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魔力があるならゴーレムに注げばいいじゃないか。  作者: エノキスルメ
第一章 来訪者たちは異世界に迎えられる。
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第14話 ケレンを発つ。

「彼がシエールを治めているエルランド・ティエリー士爵、そして彼が子爵領東部の都市ソベラートを治めているビリエル・デフォー準男爵だ」


「お初にお目にかかる、来訪者リオ殿」


「よろしく頼む、リオ殿」


「は、はい。よろしくお願いします」


「ああ、それからあっちにいるのがソベラートにほど近いベリオ村を治めるイェスタ・アスラン士爵だ。それからあれが……」


 ここは開拓の成功を願い、開拓団を激励するために開かれている晩餐会の会場。


 主役は開拓団の幹部たちで、来訪者である僕とマイカも参加し、さらに子爵領内の街や村の領主たちもケレンに呼び集められている。

 その中で僕は今、ルフェーブル子爵に連れられて挨拶回りに追われていた。この晩餐会には、どうやら子爵領の下級貴族たちと来訪者を知り合わせる目的もあるらしい。


 けど、誰がどこの街や村を治めている何という貴族かを一度に全て覚えるのは正直言って難しい。

 マイカは「元の世界では仕事柄よく人と会ったから、このくらいはすぐ顔と名前が一致する」と言っていた。後で覚え直すのを手伝ってもらおう。


「疲れておるな、来訪者リオ殿」


「あ、いえ……お気遣いありがとうございます。セドリック閣下」


 挨拶回りが終わり、会場の隅で一息ついていた僕に声をかけてきたのは、ルフェーブル子爵閣下の父上で先代当主のセドリック様だった。お互い自己紹介はさっき済ませている。


「フィルの奴に聞いたが、お主もマイカ殿も元いた世界では平民じゃったとか。このような貴族の集まりなど息が詰まるだけじゃろう」


 フィルというのは、フィリップ・ルフェーブル子爵の愛称だ。この先代様とモニカ夫人くらいしか呼ぶ人はいないけど。


「いえ、このような場に来訪者として出席させていただけることを嬉しく思います」


「じゃが、小領主どもがどいつもこいつも同じような髭面ばかりで覚えきれんという顔をしとるぞ?表情ですぐ分かる」


 ばれている。さすがは数十年間も貴族家当主として政界を生きた人だ。


「それは、その……申し訳ございません」


「はっはっはっ!よいよい。お主の役目は貴族の名前を覚えることではなく、あのゴーレムを使って北西部の魔物どもを狩り漁ることじゃ。開拓地から魔石の山が届くのを楽しみにしておるからの」


