表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

19.交換

若様に手を取られ困っていると…

"パシ"

「へ?」


神田さんが若様の手を払い固まる若様と私。他の人も唖然としこっちを見ている。そして


「オーナーとはいえ、握手以上の接触はセクハラですよ。稀衣さんが困ってます」


神田さんは獣人の若様に臆することなく意見する。若様は手を離し神田さんの方を向きじっと見据える。若様の秘書さんは青い顔をし固まり、いち早く再起動した社員の和田さんがフォローする。このカオスな状況を打破する術が無く困っていたら、エリアマネージャーが遅れて来て控室のドアを開け一瞬固まりまた扉を閉めてしまった。他の社員さんがすぐ扉を開けてエリアマネージャーをひぱって来る。顔が引きつるマネージャーは他の社員さんから状況を聞き若様に謝罪している。

1人孤立してしまった神田さんに手を差し伸べて、「ありがとう」と呟くと


「神田さん、稀衣さん」


若様に呼ばれ振り向くと、若様は胸に手を当てて謝罪した。先ほどと違い表情を緩めた神田さんは謝罪を受け入れたので、私も受け入れて終わりにした。


やっと和んだ所でエリアマネージャーがお店の買収の経緯を話し始めた。オーナーが変わっても店舗名や雇用形態は変わらないと話した。それを聞きスタッフは安堵の表情。一頻説明が終わると皆んな持ち場も戻って行った。オリエンテーションが終わった神田さんは一番簡単な配達のサポートに決まり持ち場に行き、私も自分の担当の持ち場に行こうとしたらエリアマネージャーに呼ばれる。


奥の事務室にマネージャーに連れて行かれるとやっぱり若様がいた。


『もうこのバイトは辞めないといけないかも…』


退職を覚悟するとエリアマネージャーは資料を若様に渡し足早に退室した。事務室には若様と秘書。2人共大柄で押さえつけられたら抵抗は無理だろう。最悪の事態を想定し左手首の数珠に手をかけると


「貴女に無体な事はしませんから安心して下さい。私はただ貴女と話がしたいだけなんです」

「私は話す事は何もありませんから」


冷たくそう言うと、悲しそうな表情をした若様は


「恐らく昔の話を聞き、私達獣人をよく思っていないのでしょう」

「…」


否定も肯定もせず黙っていたら秘書がペットボトルのお茶を渡してくれた。警戒心Maxの私は受取ったが飲まずにテーブルに置いた。すると少し悲しそうな顔した若様が何か言おうとした時、同じ作業をしている住田さんが様子を見に来てくれた。


「作業がありますので失礼します。個人的プライベートな話はバイト中は止めて下さい」

「こうでもしないと貴女と話す機会が無い」


言われればそうなんだけど、おばあちゃんから接触しないように言われているし?


『そもそも何で接触したらダメなんだろう? 彼らは積極的だが基本紳士で乱暴な事や暴言は吐かない。接触は口説く為なのは分かっているが、合って話すくらいならいいのでは?』


そう思ってしまった。振り返り若様に


「取りあえずこういった事は止めてください。日常生活がままならない」

「では話す機会を俺に下さい」

「えっと…」


確かに話す機会が無ければそうなるのも分かる。でも私一人で判断できる事では無くて…

困っていると若様はスマホを取り出し


「連絡先の交換をしてもらえませんか。勿論頻繁に連絡しません」


ずっと避け続け付きまとわれるより、ルールを決めて最低限の接触をした方がいいのかもしれない。

それに仕事の為ではあるが、遊園地のオーナーには連絡先を教えている。この人たちなら調べれば私の連絡先くらい簡単に入手できるだろう。それをしないのは彼らの誠意なのかもしれない。

目の前のオーナーは両手でスマホを握りしめ返事待っている。溜息を吐き


「連絡先は交換しますが基本私からはしませんし、必要な用件で無い時は遠慮なく切ります。そしてしつこい時は拒否しますから」

「約束は必ず守ります」


こうして連絡先を交換すると若様は大きな体を丸め、スマホのディスプレイを嬉しそうに見つめる。あまりにも若様が嬉しそうなので、避けていた事にほんの少し罪悪感を感じてしまう。


“コンコン”


扉を見るとまた住田さんが様子を見にきてくれた。まだスマホに齧り付く若様は放置して、秘書さんに持ち場に戻ると告げ住田さんと作業に戻る。


「伽奈お疲れ〜交代だ」

「あっもうそんな時間?」


時計を見ると時間21時半になっていて、遅番の大学生の弘人さんが来た。連絡事項を伝えて更衣室で着替えタイムカードを押す。通用口に向かうと扉前に神田さんと若様が居た。


「伽奈!」


神田さんが先に気付き走って来る。そして私の手を取り若様の横を通り過ぎようとすると、若様が私の髪に触れ微笑んだ。美形の微笑みは眩し過ぎて目が眩む。舌打ちした神田さんは足早に店から離れ、大通りに出ると何故か隼人が居る。隼人は私を見て表情を緩めた。


「ごめん。(虎谷の)若様に会った」

「神田から聞いている。ピザ店の買収は直前まで秘密にされ、我々でも把握できなかったんだ。仕方ない。お前のせいではないから気にするな」

「あ…うん」


ずっと不機嫌できっと怒られると思ったから、隼人の反応が意外だった。帰りは隼人もいるし若様と連絡先を交換した事で、付きまとわれる事は無いと判断し、バスでは無く歩いて帰る事にした。

家に着くとおばあちゃんが待っていた。隼人と神田さんにお礼を言い別れる。

てっきりおばあちゃんからまた説教があると思っていたが、おばあちゃんは早く休むように言い部屋に戻って行った。拍子抜けし部屋でだらしなく寝転がっていたら


”ぴろ~ん”


メッセージが届く。直ぐ確認したら若様だ。デフォルメした可愛い虎のスタンプで【感謝】と【感激】が送られてきた。大柄の若様がこのスタンプを選んでいる所を想像したら笑え思わず頬が緩む。


こうして無事?にピザ屋のバイトを終えた。週末は久しぶりに遊園地のバイト。それよりオーナーの話が何なのか分からず少し怖い。


「この先どうなるのかぁ…」


行く先が見えず不安が押し寄せる。溜息を吐いていたら神田さんからメッセージが入り、明日は隼人と神田さんが迎えに来るらしい。もう若様が付きまとう事は無いはずだから、必要ないと送り返すが念の為と押し切られた。もやもやしながらスマホで動画を見ていたらそのまま寝落ちしてしまった。

お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。


『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