13.養護教諭
虎谷の若に付きまとわれ、学校生活が危うい伽奈。今日は無事に登校できるだろうか?
「今日も隼人君を頼りなさい」
「あ…うん」
学校に行こうと玄関で靴を履いていると、おばあちゃんが来てそう言った。でも正直言って隼人って苦手なタイプだし、関わりたくないんだよね… でも虎谷の若様に絡まれるのも嫌だし仕方がないと自分に言い聞かせ家を出た。
「やっぱり居る」
正門には虎谷に若様が乗る黒づくめの高級外車。仕方なく抜け穴に向かうとそこには子分の黒服がおり、隼人に頼らないように新しい抜け穴に行くとそこにも黒服が。大きな溜息を吐いて、遠くから学校を眺めていたら
「やっぱり獣人は鼻が利くな。速攻で新しい抜け穴見つけるし」
そう言い頭をかきながら隼人が登場。困っている私を見るなり手を引いて歩き出した。でも何故か正門に向っている。取られた手を引っ張り立ち止まると、隼人は顔を近づけて
「綾子様から数珠をもらっているだろ? そこの角を曲がる前に、数珠の真ん中の朱色の石を強く押せ。数分なら目晦ましにはなる」
確か前にコンビニで若様に挟み撃ちにされた時に、ピアスを押し数分姿を隠す事が出来た。どうやらあれと同じ原理の様だ。そして角まで来て隼人の掛け声で数珠を強く握ると隼人は私の手を離し
「俺の後をついてきな。声を出さなければバレないさ」
「わっ分かった」
緊張しながら隼人の後ろを歩く。そして門まで来ると若様が車から降りてきた。でもきょろきょろと辺りを見渡し、隼人の後ろを歩く私に気付いていない様だ。でもまだ油断できず吐きそうになりながら校門をくぐり、やっと下足室に着いた。ここまでくれば門から私は見えないし、部外者は校内に入って来れない。
上履きに履き替えると緊張しすぎて膝から崩れた。へばって座り込むと丁度出勤してきた養護教諭が、慌てて駆け寄り手を貸してくれた。隼人は何も無かったかのように上履きに履き替えて教室へ行ってしまった。
確か養護教諭は熊川先生。獣人と結婚した後も教員をしている珍しい人だ。熊川先生は大丈夫だと言ったのに念の為だと言い、そのまま保健室に連れていかれ1限目を休む事になった。そして保健室のベッドで休みながら、これからの事を考えていた。
『毎日あれじゃ体がもたない。それに私は何もしていないのに、なんで逃亡者の様に逃げ回らないといけないの!』
そう考えると段々腹が立って来た。若様と対峙し面と向かって嫌い宣言をし
『付きまとうな!』
と拒絶した方が良いのかもしれない。それに苦手な隼人の世話になるのも癪だし… そんな事を考えていたら、熊川先生がベッドに来て体調を確認する。そして唐突に
「稀衣さんはもうお相手は決めたの?」
「?」
「高2が一番お見合いが多く、悩んでいる子が多いのよ。稀衣さんもそうなのかなぁっと思ってね」
どうやらお見合いで悩んでいると勘違いされたようだ。妙に心配する熊川先生は力になると言ってくれたが、ウチの事情を話せる訳もなくバイト疲れだと言い誤魔化した。すると先生は
「私は何があっても貴女の味方よ。いつでも頼ってね」
「はぁ…ありがとうございます」
そう言い2時限目から教室に戻る。するとクラスの陽キャ&ミーハーな女子が、連日門で待ち伏せする虎谷の若様の話をし騒いでいる。その様子を冷ややかな目で見ている男子。そうこの高校は人が通う学校で獣人や妖はいない。生徒の殆どが獣人や妖との縁組を望み、玉の輿や逆玉の輿を狙う者達ばかりなのだ。
『代われるものなら変わってあげたいよ』
そう思いながら机で一人スマホで動画を見て時間をつぶす。こうしてテンション低いまま放課後を迎え帰宅時間になる。
いつも火曜はバイトだが昨日代わった子が復活し、代わりに入ってくれるので暇になった。
トボトボ廊下を歩いていると隼人からメッセージが届き、また焼却炉で待っていると言う。隼人の世話になると思うと気が重い。
すると前から昨日勝手に私の写真を撮った別のクラスの女子が歩いてくる。そして接点も無く挨拶すらした事が無いのに、一緒に帰ろうと言い腕を絡めて来た。その子は私より背が高い上に力も強く振り切れそうにない。困っていたら
「稀衣さん。保健室まで来てくれる?」
「あ…はい」
声をかけられ振り返ると熊川先生がいた。直ぐに女子の手を払い熊川先生についていく。取りあえず危機は脱したが、ここからどうやって焼却炉まで行こうか悩んでいると
「あの子は3組の田中さんでね、寅族の男性と1年の終わりに婚約が決まったそうなの。恐らく虎谷家からの依頼で稀衣さんを虎谷の若に会わせたいみたいね」
「へ?」
まさか先生がそんな事を言うなんて思っていなくて固まっていると保健室に着いた。そして熊川先生に促され保健室に入るとお茶を入れてくれた。
私は先生の意図が分からず、とりあえず静観していると
「私は人だけど夫が熊族の分家の跡取りで、代々熊族の当主の側近とし仕えてきた家なのよ」
「…」
未だ真意は分からないけど熊川先生の接近は夫の実家から指示である事が分かった。結局私は獣人と妖に狙われ続ける運命なのかもしれない。私は稀衣の家に生まれた時から自由何てなかったのだ。そう思うと血の底までテンションが落ち俯いてしまった。
"ピコン"
メッセージが入りスマホの画面には隼人の名が… 恐らく焼却炉に来るのが遅く連絡してきたのだろう。でも気力も無くなった私はメッセージを無視した。すると
「あら…誤解させてしまったわね」
「?」
顔を上げると熊川先生が私の手を取り微笑んで
「貴女の味方って言ったの覚えている?」
「…」
答えない私に先生は苦笑して熊族の意図を話してくれた。先生の話は驚く事ばかりで、俄かに信じられず固まってしまう。
「お前無視すんなよ!」
そう言い隼人が保健室に飛びこんできた。そして熊川先生を見るなり冷ややかな視線を送り
「こいつはつい最近知った所だから、接触は待って欲しいと言った筈ですが熊川先生」
「あら、早かれ遅かれ知らなければならない事。それに人はいつまで獣人と妖に罰を与え続けるの」
「あんたも人だろう。それに先に事を起こしたのは獣人と妖だ」
隼人が先生に噛みつくと先生は
「私は人種関係なく正しいと思う事をするだけだわ。夫が獣人だからではないのよ」
もうキャパオーバーの私は2人の会話の内容が全く分からず、只々二人の言い合いを見ていた。どんどんヒートアップした来た時に、保健室の内線電話が鳴り先生が出ると…
「職員会議が始まるからあなた達は帰りなさい。勿論秘密通路からよ」
「やっぱ知ってたのか…」
苦々しい顔をした隼人がそう言うと、私と隼人は先生に手を取られ保健室から追い出された。そして機嫌の悪い隼人に引っ張られ下校した。
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