14.婿入り
虎谷の若様の包囲網が強化されていく中。隼人に頼るのも苦痛な伽奈にまた新たな問題が…
「…」
地下通路を歩くがずっと無言で気まずさMAX。胃が痛くなったきた。先日は隼人は別行動だったのに、今日は一緒に地下通路から帰る。気まずくて気が付くと早足になり疲れてきた。隣を歩く隼人を見ると余裕でイラッとすると、やっと出口が見えきた。そしてずっと無言だった隼人が
「熊川先生は敵ではないが、味方でもないから油断するな」
「どういう事?」
「綾子様に聞け。俺から話せる話じゃない」
上から目線にまたイラッとすると出口の扉が外から開いた。そこには隼人に似た中年の男性が。恐らく隼人の父親だろう。
「お帰り。遅かったな」
「熊川の邪魔が入ったんだ」
「ほぉ…」
隼人のお父さんはそう言いスマホを取り出し何処かに連絡をする。私は隼人に手を取られ大通りに出ると
「ここからは自分で帰れるだろう」
「あ…うん。ありがとう」
返事もそこそこ隼人は家に戻っていった。疲れ切った私は足取り重く家に向かう。隼人の家と家はそんなに遠くなく10分ほどの距離だ。やっと家に着くとお母さんがいて今日あった事を話すと
「前に話したとおり、お母さんは力が弱く稀衣家の事は詳しくは教えてもらっていないの。でも熊川家の名は知っているわ。伽奈と同じでお母さんのクラスにも熊川一族の婚約者がいて、付きまとわれたから」
どうやら熊川家とは色々ある様だ。しかし詳しい事はおばあちゃんしか知らないみたい。
一頻愚痴を聞いてくれたお母さんは、夕飯の準備をしにキッチンに行き私は部屋へ。お菓子を食べながらスマホを見ていたら着信が。ディスプレイには【鬼オーナー】の文字が。
スマホ片手に固まる。でも着信音は鳴り響き仕方なく
「はい」
『良かった出てくれた。ごきげんよう。鬼頭です』
「ご機嫌でないです。用件は?」
『バイトの返事をいただきたくて…いえ貴女の声が聞きたかった』
恋愛小説の男主人公の様な甘いセリフに思わず電話を切ってしまう。すると直ぐにまた着信。
「この電話は仕事の要件のみで、口説かない約束です。次約束を違えたら着信拒否しますよ」
『申し訳ない。約束は守ります。今回は見逃して下さい』
仕方なく用件を聞く。っていうかバイト継続の返事を丸っと忘れていた。ここ数日虎谷の若様に付きまとわれ、それどころでは無かったのだ。
「えっと…バイトの条件は同じですか?」
『本当はもっと色を付けたい所ですが、それをすると伽奈さんが気負われるしょう。ですから同じで。ですがもしご希望があれば出来得る限りお応えしますよ』
「えっと…そのままで」
オーナーの言う通り変に優遇されても気を使うし、他のスタッフに変な目で見られたくない。それに長く務める気はないので…
「それから私を充てにしないで後任をさがして下さい。暫くは勤めますが…」
『その辺は追々相談という事で。約束通り伽奈さんがバイトの日は接触は致しませんから』
ちっちゃな責任感を捨てれきれなかった私は、着ぐるみのバイトを当分の間引き受ける事にした。バイト代もだけど案外着ぐるみで子供達と接すのは楽しいもん。こうして次の週末からバイトを再開する事になり、オーナーと勤務内容を再度確認をしていると
『虎谷が学校の周りをうろつき困っている様ですね』
「何でそれを?」
どうやらオーナーに監視されている様で、私の行動は筒抜け。ストーカー行為にテンションが下がると
『獣人は単純なので思考より行動が優先される。それは相手が自分に好意があればよいが、無い場合は迷惑行為でしかない。私共妖はそんな愚かな事はしません』
そう言い虎谷の若様を揶揄した。そして(私が)望めば学校周辺から獣人を排除するという。獣人の朝の凸が無くなるのは嬉しいが、それで妖と距離が近くなるのも考え物だ。暫く考え無言になると
『今の提案は無償で見返りを望んではいません。ただ貴女の周りに獣人がうろつくのが私が嫌なのです』
結局(学校の件の)返事をしないままオーナーとの電話を終えた。どっと疲れてベッドに寝転がると、同じクラスの俊介からメッセージが届く。俊介も私と同じでマッチングする獣人も妖も居ないお落ちこぼれで、仲間意識があり案外仲がいい。ぼんやりしながらメッセージを読むと
『最近朝に獣人が門に居るのは伽奈と関係ある?』
突然の質問に固まると、続けてメールが入り
『高1の校外学習で話していた婿入りの件ってまだ有効か?』
「むっ婿入り⁈」
突然の話に頭がショートしてしまった。そんな約束した記憶がない。俊介の質の悪いドッキリか?
『いやいや。超硬派の俊介がそんな質の悪い事する訳がない。きっと私が軽い気持ちで何か言ったんだ』
必死に思い出すが軽口なんて覚えている訳も無く益々迷宮入りしていく。取りあえず何かヒントが欲しくて、1年の校外学習でおなじグループだった梨花に探りを入れた。すると
『あ…そんな話しオリエンテーリングにしてたね』
「え?私なんて言ってた?」
俊介は3人兄弟の末っ子で、お姉さんもお兄さんも妖と結婚している。お兄さんが妖でも位の高い妖狐の分家の女性を妻に迎え、両親共々お嫁さんの実家に世話になっているそうだ。居候になった俊介は高校を卒業と共に家を出て調理師の専門学校へ行く事を早くから決めている。そんな話を聞いた私は何の考えも無く
『じゃぁウチの洋食店に婿に来る?』
っと言ったそうだ。一緒に居た梨花が覚えているから、本人に記憶になくても言ったんだろう。
『俊介はマジ硬派じゃん。あの時私さー俊介が間に受けてないか心配したんだよね。あ…もしかして俊介に何か言われた?』
「え?何かって?」
情報通の梨花の話ではお兄さん夫婦に子供ができたそうで、益々居心地が悪くなり今は週の半分は友達の家を泊まり歩いているらしい。
『まぁ…話の分かる奴だから、その気がないならはっきり振ってあげなよ』
「マジに告られたらそうする」
詳しい事を言える訳も無く茶を濁し電話を切った。W若様だけでも手一杯なのに、これ以上問題が起きたら私潰れるよ!誰か助けて!
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