5.待ち伏せ
“若様のご乱心”が気になったが、テスト勉強に集中し。
いつも温厚なおばあちゃんの激ギレにまだ動揺している。思い返せばおばあちゃんに怒られた記憶はほぼ無い。お守り程度のピアスに何故にあそこまで怒ったのだろう。今日のおばあちゃんと虎谷の若様が意味不明!
「悩んでる場合では無いわ!明日は日本史で暗記ばっかじゃん!一夜漬けで覚えないと!」
机に向かい教科書を開く。明日のテストは午前中に終わるからお店のランチを食べさせてもらおっと!そんな事を考えながら勉強していたら深夜0時になった。推しのアーチストのラジオを聴きながら後もう少し勉強し休んだ。
「はぁ…ヤマが外れた…惨敗…」
あまりの出来なさに落ち込みながら帰り支度をしていたら廊下が騒がしいのに気付く。するとクラス一番の陽キャの鈴葉が駆け込んで来た。
「虎人の若様が正門に来てる〜ヤバくなぃ?」
「うっそ〜!見に行く!」
クラスの殆どの女子が走って行ってしまい取り残される私。仲のいい男子に行かなくていいのかと聞かれ、用事あるからと言い誤魔化した。バイト命の私だから皆んな信じてくれる。
『なんで若様が?マッチング上位者がこの学校に居たの?いや!そうなら相手の子が自慢してるいはずだ』
昨晩の事を思い出し嫌な予感がして、このまま帰るのに危険を感じこっそり裏門からから出た。
『良かった…裏には人がいないわ』
警戒しながら迂回を繰り返しやっと家に着いた。父さんにはランチ食べたいと言ってあったから、特製ランチを用意してくれていた。今日は海老カツとミンチカツのプレートだ。
「父さんの料理は最高!」
「だろ⁈特別にプリンもつけよう!」
「やり!」
「明日も試験だろ⁈食べたら勉強しな」
「はぁーい!」
ランチに気分良くなり勉強が捗り若様の事なんてまるっと忘れて早めに就寝した。
「今日のテストは今年一良く解けた!最高点が出るかも!」
テストの出来が良く機嫌良くしていたら、奇声と共にまた鈴葉が教室に駆け込んできた。
「今日も若様の車停まってるよ!」
「マジ!若様誰を狙ってるの⁈」
また盛り上がる女子を横目に裏門に向かう…
いつもは人が居ないのに何故か女子が沢山いる。頭の中で警報音が鳴り響き…
仕方ない緊急措置だ!一部の子しか知らない抜け穴から出る。この抜け穴は歴代のバイト族がこっそり植木に隠れたフェンスに切り穴を開け作った秘密の抜け道だ。ここから出れば隣の公民館の敷地に出て、公民館の裏から大通りに出れる秘密の抜け穴だ。
『今日はこのルートで躱そう。穴を作り守ってくれた先輩方に感謝!』
上手く学校から脱出し今日も無事に若様に遭遇せずに帰る事が出来た。意味不明な若様出没は結局金曜まで続き、偉大な先輩方の脱出ルートを駆使し帰った。
誰の出待ちか分からない。でも接触して来ないから多分私では無い…はずだ…違って欲しい!そう願いながら週末まで若様を避け続けた。
やっと金曜日になりどっと疲れた。殆ど知っている人がいない難易度の高い抜け穴から出てダッシュで家に帰ると、猛烈に眠くなっので早いが休む事にした。
「伽奈!あんた今日バイトでしょう!」
「ゔ…んお…きるから」
今週は気疲れし疲れている。でもバイトは休めないから行かないと…
用意をしてバイトに向かう。
「おはようございます…」
「伽奈ちゃん顔色悪っ!大丈夫なの?」
水川さんが心配そうに額に手を当て心配してくれる。大丈夫だと伝えて準備をする。
着ぐるみを装着し気合を入れるために両手で頭を叩く。
朝一出動し控室に戻ると暗い顔の角田さんが来て、今日はオーナーか来るとテンション低めに話す。ここ最近来なかったから油断していた。
聞けるものなら聞いてみたい『何しに来るの⁈』って!