 そう言って笑いながら離れていくセドリック様。御年73歳でこの世界の人間としてはかなりのご高齢のはずだけど、活力にあふれている。


「先代様に気に入られたのか?やるじゃないかリオ殿」


 次に声をかけてきたのは、開拓団長のヨアキムさんだった。


「気に入られたというか、励ましの言葉をいただきました」


「昼間の模擬戦で見せたゴーレムたちの力は凄まじかったからな。先代様もあれで開拓成功の希望を見出されたのだろう」


 この晩餐会の前、貴族たちが子爵家の屋敷に到着した際に、僕のギフトのお披露目として大規模な模擬戦が披露された。

 その内容は、領軍の一個中隊30人が攻めてくる中で、僕がゴーレム5体を使って自分の身を守り切るというもの。

 その結果、全方位から兵士たちが全力で突っ込んでも、ゴーレムの防御が崩れることはなかった。


「ゴーレムたちが守りに徹した状態でもあの強さだからな。あれが本気の攻撃に転じたら、貴殿1人で子爵領軍の全軍に勝てるだろう」


 ヨアキムさんが物騒なことを言い出すけど、正直僕もそう思う。魔法なしの白兵戦だけなら、100や200の兵士を相手にしても僕のゴーレムが負ける気はしない。

 仮にも戦闘のプロであるはずの騎士や兵士30人を軽々と弾き返して無力化していくゴーレムたちは、その主人である自分でも少し怖いと感じたくらいだ。


「その力が敵だったら恐ろしいが、貴殿は開拓団の仲間だ。これ以上に頼もしいことはない。期待しているぞ」


「……任せてください」


 力強い目でこちらを見るヨアキムさんに、こちらも堂々とした表情で視線を返す。期待してもらってるんだ。これから結果で応えていかないと。


「あー!リオ!ねえリオ!」


 と、そんなとき、大人ばかりの晩餐会場では際立って目立つ、幼く高い声が近づいてくる。


「おっと、この会場で一番手強い方がいらっしゃったな。頑張れ、リオ殿」


 そう言って早々に離れていくヨアキムさん。一方の僕は、子爵家の一員として晩餐会に出席していたアリソンお嬢様に捕まる。

 あれから子爵家の屋敷に用事で足を運ぶことも多く、その度にねだられてゴーレムを動かして見せていたので、今ではすっかり懐かれてしまった。


「リオ!お昼の模擬戦見てたわ!あなたのゴーレムはやっぱり凄いわね!」


「ありがとうございます、アリソン様」


 その後もゴーレムが凄い、それを操るリオも凄いと喋りまくるアリソン様。こうなったらもうこちらはひたすら「ありがとうございます」「光栄です」と返しながら聞き役に徹するしかない。


 たっぷり5分はアリソン様の話を聞いただろうか。そこへ「ほらアリー、リオさんを困らせてはいけませんよ」と助けの手を差し伸べてくれたのは、子爵夫人のモニカ様だった。


 ようやくお喋りの勢いが収まったアリソン様だったけど、


「じゃあリオ、開拓を頑張って、ちゃんと生きて帰って来なさいね。そしたら私がお婿さんにもらってあげるわ!」


 と、去り際に無邪気な爆弾発言を落としていった。仮にも貴族令嬢、しかも雇い主の娘さんからの「婿に来い」宣言だ。笑えない。


「……私の知らない間に随分アリーに気に入られたのね、リオさん」


 いつもと比べても一層穏やかな笑みを浮かべるモニカ様から、なんだか凄みを感じる。


「……モニカ様、あれはアリソン様のほんのお戯れで、」


「うふふ、なんて冗談よ。お転婆なあの子はいつも突拍子もないことを言い出すものね。それに、あなたは自分の終身奴隷と恋仲なんでしょう?」


「え……はい、その……よくお気づきになられましたね」


 驚いた。モニカ様がカノンを見かけたことは数回しかなかったはずだ。


「恋する女なんて貴族も奴隷も一緒よ。視線や仕草を見ればすぐに分かるわ。あなたたち来訪者は家柄や政略結婚の話に縛られることもないのだから、隠さず堂々としていいのよ?少なくともうちのルフェーブル領は身分差にそれほどうるさくない土地ですから」


 子どもを作れない来訪者は、結婚や家などのしがらみとは無縁だ。

 人生の晩年には「ぜひうちの子弟を養子にしてあなたの家名を継がせてください」という誘いを色んな貴族から受けることになるだろうけど、それはまだ100年以上も先の話。


 なので、僕が愛情を注ぐ相手として終身奴隷のカノンを選んだことについて、少なくともこの領ではとやかく言う人はいない。今のところ。

 モニカ様の言葉通り、ルフェーブル子爵領が身分の違いに寛容なのもある。


「露骨に奴隷迫害をする人はあまりいないと思うけど、もしあなたがあの終身奴隷と生きる上で息苦しいことや困ったことがあったら、遠慮なく私たちに言ってちょうだい。うちの領内のことなら力になれるでしょう。せっかくうちの領地に来てくださったんですもの。不自由はさせたくないわ」


「……ありがとうございます。モニカ様」


 当主のルフェーブル子爵も、その一族や家臣の人たちも、いい人ばかりだと思う。この領に来てよかった。


――――――――――――――――――――


「行こうか、カノン」


「はい、ご主人様!」


 出発日の朝。僕とカノンが初めて2人きりで暮らした家を引き払う。

 これからは北西部の開拓地に拠点を置き、北西部にほど近い都市シエールと行き来しながら開拓を行うことになるので、ケレンまで足を運ぶこともしばらくないだろう。


 僕たちの荷物は着替えや日用品、生活用のいくつかの魔法具くらいで、それほど多くない。それも全てゴーレムに運ばせているから、僕とカノンはほぼ手ぶらだ。


 数軒しか離れていないマイカたちの家からも、ちょうど2人が出てきた。そのまま合流して一緒に集合場所の広場まで歩く。


「いよいよね。この世界に来てもう3か月以上経つけど、やっと仕事らしい仕事ができるわ」


「これまではひたすら移動や準備や訓練だったからね。子爵家からお金も居場所ももらってばかりだし、ちゃんと結果を出して返さないと」


「……ほとんど勢い任せでここまで来ちゃったけどさ、あたし結構怖いかも。ほんの数か月前まで日本で平和に暮らしてたのに、これから命の危険があるような場所に行くんだなって今さら実感しちゃって」


