2.接近 - 獣人
高収入のバイトが見つかり平日のバイトを減らしたが…
遊園地の着ぐるみのスタッフに決まり平日5日入っていたピザ屋のバイトを週2日減らした。これで友達とも遊べ高校生らしい生活が出来そうだ。
自宅に戻り母と父にバイトの話をしたらあまりにも高額に心配された。
しかし鬼頭グループの遊園地だと伝えたら少し安心した様だ。翌日ピザ屋のバイトに入った時に店長が同じ勤務帯だったのでシフトを減らしたいと申し出た。幸い年度かわりで大学生や高校生のバイト希望が多数来ていて問題なく減らしてもらえる事になった。
今月の〆後の21日からは火・木に入る事になり契約変更の書類を渡されサインする。
翌週月曜日に学校行き朝一で結奈にお礼を言うと、婚約者も本家さんに借りが出来て喜んでいたと話していた。
こうして機嫌よく1週間過ごし土曜が来た。今日は手続きの為に遊園地に向かう。実家の原付バイクが空いていたので電車賃を浮かすためにバイクで向かう。
約束時間の5分前に着いた。従業員入口で名前を言うと直ぐに会議室に通され事務員さんがペットボトルのお茶持って来てくれので有難く頂いた。
すると…角田さんとスタッフが3名やって来た。
「!!」
「お待たせしました。まずは書類を先にしましょう」
「あっはい」
書類を目の前に置き説明し始める責任者の角田さん。でも…背後のスタッフが気になって書類どころではない。
「質問はありますか?」
「大丈夫です」
「でしたら来週の3連休からお願いしたいのですが」
「分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ!では後ろがかなり気になっている様なので、入ってもらう着ぐるみを確認してもらいましょう」
角田さんはそう言うと後ろのスタッフを呼んだ。スタッフは私が着る着ぐるみを持って来ているのだ。
クマ?ネコ?よく分からないキャラクターだ。キモ可愛い系のゆるキャラの着ぐるみ。一度着てみて欲しいらしく着用してみる。スタッフさんが補助してくれ着てみるが…
『こわい・・・シンデレラフィットしてる』
私服ですらシンデレラフィットしたことが無いのに、何で着ぐるみがシンデレラフィットするの?
スタッフも驚いて苦笑いしている。
「誰がこの大きさに決めたんですか?」
「新しいオーナーが拘ってお決めになったんですよ。当初は女性の平均身長位の165㎝仕様で製作する予定だったんです。でもオーナーがそれでは可愛くないと言い、オーナーの腕の中にすっぽり入る大きさが可愛いと主張され、角田さんもオーナーの意見を前面に取り入れ作成したら…」
「中に入れる人がいなかったと」
「はい…」
そりゃ私みたいな小人はなかなか居ない。貴重だから時給釣りあげても雇いたい訳だ。妙に納得した。着ぐるみは背丈はフィットしているが身幅はゆとりがある。これなら冬は着込めそうだ。
しかし夏が…
着ぐるみを脱ぎながらため息を吐くと心配した角田さんが不満が無いか聞いてくる。辞められたら困ると顔に書いてある。
「要望や不安な事は何でも言ってくれ。できうる限り改善するから!」必死な角田さん。
「えっと…夏の猛暑にこの着ぐるみに耐えれるのか心配です」
するとスタッフの男性が自信ありげに
「安心して下さい対策済みです。夏場に付き添うスタッフとして雪女と雪男を雇っていて着ぐるみの隙間から冷気を定期的に入れ快適にします」
「はぁ…ありがとうございます」
流石妖だ。雪男、雪女なんて会った事もないよ。冬は寒いから温め要員が居てくれると嬉しいけど、そんな能力の妖なんているのだろうか?
「っつ!」
「どうしたの?」
身幅はゆったりしているけど頭の作りはタイトだ。遠隔操作で目、耳、髭が動くようになっている為に機材が付いていて中の空間が狭い。私の通う高校は校則が緩いのでピアスをあけている。私は人より少し耳が大きくそのピアスが当たり痛い…
そのピアスは祖母から高校進学祝いにもらい、外に出る時はお守りになるから必ず着けるように言われているが…
仕方ない高額バイト代の為だから着ぐるみの時だけ外そう。ピアスを外し着ぐるみを着ると当たらず痛みも無い。これならいけそうだ。
これで働ける状況になった。最後に角田さんとサポートスタッフさんと連絡先を交換しこの日は帰る事になった。何と嬉しい事に今日の交通費を出して貰った!
