3.接近 - 妖
遊園地のバイト初日。さぁ⁉︎稼ぐぞ!
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「おはよう!良かった来てくれて!」
角田さんの安堵感が半端ない。後でスタッフの水川さんに聞いたが、今日着ぐるみデビューを見るためにオーナーが来るそうだ。
「聞いてません!」
「私もさっき聞いて驚いたのよ!どうやら角田さんがスタッフが緊張しないように、内緒にしていたらしいの」
「ヤバいですね…っでオーナーってどんな人何ですか⁈」
「知らないの?」
オーナーは超有名人で名前だけは知ってはいたが、まさか実物を見れる日が来るなんて思っても無かった。
そう!オーナーは鬼頭柊という妖の中で一番の力を持つ鬼一族の次期当主だ。年齢は1歳年上の18歳。優秀で高校生に通いながら国立大学にも通い、グループ会社の役員も務めるスーパーマンだ。
水川さんと雑談していたら廊下が騒がしくなってきた。すると前触れもなく会議室の扉が開き、扉から背の高い男性が入ってくる。
紹介されなくても分かる。この男性がオーナーだ。
漆黒の長髪にルビーの様な瞳が印象的で、目鼻立ちがはっきりとした美形。非の打ちどころが無く人工物の様だ。
オーナーは真っ直ぐ私の前に来た。お辞儀をして挨拶しようとしたら、いきなり抱きしめられ声も出ず硬直してしまう。
『くそ!男前はいい匂いがするし、服の上からでも分かる細マッチョ!』
「そう!このサイズ感!ばっちりだ」
「はぁ?」
見上げるとオーナーと目が合った。あまりにも綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
やばい!抗おう!
「挨拶もなくいきなり女性に抱き付くのは失礼です!離して下さい!」
「おっと失礼した」
やっと解放されると角田さんの顔色が悪い。しかし私は間違ったことは言っていないから!
オーナーが角田さんに私の紹介を促し、角田さんから正式に紹介をしてもらう。そして
「今日から着ぐるみスタッフとして働く稀衣伽奈です。よろしくお願いします」
「頑張って下さい」
手を差し出すオーナー。握手?
一応手を出すと握手してくれる…が手がめっちゃ冷たい。オーナーちゃんと生きてます⁈
驚いていたらオーナーは角田さんに
「よくこのサイズを見つけたな。正直無理だと思っていたよ。皆に感謝する」
『何“このサイズ”って!何か失礼だなぁ…』
少しイラつき睨んでしまうと途端に角田さんが焦りだす。そんな様子も気にせず言いたい事を言うオーナー。
私の頭を撫でて優しい眼差しで
「子供と同じ目線の方が子供は親近感を持つ。働きやすい環境を約束するので長く勤めて欲しい」
「あっ…はい」
そう言いオーナーは出て行った。
準備の為に会議室からゆるキャラ用の控室に移動。私専用に用意された控室は広くトイレ・シャワールームも完備され、ソファーに冷蔵庫そして冷暖房も完備され至れり尽くせりだ。
角田さんと男性はスタッフは外で待ち、女性スタッフが手伝ってくれ着ぐるみを着る。
足から順番に着ていき、後は頭となった段階でピアスを取り化粧ポーチになおす。そして頭を被り完了だ!
「伽奈さん可愛いわ!」
「ありがとう?なんか複雑な気分だよ」
着ぐるみ姿がかわいいはあまり嬉しくない。
こうしてゆるキャラに変身し、スタッフの2人と園内に出動する。
どうやら今日はゆるキャラお披露目が告知され園内は混んでいた。スタッフの誘導で園内を歩き子供に愛想を振りまく。少し慣れてきたら幼児が走ってきて抱き付いたのでハグしてあげる。
親はスマホで連写しまくり皆んな喜んでくれ少し楽しくなって来た。しかしまだ暑い季節ではないがやはり着ぐるみの中は少し暑い。順調に園内を歩いて周り一旦控室に戻り頭と上半身だけ脱いで休む。
『案外楽勝かも…』
園が用意してくれたスポーツ飲料を飲みスマホをイジりながら休憩。1時間してまた出動する。これを繰り返し夜のパレードの時間来てスタート地点に移動し約1時間歩く。心配したが案外平気だった。
『なんせ若いからねー』
ふと見るとパレードの列の最後尾にオーナーがいる。初日だから?
