表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の一手  作者: 井内鯉々
第一章
7/7

16 暗中に舞う

 ......もう対話の余地はなかった。


 数十の光が放物線を描いて広がっていく。


 まただ。

 また――余計な気を回して、トラブルに首を突っ込んでしまった。


 後ろへにじり歩き、後方を確認する。

 憎たらしい少女は、そそくさと集団の方へと退いていた。


 前にもあった。

 似たような状況で、似たような目に遭って――

 そのたびに「もう二度とやらない」って誓ってきたのに、喉元を過ぎればこのザマだ。


 陽光の差す吹き抜けに、一人。どこへも下がれない。

 闇の中を、ぐるぐると灯光が回る。


 そもそも引き下がって報告すればよかった。

 意地を張らずに会議室から出た後も、援軍の申し出でもしてれば。毬音さんにこの理不尽な任務の詳細を、押して確認してれば。

 扉も、毬音さんも、押せなかったのが間違いだった。


「悪い癖だよなぁ......」


 暗がりの中から、一匹の獣が飛び込んできた。先駆者だ。

 陽に晒され、痩せた体躯が露わになる。


 少年の着地に合わせて身を捻じる。少年の拳が空を切り、体勢を崩した。

 迷いなく脇腹に拳を叩き込む。音もなく、少年が崩れた。


 前方へと跳ぶ。

 ガス灯を構えた少年の顔が驚愕に変わる前に足を払う。

 落ち際のガス灯を拾い、尻餅をついた少年の胸に膝を落とした。


「ガハッ......!」


「おい、なんだこいつ!」


「距離が近い!散開して!!!」


 せめて何人か引き連れてくれれば、子供を殴る回数も減ったものを。


 少年を照らす。

 見すぼらしい布切れが皮と骨だけの肉体が覆っていた。

 ロクに食べれていない。これだから子供を殴るのは、嫌なんだ。


 橙の光の中、少年たちの顔が困惑と恐怖で染まっている。

 この子たち全てを、殺さず、収めなくてはならない。


 ――誰も殺すな。殺さず、収めろ。

 それが自分の甘さに巻き込んだこの子たちへの、せめてもの、償いだ。


 非常に気が滅入る。

 こうなったのも全部、全部―—


「ほんと俺の悪い癖だよぁ......」


 ◇


 十数回拳を振り下ろして、気づいたことがある。

 軍刀と手銃、今日は携行していなかったから苦労すると思われていたが、中々どうして順調だった理由。


 当て身で揺るがした身体に肘を入れ込んで、倒れた少年を確認する。

 先ほどから感じていた違和感。

 行動不能にした少年少女どれも、()()()()()()()()()


 おかしい。

 毬音さんからの依頼は武装ギャングの検挙だ。

 こいつらがアナキズムであることは間違いない――が。


 まぁ、何にせよ。


「楽で助かる」


 再び集団へ飛び込み、飛び蹴りで一人を薙ぐ。

 ガス灯を奪って吹き消し、後方へと放り投げる。


 よし、これで後は――


「違う!もっと囲い込んで!!!」


「おれだってば!痛いって!」


「よく見えねえ、灯り持ちはどこだ!」


 主戦場は明かり差す中央から離れつつある。

 ガス灯がなければ、あいつらの視界は利かない。

 どんどん統率が取れなくなってきているのを感じる。


 対してこちらは一人。

 多少視界が悪くても周りは全部敵だ。

 友軍発砲(フレンドリーファイア)は気にしなくていい。


 それに暗闇だと分かりやすい目印をつけてくれるやつがいる。

 残った灯は、あと一つ。


 集団の中を駆け抜け、灯を持つ少年に接近する。

「よう、疲れただろ。代わるよ」

 少年の手を引き、そのまま腹部に膝を打ち込んだ。


 少年が倒れ、灯りはこの手に。


 襟元のボタンを外し、マントを翻した。

 右手に持つガス灯を地面に振りかぶる。

 そっと目を閉じ、その時を待った。


 火花、油、炎。


 全員の目が火に引き寄せられる。

 その視線の隙を、マントで炎ごと覆った。

 酸欠―—即、鎮火。


 あたりは再び暗闇に覆われる。

 目を焼かれた彼らには、もう見えない。


「俺は見えるけどな」


 周囲の暗転を待って、目を開けた。


 全指揮系統が消えた。

 混乱と恐怖だけが残っている。


 さて、残った”司令官”はどこだ。


 周囲を見渡し、駆ける。

 広場の陽光に向かって、一人の影が逃げていく。


 振り返った少女と、視線が交わる。

 顔が歪む。


「その顔が見たかった。どうだ?」


「そろそろ、交渉する気になったか?」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