しかしそんな事を聞ける訳もない。いつも通りパレードに顔を出して帰るんだろうと油断していたのだ。ノックもせずにオーナーが控室に入って来た。次まで時間があり油断していて上半身着ぐるみを脱いでキャミ姿でソファーにの転がっていた私。
「「あっ!」」
入ってきたオーナーと目が合い固まる。数秒後に慌てて着ぐるみを着てソファーに座り直す。オーナーは唖然としていたが、頬をそめて近づいて来た時!
出動の時間になり水川さんが迎えに来た。
「伽奈ちゃん時間…えっ?オーナー⁈」
「はい!水川さん出動しましょう!オーナー失礼します!」
オーナーの横をすり抜けて控室を後にした。園に出るまで急に来たオーナーの愚痴を水川さんにする。すると驚く事を言う
「オーナーは初めから伽奈ちゃんの事を気に入ってだもんね」
「はぁ?嘘でしょ!マジ勘弁」
「角田さんに聞いたけどオーナーは基本他人に無関心。それなのにやたらに伽奈ちゃんに絡むから珍しいって言ってたわよ」
「自分が企画したゆるキャラに必要な人材だからでしょ⁉︎とりあえず関わりたく無いです」
「オーナーはまだ婚約者いないらしいわよ」
「水川さん…マジ勘弁…」
扉を開けて園内に入りお仕事。今日は子供よりカップルが多い?私より大きい女性と彼氏が来てバグを求められて両手を広げて許可し、彼女にハグされ次に彼氏がハグしようとしたら…
「失礼致します」
「はぁ?」
例のオーナーが来て背後から引っ張られ連行される。付き添いの水川さんが焦りカップルに謝っている。オーナーに私が何か不具合や粗相したのか聞くが無言で事務所に連行された。無線で連絡を受けた角田さんが慌てて帰ってきたが、オーナーは無言で私を見ている。
『今まで通り仕事していただけじゃん!意味不明!』
溜息を吐いてオーナーは私に着ぐるみを脱ぐように指示して来た。不貞腐れながら着替えるので外に出て欲しいと言い、角田さんとオーナーを控室から追い出す。水川さんが青い顔をして着替えを手伝ってくれる。水川さんは人魚族で妖の中では妖力は弱く鬼族が怖い様だ。着替え終えたらオーナーと青い顔をした角田さんか入ってくる。全く意味不明だが解雇通知を覚悟する。
いきなり解雇だから1ヶ月分の給料はもらいますからね(怒)
『はぁ…神バイトだったのに…またピザ屋週5は入れるかなぁ…』
オーナーを見据えるとまた残念なイケメンになっているオーナー。目が点で情けない顔だけど、元がいいからかっこよく見える。
オーナーが何も言わないから沈黙が続き、角田さんも水川さんの顔色がとうとう無くなってしまった。
『もぅ!いいや帰っちゃえ!』
無言で立ち上がり荷物を持ち扉に向かうと、やっと起動したオーナーが
「稀衣さん。貴女は何者なんだ⁈」
「普通の人間で女です。それ以上でも以下でもありません。理由は分かりませんが、解雇なら告知なしなので1ヶ月分の賃金をお願いします」
オーナーと私の間であたふたする角田さんと水川さんにお辞儀をして扉から出て従業員通用口を目指す。すると水川さんが追いかけて来て
「伽奈ちゃん。何かの間違いだから!角田さんがオーナーに話してくれるから!また連絡するわ」
「ありがとうございました。でもいいんです。皆さんお元気で」
別れを言い遊園地を後にした。
家に帰ると早い帰宅に驚いている家族。難しい顔をしたおばあちゃんは私を抱きしめ背中を摩ってくれる。
家に帰ったら安心したのか猛烈にお腹が空いて来た。ランチが残っていて追加でアイスを出してくれる父さん。
家族の優しさにほっこりして落ち着いて来た。ご飯を食べ終わりおばあちゃんに今日あった事を話すと、おばあちゃんの表情が険しくなる。
「伽奈ちゃん。バイト辞めて正解よ。ウチの家系は獣人や妖と縁が無いから、あまり関わらない方がいいわ。おばあちゃん初めから鬼族の所と知っていたら止めたわ」
「?」
どうやらおばあちゃんはお母さんから遊園地でバイトとしか聞いていなかったそうだ。
ウチの家族は獣人や妖に苦手意識が強い。特におばあちゃんが…それについて少し気になったが今傷心の私は考えたくも無く、部屋で不貞寝する事にした。
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