パレードではスタッフでは無くダンサーが付き添ってくれる。スタートして少し経つと横に踊りながら付き添うダンサーが肩を組んで小さい声で
「伽奈ちゃん。あれ見てオーナーおかしくない?」
「なんか残念なイケメンになってますね」
少し離れてついてくるオーナーはキョロキョロし何かを探している様だ。同伴する角田さんやボディーガードが困惑しているが分かる。オーナーは意味不明だったがパレードば大盛況で終着地の広場に着いた。そこでオーナーからゆるキャラの名前を一般募集する事が発表された。採用された人には家族全員に年パスが送られるそうだ。
「皆さん挙って応募下さい!」
とオーナーの発言に合わせ愛嬌を振りまき、手でハートを作ってみた。子供からかわいいの声が上がりお披露目は大成功で終えた。
直ぐに控室に戻り着ぐるみを脱いで汗をかいたので直ぐにシャワーを浴びて帰り支度をしソファーで休んでいたら誰か来た。返事をするとオーナーと角田さんだった。
立ち上がりご挨拶するとまた許可なく抱き付くオーナー
『あんたは外国人か!』
さっきまでの残念なイケメンでは無く、キラキラのイケメンに戻っている。
「評判が良く帰るお客は応募の投票箱に殺到していたよ。貴女にお願いしてよかった!これからも頼みます」
「はぃ…それはちゃんとやりますが、とりあえず離して下さい!ちぃちゃくても一応女子です」
「すまない!可愛くて…このサイズ感が」
「…帰ります」
オーナーの相手を角田さんに任せて上がることにした。帰り水川さんに会うと労ってくれる。今日は初日だったから偉いさんがきたが、明日からは通常になるから大丈夫だと教えてくれた。その言葉に安心して遊園地を後にした。
今日の稼ぎは初日で少し長かったから26,000円也!へへ!
遊園地バイト2、3日目も無事?(結局意味不明なオーナーが両日来たが無事)終わり、火曜の学校帰りにピザ屋のバイトに向かう。
着替えてキッチンに向かうと主婦のパートの皆さんが上がり、夕方からは学生とフリーターが中心に入る。先に入っていた皆んなが何か話をしている。
「おはようございます。何話してるんですか?」
「伽奈ちゃん。久しぶり!それがね…」
「へぇ〜」
先週ドタバタ注文だった警備会社から毎日同じ時間にSサイズピザのオーダーが入っているそうだ。配達に行った人の話では必ずあの若様ご直々に受け取るらしく謎になっている。
「なんでしょうね⁈うちのピザを気に入ったんですかね?」
「分からないんだよ。ただ…」
「?」
「あれからチップはくれないらしい」
「あはは…」
今日もオーダーが入るのか皆んなが賭けをしている。私はそろそろ飽きる頃だと思うんだけどな…
WEB注文を見ていた真澄ちゃんが
「はぁい!若様入りましたよー」
「やった!」「うゎぁ負けた!」
今日もまたSサイズ1枚だ。何なんだろ?
いつも通り作り配達担当の誠治さんが配達に向かった。
暫くして戻ってきた誠治さんは開口一番に
「先週の若様がした大量注文の時の配達って誰?」
「え?春樹と伽奈と和田さんだよ!なんで?」
誠治さんの話にクレームが出てたのかとビビる。すると誠治さんが
「噂の若様がさ”先週の女性は配達担当では無いんですか”って。それでよ”配達は基本男の担当であの日は恐らく注文枚数が多く急遽ヘルプについていたと思う”と伝えたんだ。伽奈お前何やらかしたんだ?」
「何もしてないよ!和田さんにも怒られなかったし!」
「「「「「ゔ…ん」」」」」
スタッフ皆んなが謎に包まれる。ハイソな人の思考は一般人には理解出来ないのである。
変な空気に包まれたが、一本の注文電話が皆んなを日常に戻してくれ皆んな一斉に作業にかかる。こうしてこの日は通常通りバイトを終え帰った。
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