予想してなかったから嬉しい。こうして私の新たなバイト生活は幸先よくスタートする。
それから数日後の週末金曜。授業も終わりゆっくり帰り支度をしていたらスマホが鳴った。バイト先(ピザ屋)からだ何だろう?もう金曜はシフト入っていないのに。スマホをお手洗いに持っていき出ると、バイトリーダーが悲壮な声で
「休みなのは分かっているけど出て欲しい!一度に大量の注文が入り捌けない!確か原付免許持っていたよな⁈」
「はい」
「作る方は何とかなるからが運ぶのを手伝って欲しい!取りあえずすぐ来て~!!」
いつもシフトを融通してくれるバイトリーダーだから、ここで恩を返さないと!ダッシュで学校を出てバイト先に向かう。
到着するとバイト先は戦場と化していた。皆殺気だっていて怖い。私に気付いたバイトリーダーが予備の制服を渡して着替えてくるように指示。言われるがままに更衣室に飛び込み着替える。着替えてリーダーもとに行くとフルフェイスのヘルメットを渡され同時期に入った大学生の春樹さんと社員の和田さんと3台でLサイズピザ20枚を届ける事になった。
「こんな量なら車の方が…」
「ナビってみたら届け先付近が大渋滞している。車で行くと終わるぞ。バイクなら隙間をすり抜けれるからバイク3台で向かう。俺が先頭になるから後を伽奈で、その後ろを春樹が来い。伽奈は一応女の子だから俺らの間に」
「その発言セクハラですからね!」
冗談言っている暇なく直ぐに出発する。信号待ちの間に社員の和田さんに届先の話を聞くと大手警備会社から急な注文で、初めは断ろうとしたそうだ。大量注文は前日までにするのが決まりで、急な注文は本社から断っていいと言われている。店長が断ろうとしたら・・・
「結局お金ですか…」
「そうなんだ。通常の倍払うと言われ店長が受けてしまったんだよ」
「何か嫌だわ…お金で物言う人」
金持ちは憧れるが考え方は好きくない。そう思うながら慎重に運転する。和田さんの言う通り大渋滞で全く進まない。右折は信号待ちするよりエンジンを切って歩道を押して渡った方が早い。男性陣二人は軽々バイクを押すが私は柄も小さいし遅い。信号を渡ったところでバイクを止めた春樹さんが走って戻り一緒に押してくれた。こんな時に非力な自分が不甲斐ない。
やっと目的地に着いた。和田さんがヘルメットを脱ぎインターホンを押し
「お待たせ致しました!ラッキーピザでございます」
『はい』
春樹さんと私は保温BOXからピザを出すのに忙しい。すると事務所から大柄な男の人が出てきた。
ダークグレーの三揃えスーツを着た凄い男前だ。黒い髪に黄色のメッシュを入れた短髪で眉が濃く琥珀色の切長の瞳をしている。見た目は若くみえて私と変わらないかも。そっか下っ端ね!
「急な注文を受けて頂きありがとうございます。伺っていたより早いですね。お〜い!早く店員さんから受け取り運べ!」
「「ん?」」
春樹さんもこの男前を下っ端だと思っていた様で固まる。
すると体の大きい男性が数名来た。見た感じ恐らく獣人だ。皆んな背が高く野性味あふれる男前ばかりだ。するとアラサー位の男性が
「若は中で座っていて下さい。我らが」
「否、俺が(ピザに)決めたんだから気にするな」
「「・・・」」
“若”と呼ばれている男前はそう言うとスーツのポケットからマネークリップを出し、パンパンに挟まれた札束から何枚か取り出し和田さんに渡した。
「無理を言ったのでチップです。店には内密にお願いします」
そう言い私にウィンクした。
『ちっぷ〜〜!』心の中で叫ぶ私!
和田さんも春樹さんもテンション上がり浮き足出す。ピザを運んでくれる警備会社の方々は流石警備員をするだけあり、動きに無駄が無く作業が早い。
最後のピザと山盛りポテトを渡し配達終了。
挨拶をして帰る事に。すると和田さんがヘルメットを被ったままの私と春樹さんに最後の挨拶くらい取るように注意し、慌ててヘルメットを脱ぎご挨拶する。
「「「ご利用ありがとうございました!」」」
「また宜しく…う?」
若様と呼ばれる男前は眉を顰め様子がおかしい。
「若。皆んな待っております」
「あぁ…すまん直ぐ行くから先に行ってくれ」
男前が会社に戻らないから私達は帰れない。困っていたら男前と目が合った。その瞳は戸惑っている。若様この短時間に何かあったのかぃ?
意を決した和田さんが失礼しますと言いやっと帰れる事になった。
ヘルメットを被りまた3人連なって帰る。
疲れた…でもチップ貰えたから良しとしよう!店に戻りバイクを置き場に着いたら和田さんが震える手でポケットから何か出した。
「流石だよ虎谷の若様。チップに10万くれたよ」
「「マジで!」」
固まる3人。流石に多過ぎて怖くなってきた。すると和田さんがいつもは5人体制なのに急遽5人応援に来ている。計10名だ。
「俺今から店長に掛け合ってくる。運んだ俺達だけでなくキッチンも大変だったんだ。皆んなで分けよう」
「確かに…私和田さんに賛成!」
「俺も同じく!」
こうしてこの日携わった10人は1万円チップをいただき、それが後日エリアマネーシャーにバレて怒られたのは言うまでも無い。
やっと一息吐きタイムカードを通し更衣室で着替えていたらバイト仲間の美紅と一緒になり途中まで一緒に帰る。すると
「伽奈が羨ましい!虎谷の若様に会ったんでしょ⁉︎カッコよかった?」
「今まであった中でダントツだったよ」
「あのお方は獣人を纏める虎人の次期当主だよ。噂ではもうすぐ成人されるのにまだ婚約者を決めてないんだって」
「マッチングはしてるんでしょう?」
「リストに名が上がっている女性は必死らしいわ。でもご本人が乗り気じゃ無いみたい」
「ふぅ〜ん」
正直興味ない。私とは住む世界が違うし、今後接点なんてある訳ないからどうでもいいわ。すると私を凝視した美紅が
「伽奈!ピアス緩んで取れそうだよ」
「えっ?」
耳朶に触るとピアスは取れてしまった。慌てて付け直す。美紅お礼を言い丁度別れ道に来たのでそこで別れて帰った。
家に帰りすぐお風呂に入り早めにベッドに入る。明日は着ぐるみのバイトの初日だから遅刻できない。
頑張って稼いで貯金しないと!目指せ私の明るい老後!
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。