23.戻りたい
新たな間者にまた秘密通路から帰る事になり…
「やっぱりここから帰る様に指示があったのね」
「…。先生は味方?それとも若様の差し金どっちですか?」
私を取り巻く状況に嫌気がさしてきて、思わず熊川先生を問い詰めた。すると優しい先生モードで
「私は誰の味方でも敵でもないの。強いて言えば熊族の悲願の為かなぁ…」
「熊族の悲願?」
先生は人で旦那さんが熊族の直系だと聞いている。それなら他の獣人と同じ様に巫女である私と若様が結ばれる事を望んでいるんじゃないの? そう思っていたら先生は微笑み私の手を取り近くのベンチに腰掛けた。そして熊族が獣人の中で寅族と昔から意見が合わず関係が良くない事。そして寅族以上に獣人界の浄化を望んでいる事を話した。
「熊族は昔から神に与えられた獣人界で平穏に暮らす事を望んでいて、他の獣人が人間界の土地を欲した時も反対を続けていた一族なの。あの事件が起こった時も神官の手助けをしたのも、寅族のやり方が気に入らなかったからだと聞いているわ」
先生はそう言い故郷に戻りたい熊族の役に立ちたいのだと話した。そして獣人界と妖界の穢れの浄化がされなければ、稀衣家が永遠に結界を張り続けなければならないと話し、そんな事が未来永劫続けられる保証無いと言った。
『確かにウチの血筋が優れた能力があったとしても、獣人・妖界の穢れが強くなれば結界で抑えられなくなる日も来るかもしれない。もし穢れが結界から溢れてしまったら…生物は生存できなくなるかもしれない』
考えた事も無かったが有り得ない話ではない。熊川先生にそう言われ怖くなってきた。おばあちゃんは私には大きな力があると言ったけど、それほどでも無かったらどうなってしまうの? 結界が壊れて穢れが人間界も汚染してしまうのだろうか…
黙り込んだ私の手を握り熊川先生は落ち着いた声で…
「熊族は争いを好まないの。稀衣家は警戒をしているけど信用して欲しい。貴女の祖母の代では無理だろうけど、貴女なら熊族の当主の話を聞けばきっと分かってくれると思うわ」
「それって熊族の当主と会えって事?」
そう言うと先生は直ぐにと言わないが、近いうちに会って欲しいと願った。先生は誰に対しても平等で優しい。信頼できる大人だ。だから信じたと思うが私一人で決めていい事ではない。考え込んだら
「いきなり当主に会えって言われれば警戒するのも当たり前だわ。だから今度ウチに遊びに来て。まずは主人の話を聞いて欲しいわ」
「時間を下さい。まだ困惑しているから」
そう言うと先生は慌てなくていいと言い、頭を撫でて校舎に戻って行った。大きな溜息を吐きポケットでずっと震えているスマホを取り出し確認すると、隼人とおばあちゃんから着信のラッシュが。慌てて秘密通路の扉を開け通路を歩いていると、向かいから誰かが走ってくる。ここはウチの関係者しか知らないから大丈夫だと思っても少し警戒していると
「何やってんだバカ!」
「バカって…」
走って来たのは隼人で薄暗くても額に汗が滲んでいるのが分かる。心配をかけているのが分かっているかっら、バカと言われて腹が立ったが黙っていると、少し屈み視線を合わせ心配そうに
「何があった?」
「熊川先生に呼び止められ、少し話をしていた」
熊川先生と聞き複雑そうな顔をする隼人。その様子から熊族の事を知っている事が分かった。それなら
「隼人は熊族の考えに反対なの?」
「…これは俺が意見して事柄ではない。稀衣家の巫女にしか権限がない」
「でも思う所はあるでしょ」
「…俺は…お前が幸せであればいい」
「へ?」
予想外の返事に固まっていると、誰かが通路を歩いてくるのが見えた。そのシルエットは見覚えがあり…
「おばあちゃん…」
「伽奈帰ろう」
「うん…」
何も聞かないおばあちゃんに手を引かれ家に帰る事になった。家に帰るとそのままおばあちゃんの部屋に直行。てっきり説教が始まるのだと思ったら
「熊族は唯一信頼できる一族よ。でも彼らの考えは安直すぎて話に乗れないわ。もっと皆が安全な方法が有るはず。ずっと模索しているんだけどね。人間だけで出来る事には限界があって、獣人と妖の協力も必要なんだよ。しかし頭である寅族と鬼族があれだからね」
そう言いおばあちゃんは遠い目をした。
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