 と、不安げにこぼすマイカの横顔を意外な気持ちで見る。

 知り合ってから初めて彼女の弱気な言葉を聞いた気がしたけど、マイカだって現代日本で生きてきた普通の女性だ。

「開拓」なんていう未知の仕事を任されて、魔物がひしめく危険地帯に向かうのが不安じゃないわけがない。

 僕より年上で、いつもサポートしてくれるからって、少し頼りすぎていたかもしれないな。


「大丈夫だよ。僕がマイカもミリィもカノンも全員守るって。だって僕はかなり強いからね?」


 仲間に面と向かって「僕が守る」なんて言うのが恥ずかしくて、少しおどけた言い方になってしまった。

 マイカにも気恥ずかしさが伝わったみたいで、少し照れたように「強いのはリオじゃなくてゴーレムだけどね」と返された。


「でも、ミリィとカノンも大変よね?私たちに買われたから辺境の開拓に連れて行かれることになっちゃって」


 そう冗談めかして言いながらマイカが後ろを歩くカノンたちを振り返ると、


「そんなことないのです!ミリィはマイカ様にお仕えできて本当に嬉しいのです!こんなに幸せな終身奴隷は他にいないのです!」と、ミリィが熱烈に主張しながらマイカの腕に抱きついた。

 この2人も何だかんだですごく仲が良い。本当の姉妹みたいだ。


 微笑ましい気持ちで2人を見ていたら、カノンが僕の隣に並んで手を握ってくる。


「私も、自分が世界一幸せな終身奴隷だと思っています。この先どんな場所に向かうとしても、ご主人様のお傍でお仕えします」


「……ありがとう、カノン。これからもずっと一緒にいるし、もっと幸せにするね」


「ふふっ。今でも身に余るほどご寵愛をいただいているのに、もっと幸せにしていただけるんですか?」


「そうだよ?カノンには『世界一幸福に生きた終身奴隷』として歴史に名前が残るくらいになってもらうからね」


 そんな会話を交わしながら歩いているうちに、集合場所に着いていた。


――――――――――――――――――――


 開拓に必要な物資などは北西部にほど近いシエールへ集められることになっているので、今日は開拓団もまだ身軽だ。

 団長のヨアキムさんや護衛冒険者リーダーのヴォイテクさんなど数人だけが騎乗し、僕たち来訪者組や一部の重要メンバーは馬車に。他の人たちは徒歩で移動することになる。


「それでは、リオ殿もマイカ殿も頼むぞ。くり返しになるが、君たちはルフェーブル領の領民全ての希望だ。来訪者としての力を発揮してほしい。そして、どうか無事でな」


「ありがとうございます、閣下」


「必ずご期待に応えて見せます」


 開拓団の出発を見送るために来ていたルフェーブル子爵に声をかけられて、僕たちはそう返す。


「せっかく仲良くなったのに、もう行っちゃうのねリオ!パトリックお兄様も王都に留学しているし、また私が1人で退屈するじゃない!」


 子爵に付いてきたアリソン様は、今日も朝から元気だ。けど、口ぶりを聞くとけっこう本気で別れを惜しんでくれているらしい。お兄さんもケレンにいないし、きっと寂しいのだろう。


「申し訳ございません、アリソン様。ケレンに帰ったときは必ず挨拶にうかがいますね」


「ええ!約束よリオ!あと絶対に死んじゃ駄目よ!だって帰ってきたら私のおむモゴッ!?」


「ほらほらアリー、リオさんを困らせては駄目といつも言っているでしょう?」


 またアリソン様から爆弾発言が落とされそうになったところで、モニカ様が咄嗟に防いでくれた。よかった、子爵パパの目の前でお婿さんなんて言われなくて。


「リオさん、マイカさん。こんな僻地の貴族領に来てもらって、その上厳しい開拓に赴いてもらうなんて、どう感謝を伝えればいいか……」


「いえ、僕たちこそ、右も左も分からないこの世界で迎えていただいて、感謝してもしきれません」


「そうですよ。これからやっとご恩返しできるのが嬉しいです」


 今日も優しい言葉をかけてくれるモニカ様に、僕たちも本心からの感謝を伝える。


 全員の準備が整ったところで、ヨアキムさんが出発を宣言した。


「では、行ってまいります。ルフェーブル子爵閣下」


「ああ、ヨアキム。君たちの健闘を心から祈る」


 広場を出発して、ケレン西側の門へと進む開拓団一行。まだ朝も早いというのに、多くの住民たちが通りに出て僕たちを見送ってくれた。

 まず向かうのは、ルフェーブル領の西側にある都市シエール。そこから先は、いよいよ魔物がひしめく地になる。

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