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おうとかのじょ2


「ヴぉえ…」


「ほら、タオル」


隣に座る彼女が吐いたため、口を拭くのにタオルを渡す。

彼女はありがとうと間の抜けた声で礼を言いながら、口をごしごしとタオルで拭く。強く拭きすぎて口回りが真っ赤になってしまっている。


「そんなに、強く擦んなよ。ゲロ染みるぞ?」


「わがっでる…ぅおぇっ」


拭いてるそばから彼女の口から溢れてくる嘔吐物。彼女は特殊なビョーキで嘔吐が止まらない。一日中ずっと吐き続けている。

しかし、本人はゲロを吐く以外はケロッとしたもんで、家のなかで吐きながらゲームしたゲロをぶちまけながらトランポリンをしたりと元気そのもの。


だが、今日ばかりはその元気もない。それは、彼女の大嫌いな病院で検査の日だから。

原因不明のこのビョーキは彼女が幼少の頃からずっと続いているらしく、定期的に病院で検査をしている。

彼女は病院の検査が大嫌いでたまらない。



だから、待合室では普段の元気さ加減からは想像もつかないほどテンションがだだ下がりしている。



「……帰りたい」


「はいはい」


隙あらば帰ろうとする彼女をなだめすかす。そして、いつも通りの検査をすまして、医者から「さっぱりわからん。吐き気止め処方しとくね」の言葉を聞いてらっとのこと解放される。


車で家に帰る途中の彼女は解放感から大量のゲロを噴出。瞬く間に用意したゲロ袋を10袋をパンパンにした。


「んへへ~やっと家に帰れるよ。あー、最の高」


「よかったな」


彼女が不精してゲロ袋に吐かず、垂れ流しにしないかという不安を抱えながら運転をする。

赤信号で止まっていると彼女が歩道を歩く若いカップルを見つめていた。その目は羨望でいっぱいだった。まだ、20代の彼女。ゲロを際限なく吐くというビョーキのせいでまともに外を歩くこともできない彼女は病院へ行くために外へ出る度に、外を歩く人を羨ましそうに見つめる。


本当なら彼女だって、外を自由に歩いて、美味しいものを食べて、景色を見て、友達と遊んだり、恋人、俺とデートをしているはずだったんだ。


「…おえ」


「袋に吐けよ」


彼女の口からボタボタ溢れたゲロは彼女の膝を汚す。ついでにシートも汚した。

臭くて汚いだけのはずのゲロが涙に見えた気がしたから俺は末期なのかもしれない。


「なぁ」


「んー?」


「好きだよ」


口をついて出たのはなんとも間抜けな言葉だった。俺の力じゃ彼女を外で思いきり遊ばせることはできない。だから、せめてその辺のカップルと同じような言葉を交わしたかった。

彼女はゲロのついた口の端を上にあげて、目元をふにゃふにゃに歪ませて笑った。


「今は運転中だからチューできないねー」


「今されたら事故る自信しかない」


「んへへ。じゃあ、チューのかわりあげるね」


そう言って彼女は膝の上に溜まっていたゲロを人差し指で掬うと俺の口に塗った。


「~~~っっっっっっっ!!!!!!!」


時間が経って冷めたぬるぬるのゲロの感触の気持ち悪さといったら、表現のしようがない。

ハンドル操作を誤らないように体だけは平静を保ちつつ、隣でにやにや笑ってる彼女を睨む。



「私のこと好きならゲロ間接チューくらいいいじゃん?」


好き=ゲロ間接キスが許されるわけではないと小一時間キレた。

が、通じてない上にはまったのか、隙あらばゲロ間接キスを繰り返してくるようになった。


このブームがはやく去ることを毎日祈るようになった。

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