回っていてふと気付く。遠まきについて来た獣人と妖は途中からいなくなった。てっきりおばあちゃんが上手く撒いたんだと思っていたら
「家はご先祖様の護りがあるから奴らは近付けない無いのよ」
「知らなかった…」
困惑する私におばあちゃんは頭を撫でながら、全て話すが安心しなさいという。
いや安心ではなく恐怖しかない。
家に着くとお店の入口に貼紙がされていよく見ると
“臨時休業のお知らせ”が貼ってある。何か大事になってるし…
家に入ると父さんと母さんが駆け寄り抱きつき心配していて反省。
居間に家族全員集合しお母さんがお茶を入れてくれる。
お茶を飲み一息つくとおばあちゃんが我が家の歴史を話し出す。
「うちは遥か昔神主の家系で人間ながら神通力があったそうよ。獣人と妖が人間界に共存する事になった経緯は学校で習ったのね」
「うん」
「原因不明の天変地異と言われているが、違うんだよ」
「「!!」」
何故かお父さんも驚いている。どうやら神主の家系は母方の話で、お父さんも初耳らしい。いつも陽気なお母さんの表情は固い。
厄介な話であるのは間違いなさそうだ。
「今は友好的な獣人と妖だけど昔は自然豊かな人界を欲し、何度も人界に攻めて来た歴史があるんだよ」
「そんな話は歴史で習わなかったよ!」
「ある事件以降は友好的だから一般人には秘匿にされて来たの」
するとおばあちゃんは立ち上がり自分の部屋に行き、暫くすると大きな桐箱を持ち戻ってきた。箱を開けるとかなり古い書物と壺が入っている。おばあちゃんは一番上の書物を取り、読み出した。
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遥か昔は獣人、妖、人間はそれぞれ別の世界で生活していた。しかし獣人と妖界は人界に比べ狭い上に資源も乏しく、獣人と妖は隙あらば人界に侵略しようとしていた。
人は能力の優れている獣人や妖に攻められれば勝てるわけもなく、神通力のある神主や巫女が境界に結界を張り防いでいた。
この結界は邪な想いがある者を通さず、ほんの一部の人に好意を持つ獣人や妖は結界を通れ、あまり知られていないが種族を超え愛し合い混血児も生まれていたそうだ。
人は結界を強化する為に神通力のある者同士の縁を勧め、力の強い神社の後継息子と娘を結婚させた。男は聖、女は雅と言い2人は一人で結界が張れる程の実力者だったそうだ。所謂政略結婚だったが2人は仲睦まじく、深く愛し合い直ぐに女児を授かった。
結界も守られて平穏が続いていたある日。脆弱な結界を破られ雅が獣人に連れ去れる事件が発生。獣人界との境は獣人達が蠢き侵入出来ず困っていた。数日後に救出に行けず苛立っていた俺に顔見知りの女性が近づきこう言った。
「妖界と獣人界の結界で脆弱な所があり、妖力の強い鬼の助けを借りれば獣人界に行けるようです。私は妖に伝がありますから協力しましょう」
「礼はいくらでも払う。頼んで欲しい!」
藁にもすがる思いで神主である立場でありながら俺は妻の救出を優先した。何故ここまで雅に執着したかというと、雅は第二子を身籠もっていたからだ。
身籠った子は神の啓示をうけた男児で人界の護りになる子だった。
そして協力者の女性は妖界の境界近くに案内した。そこは結界が弱くなっており、そこから美しい漆黒の髪に燃えるような赤い瞳をした美女が現れる。
その女性は環と言い、鬼族当主の娘だった。はじめ聖は警戒したが妖とは思えない程温和で謙虚で優しい印象の女性だった。慌てて同伴した神社の者に俺が渡った後に結界を強化する様に伝え鬼の女に向き合う。
「その女から話は聞いた。我ら妖も幾度となく獣人の侵入を受けて迷惑しておる。傍若無人な獣人には腹を立てておる故、其方に力を貸そう。早く番を助けたいだろうが、獣人は勘が鋭い故に慎重に事を運ばねばならない。私の配下の者が準備する間、我が別宅で待機して欲しい」
「ありがとう…感謝する」
こうして環が所有する別宅で獣人界に渡れる日を待っていた。しかし中々準備は進まず10日が経っていた。同じ時を過ごせば妖であっても心を通わすもので、環とは冗談を言い友人関係を築いていた。
そんなある日。俺は計画の進行具合をを聞きたく、環の部屋に向かうと側近と環は話し中。出直そうとした時にとんでもない話が耳に入って来た。
「聖は打ち解けて信頼してくれている。例の媚薬の準備は出来ておるか?」
「はい。一番強力な物を…ただ効きすぎる可能性があり、お嬢のお身が心配でございます」
「妾は鬼ぞよ。人の閨事如き大した事は無い」
「いつ盛りましょうか?」
「最近少し疑いかけている故、獣人境界に視察に連れて行き安心させその夜に」
「畏まりした」
『・・・なんて事だ。俺は騙されている!』
驚愕し自室に戻り愕然とする。全く状況が分からず必死で考える。
何故俺に薬を盛り交わる必要があるのだ。幾ら俺に神通力があっても能力的には環の方が上だ。頭を抱えていたら環を紹介した女性がやって来た。どうやら明日人界へ帰るらしく挨拶に来たようだ。全貌を知るにはこの者に聞くしか無く、彼女を部屋に招き入れる。
「私は予定通り明日人界へ戻ります。大丈夫ですわ!環様が雅様の救出の手助けをして下さりますわ」
「ありがとう。別れに握手を…」
「はい」
手を出した女性の手を捻り押さえつけた。
「つっ!聖様何を!」
「環の思惑はなんだ!全て話せ!話するならば命までは取らん。もし黙秘するならこの場で…」
「痛い!やめて下さい!神に仕える貴方がそんな事」
「出来ないと思うのか?愛する妻や子がおるのに、妖などに交わるくらいなら天罰を受けた方がマシだ!」
「ひっ!痛い!全て話すから助けて!」
この後女から環の計画を聞き唖然とする。
そして環の策を逆手に取り結界を緩め獣人界への潜入を画策する。
女には人界へ帰った後に、雅の両親とうちの両親に連絡し、ある場所に結界を張れる者を待機してもらう旨を伝言させた。
明日に備えて早めに床に入り何度もシュミレーションする。
『やっぱりかなり厳しい』
帰れない事もあり得る。覚悟を決め眠れそうもないが無理矢理目を瞑った。
『愛しい人…無事でいてくれ…』
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