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世界の端へ行こう  作者: のじか
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始まりの神社

 坂を下っていく。蝉の声が未だ波打つ鼓動をかき消している気がする。神社はすぐそこだ。


 もやもやと熱を発するアスファルトの上を少し速足で行きながら、家々の隙間から神社の片鱗を見つけ、颯太はそれから殆ど目を離せなかった。


 Tシャツの下が少し汗ばむ頃、颯太は境内の入口にたどり着いた。



 住宅に挟まれながらも、そこだけはかなり太い木々に覆われていて、随分昔からそこにあった事が分かる。境内はそこだけ土がむき出しで、道路との境界線がくっきりしている。


 颯太の前には十段くらいの古びた石の階段があり、その先にこれまた古びた石の鳥居が立っている。


 まだまだ日が高いのに、鳥居の先に見える境内はほの暗い。


 そこから僅かに流れてくる風も、何故だか少しひんやりしていて、颯太は背中がぞくりとするのを感じた。


 「ちっさ……」


 鳥居の前まで階段を上り、思わず呟く。鳥居は颯太の記憶より一回りほど小さかった。


(最後に来たのはいつだろう?正確には思い出せないけど、多分小2か小3くらいだったかな)


その頃まで颯太は、近所に住む従兄やクラスメイトと共にこの境内を遊び場にしていた。

まるで隠れ家のようで居心地が良かったのだ。


 右手に持ったスマホをもう一度握り直し、鳥居をくぐって奥に進むと、そこにはこれもやはり記憶よりも狭い境内と小さな社が見えた。


 湿気を帯びた地面には、木漏れ日がくっきりと表れている。


 境内の中央で、念の為辺りを見渡してみた。


 記憶との多少の違いはあるけれど、蝉が鳴き続け、時折車の通る音が響くこの慎ましい場所に、特に変わった所は見当たらない。


 勿論、颯太も一体どんな異変を期待していたのか自分でもよく分からなかった。


 まさかあの黒い蛇のような煙のようなものが、とぐろを巻いているところに出くわすとでも?

 

 ふうっ息を吐きだし、颯太の心はようやく少し落ち着いたようだった。


 ここに何も無くても、飛び出した家にすぐ戻るのも嫌だ。


 何となく颯太は社へと近づいてみる。


 正面から見ると、社は土台の石垣部分から全体的に少し右に傾いているようだ。


 灰色がかった古びた木で出来ており、屋根は苔が覆っている。格子扉は一部欠けているが、中は真っ暗で見えない。


 社の両隣には稲荷神社らしく2体の狐の石像がある。


 正確に言うと、まともに狐の形を残しているのは、向かって左の石像だけで、向かって右の石像は台座と狐の下半身がわずかに残っているだけだ。

颯太の知る限り、この石像は随分昔からこの状態だ。

 

 社の石垣の端に腰かけて、スマホを見る。


 しかしあまり充電が残っていないことに気づき、落胆した。

他の選択肢も考えられなかったので、仕方なく颯太は家へ戻ることにする。


 腰を上げ、社を背に鳥居に向かって歩き出そうとする、その時だった。

 

 「ギイッ」


 何かが軋む音がした。


 颯太は振り向こうとしたが、それとほぼ同時に突然金縛りにあったように体が固まって動けない。


 手からスマホが滑り落ちた。何かが手足を縛り付けているような感触がある。


 大きく息を飲む頃には、視界は真っ暗闇に包まれ、そのまま意識も遠のいていく。


 そして颯太自身が、この場所から忽然と消えてしまった。


 後に残ったのは、何事も無かったように静寂を携えた社と、狐の石像の足元に転がった、颯太のスマホだけだった。


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